devote for you
□ドラマ通りの
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数日後。
「ここ、よね.........」
ネットで調べた結果、意外と近くに紹介所?みたいな場所があることが分かったアタシは、さっそく電話を入れてみた。
すると、『持ってくるのは履歴書だけでいいよ!』というなんともアバウトな返事が返ってきたので、こうしてここに来たわけ。
「それにしても..........
ホントに『家政婦のミタ』みたい..........」
築何十年にもなりそうなその事務所は、まさにあのドラマに出てきた紹介所そっくりだった。
「もしかして、あのドラマここをモデルに紹介所作ったんじゃないよね?」
『家政婦のミタ』を見ていたなら誰にも思い付くであろう疑問を口にする。
とりあえずその疑問は置いといて、アタシは中に入ることにした。
ていうか..............
「.......なんでアタシが説明してんのよ。」
あ、やっぱり?
「当たり前でしょ!なんでいきなり一人称になってるんだって、読者が不思議がるじゃない!」
まあ、確かにそうですね。
「ちゃんとやってよ説明。アタシ説明なんてよく出来ないんだから。」
分かりました〜。というわけで、
弥生はドアノブを回した。
「......こんにちは〜........
うわ、ホコリくさっ.......」
思わず顔の前を手で払う。
一見しただけで室内は何ヵ月も掃除がされていない事が分かった。
しかし、日用品や机の周りにホコリが被っていない所をみると、どうやらこの事務所はわざと掃除をしていないようだった。
「なんでわざわざ掃除しないのよ............?」
弥生が不思議に思っていると、
「お、来たか。」
事務所の人間とみられる男性が奥から歩いてきた。
「僕が一応ここの紹介所の所長。
今日面接に来る弥生朝希って人は君だよね?」
「そ、そうですけど........」
「それじゃ、早速試験を受けてもらおうかな。」
「え、し、試験ですか?」
「そうだよ。家政婦さんとして働くのにどうして面接するんだい?雇うのは僕じゃなくてお客さんだよ?」
「ま、まあ、それもそうですね.....」
弥生が曖昧に返事をする。
一見平静を装っているものの、頭の中はパニック状態だった。
弥生はこのかた試験と名の付く物に成功したためしは無い。
高校も短大も常に落第ギリギリでパスし、定期の試験はほとんど赤点。
得意の家事すらも技術の名前を覚えていない物がいくつかあった。
ここでペーパーテストなど受けよう物なら確実に落ちる。
早くもピンチに陥った弥生は、キャパシティの無い頭で必死に解決策を考えていた。
(もしテストだったらお腹痛くなったって言って帰っちゃおう.......)
弥生が小学生レベルのズルを真面目に考えていると、
「じゃあまずはここを掃除してもらおうかな。」
「へ?」
「だから、掃除だよ。」
「え? そ、掃除、ですか?」
「そう。とりあえず奥の方はいいから、ここら辺を綺麗に掃除してくれ。必要な道具はこっちが貸すよ。」
「実技テストですか。」
「そう。」
(よ........よかったぁ〜。)
ほっと胸を撫で下ろす。
「その顔からすると、あんまり勉強は得意じゃないみたいだね。」
「はい。実はペーパーテストだったら本当どうしようかと思ってたんです。」
「ハハハ、大丈夫だよ。ペーパーテストなんてやらないから。」
「そうですか........良かったぁ〜。」
「それじゃ、始めるよ。制限時間は30分。
よーい、スタート!」
ストップウォッチが小気味良く鳴った。
「............よし。こんなもんかな。
終わりました〜」
「22分...........それでここまで綺麗にするとは..........」
「ど、どうですか?」
「うん、合格!君は家政婦さんとしてなかなかの腕がある!」
「よしっ!」
思わずガッツポーズをしてしまう。
「........その表情からして就活失敗してここに来たみたいだね......」
「あ、すみません..........」
無礼を働いた事に気付いた弥生は急いで頭を下げた。
「いいよ、別に。逆に景気が良かったら君が普通の会社に入って、その才能をいかせなかったかも知れないんだから。」
「そ、そんなに上手いですか、私?」
「上手いよ、ホントに。神様が家事の為に君を作り上げたような凄さだ。」
「そ、そうですか、アハハ........」
どこかで聞いたような言葉で誉められ、思わず苦笑いしてしまう弥生。
「アンタが言ったんでしょ、アンタが!」
「ん、なんか言ったかい?」
「い、いや、なにも!」
「そうかい?それならさっそく、希望をとるけど、何か意見はある?」
「希望って、なんの希望ですか?」
「雇い先だよ。君だってある程度働きた家とかあるだろう?」
「あ、いいんですか?」
「ある程度ならね。」
「それじゃ........男の子が居ない家にしてもらえます?」
「ん、分かった。確かに弥生さん美人だし、男の子が居たら変に意識しちゃうからね。」
「そ、そんなことないですよぉ〜............」
弥生が否定するも、そのニヤケ顔では全く説得力が無い。
「ほっとけ!」
「それじゃ、この家はどうだい?」
いくつかの資料の中から一つを手に取り、弥生に渡す。
「そこは時間帯がちょっと特殊でね。出勤はお昼の1時からだけど、その分21時頃まで働いて欲しいんだ。
そこなら経済状況もいいし、たくさんお給料も入るよ。
高校生の女の子が一人いるけど、
どうかな?」
「うーーん.........」
弥生は資料をパラパラとめくっていく。
あまり子供は好きでは無いが、高校生ならまあいいかと、弥生は引き受ける事にした。
「分かりました。ここにします。」
「そうか!それじゃさっそく明日から頼むよ!」
「ず、ずいぶん早いですね.......」
「その方がお金も早く入るし、良いだろう?」
「まあ、そうですけど........」
「明日からよろしく頼むよ!
あ、もうここには寄らずに直接行っちゃって良いからね!」
「あ、ちょっと!口座とか、契約とかは........」
「あとででいいよ!とりあえずは向かってくれ!」
「わ、分かりましたー........」
身だしなみを整え、弥生は出ていく事にした。