朝霧桜は百合色に

□繕い
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「ん、んん...........」



朝日が眩しい。



アタシは目を閉じたまま、手探りで目覚まし時計を探すが見つからない。



そこでようやく、自分がいるのは早織のベッドだということに気付いた。



「あれ?早織はーーーーー」



この部屋にはいない。だとすれば一階だろうか?


アタシはベッドから降りて部屋のドアを開け、階段をゆっくりと降りていく。




それにしても..........




「なんで、あんなことしちゃったんだろう.........」



絶頂に達した早織の顔が脳裏に浮かぶ。



いくらお互いが求めあったとはいえ、越えてはならない線を越えてしまった。



姉と妹が愛し合ってしまった。




許される事ではない。













「で、でも、下には手付けてないもんね。未遂だもんね。ギリギリ踏みとどまってるもんね。」



自分を正当化するように大声で言い聞かす。



昨日は確かにやり過ぎてしまったけれど、アタシは一枚も脱いで無いし、最後までいってしまった訳でもない。



まだ引き返せるはず.......そう、思っていた。







リビングに着いたアタシは、最初に時計を見る。


買ったばかりの真新しい掛け時計は、短針が既に真上近くまで上ってしまっていた。


「これじゃさっきのは朝日じゃなくて昼日ね...........」


つまらない冗談を一人で言う。


ふと、揚げ物の臭いが台所の方から漂って来る。


「早織..........台所かな?」










台所では早織が不慣れな様子で料理を作っていた。


アタシは話しかけようとするが、昨日のことを思い出して、思わずためらってしまう。



昨夜のアレは、どう説明すれば良いのか。


あの時は盛り上がってしまっただけで、本当に早織がアタシのことを好きなのかは分からない。



「軽い出来心なんです」と言ってやり過ごすか?


それとも、ちゃんとアタシの気持ちを説明して、早織の言葉を待つか?




アタシがどっちを選ぶか悩んでいると、料理をしていた早織が気付いて話しかけてきた。



「あ、理可。おはよう。」

「あ、うん、おはよう。」

「といってももう11時だけどね。全く、ねぼすけなんだから。」

「ごめんなさい。」

「いいけど、休みだからってずっと寝てちゃダメだよ?」

「これから毎日早寝早起きを心がけます。」

「分かればよろしい。」



早織が満足そうにうなずく。



「ところでさ、早織.......」

「ん?」

「あ、あのさ、え〜と、その、さ..........」

「なに?」



キョトンとした表情で、まるでなにがなんだか分からないという顔の早織。




もしかして.......覚えていない?



もしくは、昨日の出来事を無かったことにしたいのだろうか。



前者か後者かは分からないが、昨夜のことを掘り返したくないアタシは、その案にのることにした。




「今、なに作ってんの?」

「これ?とりあえず、生姜焼きを作ってみようかと思ったんだけど........」

「.........あのさぁ。」

「ん?」

「アタシも人にもの言えるほど料理が上手い訳じゃないんだけどさ........」

「うん。」

「..........生姜焼きは揚げるもんじゃ無いと思う........」

「そ、そうなの?」

「そうだよ!逆になんで揚げようと思ったのさ!名前についてるでしょ、生姜『焼き』って!」

「だ、だって、ただ焼いても普通の焼き肉になっちゃうんだもん.........」

「だからって揚げることはないでしょ!それになに、このプカプカ浮いてるのは!?」

「これ?これ生姜だけど........」

「................」



早織は料理の才能がすごかった。

きっとテレビの料理番組に出たら、その美貌も相まって大人気になるだろう。




絶対食べたくないけど。



「早織、チェンジ。アタシが作る。」

「あ、ありがと.........実はさっきから、お腹が空いてフラフラで........」

「え、朝食食べてないの?お母さんは?」

「朝早く、お父さんと二人で出かけちゃった.......新婚旅行だって言って、夜まで帰って来ないって..........」

「じゃあ、早織起きてからずっとご飯作ってたの!?」

「うん..........」

「すごいね、早織。マジでテレビ出なよ。売れるよ絶対」

「やだ.......それより理可、早く作ってぇ.......私もうダメ.....」

「分かった、分かった。野菜炒めでいい?」

「なんでもいいから、早くぅ.....」


早織の代わりに台所に立ったアタシは、菜箸で器用に生姜とお肉を取り出し、フライパンの中の油を大体捨てる。


キッチンの下の戸棚から包丁を取りだし、冷蔵庫にある野菜を適当にチョイスして、ざく切りにする。


そして油が残っているフライパンの中に野菜と醤油、ついでに生姜とお肉も入れて、強火で炒めた。



お母さんが仕事でご飯がないときに作っていた特製野菜炒めだ。


ぶっちゃけアタシはまとも(?)な料理はこれしか作れない。







.......本当に女子高生か、アタシ?




でも、早織はこれすら作れないんだから、料理においてはアタシの勝ちだ。



やっと早織より出来る物事を見つけたアタシは、ちょっと嬉しかった。
















.........誰だ今どんぐりの背比べとか言った奴は。



















「早織。出来たよ。」

「お待ちしておりました〜♪」

「正直他人に食べさせられるものじゃないんだけどね.........」

「いいよ、私は全然作れないんだから。生意気な事は言えないよ。」

「そうだけどさ.........」

「それに、私と理可は姉妹だもん。他人じゃないよ。」

「えっ..........」

「いただきま〜す♪」


早織が箸を手に取る。








そっか.........


アタシと早織は.........







姉妹、なんだ.........



今まであまり感じなかった、早織が自分の妹だという感覚。




おいしそうにアタシの料理を食べる早織を見て、妹がいる感覚をちょっとだけ味わえた。




















「ごちそうさまでした!」

「ごちそうさまでした。」

「お皿は私が洗うね。」

「え、いいの?」

「当たり前じゃない。人にご飯作ってもらって、そのうえ後片付けもやらないなんて図々しすぎるよ。」

「いいよ、アタシも........」

「いいって。理可は休んでて。」

「そう?それじゃ......お願いするね。」





早織が流し台でお皿を洗い始める。


さっきの料理ベタはどこへやら、手慣れた手つきで汚れを落としていく姿は、まるで家政婦さんかなにかのようだった。















「早織...............」


本人には聞こえない小ささで、早織の名をそっと呼ぶ。




昨日の事は、本当に覚えてないのだろうか?


もしそうだとしたら悲しいし、覚えていたのならもっと悲しい。



覚えているのならば、それは早織がアタシのことを拒否しているということだ。




正直、アタシはもう耐えられない。


もう一度、早織と一緒になりたい。


このまま仮初めの顔で暮らしていくのは嫌だ。






早織が愛しい。早織が欲しい。




絶対に叶わない恋心を瞳に宿して、アタシは早織を見つめていた。

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