朝霧桜は百合色に

□思い
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新しい生活が始まってから一週間。


アタシと早織はすっかり仲良くなっていた。


昼休みにはおしゃべりをし、帰ってからも夜遅くまで話し合う(まあ、遅くなるのは毎日毎日二時間も勉強するせいもあるが)。


最初アタシが考えていた心配は全くの杞憂だということが分かったのだ。



「あははは!それ、本当〜?」

「本当だって!授業中に寝るわ、字は汚いわ、あの先生最悪!
早織に教えてもらった方が数兆倍マシよ!」

「数兆倍って.......クフッ、それ......いくらなんでも......クフフ、言い過ぎでしょ........」

「笑いこらえてるけどさー、本当に早織の授業は分かりやすいんだよ? これからも教えてよね?」

「はいはい、分かりました。」




早織の笑顔が眩しい。


アタシにとって、早織はかけがえのない親友になっていた。





..........だけど、それでも親友。



妹じゃない。



どうしても、どうしても早織の事を妹とは見れない。



憲一さんはもうアタシの立派な父親になっていたのに。





早織だけが、どうしても.........
妹だとは思えなかった。

























土曜日の昼。


早織の部屋を訪れたアタシは、
前々から思っていた疑問を口にした。



「ねぇ、早織。」

「なに?」

「早織って、ヴァイオリン、弾かないの?」

「...........正直、今は持ってるだけで全然弾いてない。」

「どうして?早織は可愛いんだから、ヴァイオリンやったら絶対似合うよ?」

「.........そう、かな。」

「なんで、やらないの?」


早織に理由を聞く。


早織は一瞬躊躇ったあと、
悲しそうに呟いた。







「あれ、ね。亡くなったお母さんの形見なの。」



「あ...........」

「趣味でよく弾いてたらしいけど、私を産んでからすぐ、病気で死んじゃったんだって。」



「ご..........ごめん。変なこと、聞いちゃって.........」

「良いよ。知ってて聞いた訳じゃないんでしょ?理可は悪くないよ。」

「..................」

「...............あれ、近い内に処分しようかと思ってるの。」

「なんで...........?」

「もう、私には茜さんがいるから。ずっと持ってたら、茜さんに失礼だもの。」

「そ、そんなことないよ!
お母さんは、関係無いよ......」

「もう、いいの。決めたから。」



早織がにっこりと笑う。
その笑顔は、まるで無理して取り繕ったみたいで、アタシの心はちくりと痛んだ。







「それなら、せめて......」

「?」

「ここで、弾いてみてよ。最後の一回。」

「............分かった。」


早織が短く返事をすると、ケースを手に取る。


しばらくヴァイオリンの調整らしき事をしたあと、早織は立ち上がり、ゆっくりと弾き始めた。




柔らかな旋律が部屋を満たす。


これは........『エリーゼのために』かな?


クラシックに疎いアタシでも、それくらいの事はわかる。




体を軽く揺らしながら、ヴァイオリンを弾く早織。




華麗なオーラを備えたその姿は、女のアタシがみても美し過ぎる程だった。







..........なんで、だろう。




...........早織を見てるだけで、
すごく、ドキドキする。




今だけじゃない。 


早織と話してる時。

一緒にご飯を食べてる時。

勉強を教えてもらってる時。





いつもアタシは、早織に胸をときめかせている。




なんなの?この気持ち.......




これじゃアタシが..........






早織に........恋してるみたいじゃない..........


















「理可。終わったよ。
...........理可?」


「..........え? あっ!」

「............?」

「ご、ごめん、ボーッとしちゃって...........ヴァイオリン、ありがとね。」

「理可。」

「な、なに?」

「理可って時々、変にボーッとする時があるけど........なんで?」

「え、そ、そう?そんなにアタシ、ボーッとしてる?」

「うん。」

「そ、そうかなぁ..........」


アタシがとぼけたように考え込む。


するとーーーーーーーー





コツン...............





「熱でも..........あるの?」

「え、わ、ひゃ...........」




さ、早織が、自分のおでこを、アタシの額にーーーーー




早織の顔が、こんなに近くに........













「熱は............ないみたい。」

「あ、うん..........」

「本当にどうしたの?何か悩みでもあるの?」

「べ、別に........無い。」

「そう..........」

「あ、アタシ自分の部屋行くね!
ヴァイオリン、ありがと!」

「あ、うん、じゃあね。」




ガチャン。
タタタタタタ..........








「....................」

「.........理可............」



















自分の部屋に着いた私は、そのままベッドに倒れ込む。



身体中が、ボーッとして、熱い。




「これが.................恋?」



でも、アタシは女。早織も女。

それに、アタシ達は義理とはいえ、姉妹。



恋の訳ないし、恋だとしても絶対にしちゃいけない。


姉が妹に恋するなんて、許されるはずがない。












「それでも..............
アタシは早織が..........」









アタシはこの先を考える前に、眠りについた。

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