朝霧桜は百合色に
□同居
1ページ/1ページ
二人で話をしてから一週間後。
アタシとお母さんは新しい家に引っ越す事になった。
もちろん、再婚後に四人で暮らす為の新居だ。
ローンで購入したという一軒家は、これまでぼろっちい借家でしか生きて来なかったアタシにとって、まるで他人の家のような不思議な感じがした。
『これからこの家で家族四人で暮らすんだよ。』という憲一さんの言葉が、妙に頭に残っている。
家族.........か.........
アタシと早織は、姉妹になるんだな.........
ここ一週間毎日話して、だいぶ打ち解けたけど、やっぱり実感沸かないなぁ.........
「早織ー?本棚の場所、ここで良いー?」
「うん、大丈夫ー。」
その日の昼間、アタシ達は荷物の運びだしをしていた。
『お金がもったいない』というお母さんの言葉で、引っ越し費用は極力抑えられたため、業者は家具を家に入れただけで帰ってしまった。
お母さんと憲一さんは役所に結婚届を出しに行き、そのまま日用品を買いにスーパーへ出かけた。
なので、アタシ達二人が置き場所の位置やら、状態やらを整えていたわけ。
ぶっちゃけ女子にはキツイっす。
「これで、だいたいのものは運んだかな?」
「良いんじゃない?こんなもんで。後は自分の荷物だけね。」
「え〜っと、このバック理可の?」
「あ、そうそう。ありがと。」
「ずいぶん重いけど、なに入ってるの?」
「ん〜と、なんだったっけ........
そうだ、四月に買った教科書だ。押し入れの奥にバックごと突っ込んどいたから忘れちゃってた。」
「..........四月に買ってから、一回も使ってないの?」
「教科書は出したけどワークとか資料集とかは全然。」
「家で、使ったりとか、しない?」
「開いたこともないですね。」
「..........名前すら、書いてない?」
「書いてない。」
「.........理可。あんまりこういう事は言いたく無いけど......」
「?」
「......このままじゃ、行ける大学無いよ。」
「し、仕方ないじゃない!まさか再婚するとは思わなかったから、もともと行こうって思ってなかったのよ!」
「明後日、ちゃんと持っていくように。」
「や〜だよ〜ん。どうせ持ってったってやらないも〜ん。意味ないも〜ん。」
「じゃあ、良いわ。私が教えてあげる。」
「え?」
「これから、毎日一時間勉強ね。」
「え、ちょっと待ってよ!なんでそんなことしなくちゃなんないのよ!」
「当たり前でしょ!全然勉強しなかったら、理可の人生終わっちゃうよ!?学校で勉強しないのなら、家で勉強するしかないでしょ!」
「う.........正論過ぎて何も言えない.........」
「明日から始めるから。分かった?」
「..........できるだけ、優しくしてね?」
「理可が頑張ればね?」
「うう〜..........」
「とりあえず、名前だけでも今書いちゃいなさい。」
「は〜い。」
アタシは荷物からペンケースを取りだし、ボールペンを手に取る。
「えーと、2年3組25番、小鳥...............あっ。」
「? どうしたの?」
「そっか...................
アタシ、もう『瀬戸』なんだ。」
「.............いや、なの?」
「そ、そういう訳じゃないけど............なんか、自分はもう小鳥遊じゃないんだ、って思うと、なんか変な気がして.......」
「...............」
「........で、でも、すぐに慣れるよ!大丈夫、心配しないで......」
「.............う、うん。分かった。」
早織がぎこちなさそうに頷く。
自分の目の前に立っている、華奢な体格の少女。
アタシより若干背は高く、髪は腰まで伸ばしている。
人に勉強を教えられるほど頭は良い。
アタシとは何から何まで180度違うこの子が、今日から妹になる。
やっぱり、実感は沸かなかった。
これも、そのうちなれてくるのかなぁ...........
..............................
「ところで早織。」
「なに?」
「瀬戸の『瀬』って字、どうやって書くんだっけ..........?」
「........やっぱり、毎日二時間勉強ね。」
「そ、そんなぁ〜。」