朝霧桜は百合色に

□同居
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二人で話をしてから一週間後。


アタシとお母さんは新しい家に引っ越す事になった。


もちろん、再婚後に四人で暮らす為の新居だ。


ローンで購入したという一軒家は、これまでぼろっちい借家でしか生きて来なかったアタシにとって、まるで他人の家のような不思議な感じがした。


『これからこの家で家族四人で暮らすんだよ。』という憲一さんの言葉が、妙に頭に残っている。


家族.........か.........



アタシと早織は、姉妹になるんだな.........



ここ一週間毎日話して、だいぶ打ち解けたけど、やっぱり実感沸かないなぁ.........














「早織ー?本棚の場所、ここで良いー?」

「うん、大丈夫ー。」



その日の昼間、アタシ達は荷物の運びだしをしていた。


『お金がもったいない』というお母さんの言葉で、引っ越し費用は極力抑えられたため、業者は家具を家に入れただけで帰ってしまった。

お母さんと憲一さんは役所に結婚届を出しに行き、そのまま日用品を買いにスーパーへ出かけた。

なので、アタシ達二人が置き場所の位置やら、状態やらを整えていたわけ。


ぶっちゃけ女子にはキツイっす。







「これで、だいたいのものは運んだかな?」

「良いんじゃない?こんなもんで。後は自分の荷物だけね。」

「え〜っと、このバック理可の?」

「あ、そうそう。ありがと。」

「ずいぶん重いけど、なに入ってるの?」

「ん〜と、なんだったっけ........
そうだ、四月に買った教科書だ。押し入れの奥にバックごと突っ込んどいたから忘れちゃってた。」

「..........四月に買ってから、一回も使ってないの?」

「教科書は出したけどワークとか資料集とかは全然。」

「家で、使ったりとか、しない?」

「開いたこともないですね。」

「..........名前すら、書いてない?」 

「書いてない。」

「.........理可。あんまりこういう事は言いたく無いけど......」

「?」

「......このままじゃ、行ける大学無いよ。」

「し、仕方ないじゃない!まさか再婚するとは思わなかったから、もともと行こうって思ってなかったのよ!」

「明後日、ちゃんと持っていくように。」

「や〜だよ〜ん。どうせ持ってったってやらないも〜ん。意味ないも〜ん。」

「じゃあ、良いわ。私が教えてあげる。」

「え?」

「これから、毎日一時間勉強ね。」

「え、ちょっと待ってよ!なんでそんなことしなくちゃなんないのよ!」

「当たり前でしょ!全然勉強しなかったら、理可の人生終わっちゃうよ!?学校で勉強しないのなら、家で勉強するしかないでしょ!」

「う.........正論過ぎて何も言えない.........」

「明日から始めるから。分かった?」
 
「..........できるだけ、優しくしてね?」

「理可が頑張ればね?」

「うう〜..........」

「とりあえず、名前だけでも今書いちゃいなさい。」

「は〜い。」


アタシは荷物からペンケースを取りだし、ボールペンを手に取る。



「えーと、2年3組25番、小鳥...............あっ。」

「? どうしたの?」

「そっか...................
アタシ、もう『瀬戸』なんだ。」

「.............いや、なの?」

「そ、そういう訳じゃないけど............なんか、自分はもう小鳥遊じゃないんだ、って思うと、なんか変な気がして.......」

「...............」

「........で、でも、すぐに慣れるよ!大丈夫、心配しないで......」

「.............う、うん。分かった。」


早織がぎこちなさそうに頷く。



自分の目の前に立っている、華奢な体格の少女。

アタシより若干背は高く、髪は腰まで伸ばしている。

人に勉強を教えられるほど頭は良い。



アタシとは何から何まで180度違うこの子が、今日から妹になる。



やっぱり、実感は沸かなかった。




これも、そのうちなれてくるのかなぁ...........



..............................







「ところで早織。」

「なに?」









「瀬戸の『瀬』って字、どうやって書くんだっけ..........?」






「........やっぱり、毎日二時間勉強ね。」

「そ、そんなぁ〜。」

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