朝霧桜は百合色に

□出会い
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翌日。




アタシは結婚前の顔合わせとして、憲一さんと早織ちゃんに会うことになった。

昼過ぎにタクシーに乗り、待ち合わせ場所のレストランに向かう。



「ねえ、お母さん。」

「なに?」

「早織ちゃんには、アタシのこと話したの?」

「ええ。憲一さんが伝えたらしいわ」

「アタシのこと、知ってるかな?」

「理可が知らないんだから、きっと早織ちゃんも分からないと思うわよ?」

「そうかなぁ.........お母さんは、早織ちゃんともう会ったの?」

「一度だけね。礼儀正しくて、おとなしい子だったわ。理可とは大違い。」

「うるさい。」


ドアの取っ手に肘をつき、外を眺める。

歩道に目をやると、姉妹なのだろう、中学生くらいの女の子と、小学生くらいの子供が、手を繋いで仲良く歩いていた。



アタシはあんな感じを想像してたんだけどなぁ......


「仕方ないでしょ。生まれた年がたまたま一緒だったんだから。
諦めなさい。」

「な、なんでわかるのよ!?」

「顔に書いてあるわよ?『自分は小学生くらいの妹が欲しかったー』って。」

「ううう、うるさい!いいでしょ別に!小学生くらいの妹が欲しくたって!」

「早織ちゃんと仲良くしてあげるのよ?あの子内気そうだから、理可の方から話しかけてあげなきゃ。」

「わかってるよ!」

















「ほら、理可。ついたわよ。」



「すっごい豪華..........お母さん、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。ここを予約したのは憲一さんだから。」

「まだ結婚してないのに、早速お金は向こう頼りですかい。」

「まさに、『この親にして、この子あり』ってね。」

「自分で言うな。それに、アタシは自分の分は自分で払う。」

「じゃあここのコース料理、理可は自分で払うのね?」

「絶対、無理。」








「お待ちしておりました、小鳥遊様。どうぞ、こちらへ」






「まだ、憲一さん達は来てないわね。待ってましょうか。」

「うう、緊張する.......」

「なによ。初めて会ったときはあんなに楽しそうに話してたのに、今さら緊張してるの?」

「違うわよ。憲一さんじゃなくて、早織ちゃんのこと。」

「尚更じゃない。同い年でしょ?」

「同い年だからこそよ。アタシ、早織ちゃんの顔も知らないんだよ?緊張しない方がどうかしてるよ。」

「学校で何回かすれ違ったことくらいはあるでしょ。」

「だから、知らないって。名前を聞いたことも無いのに、すれ違っただけでわかるわけ無いじゃん。」

「まあ、それもそうよね。」

「大体、どんな子なのよ、早織ちゃんって?」

「おとなしい子よ。賢そうだけど、運動は苦手かな?」

「だから、外見。さっきから何回もいってるじゃん?」

「それは教えないわよ。あってからのお楽しみ。」

「余計緊張するのよ。少しだけでもいいから教えてよ。」

「うーん........理可より、ちょっとだけ背は高いわね。」

「え、マジで?」






「瀬戸様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

「あ、来たわよ。」

「う、緊張する..........」






心臓の高鳴りが止まらない。

アタシの妹.......
















「茜さん。待たせたね。」


最初に憲一さんがお母さんに話しかける。


肝心の早織ちゃんは憲一さんの後ろにいて、よく見えない。


「ううん、大丈夫です。」

「理可ちゃん、久しぶり。元気だった?」

「は、はい。」

「それじゃ、早織。茜さんと、理可ちゃんにご挨拶」


憲一さんが横にずれ、早織ちゃんが小さく挨拶をした。











「こ、こんにちは...........
瀬戸.......早織........です。」



「こんにちは.......小鳥遊、理可です。」

「違うでしょ、理可。これからは瀬戸 理可でしょ?」

「う、うるさい。まだギリギリ小鳥遊でしょ!」

「あははは。面白いなぁ、茜さんは」


憲一さんが笑うのにつられて、早織ちゃんも頬を緩ませた。




良かった。第一印象は悪くないみたい。



















「美味しいね、このお肉」

「本当。まるでマシュマロみたい。」

「さすがにマシュマロよりは固いと思うけど.......」

「理可、こういう時は嘘でもいいから誉めておくの。いざというときに役立つのよ?」

「..........それ、結婚詐欺師が言う台詞だよ?」

「あ、そう?でも、例えこの肉の柔らかさは嘘でも、憲一さんの愛は本物よ。」

「.........結局嘘かい。」



四人でコース料理を頂く。

一応お母さんのボケには突っ込んではいるが、アタシの頭は目の前に座っている自分の妹のことで一杯だった。






(この子.........ホントに憲一さんの子なの?)






正直、憲一さんはアタシが言うのもなんだが人並みの顔である。


だから、早織ちゃんも同じくらいの顔かな、と思ってたのだけど.......







現れたのは、半端じゃないレベルの美しさを持った美少女。

本当に、ドラマかなんかの世界から抜け出してきたような顔立ちだった。

腰まで伸ばした髪から漂う気品さは、どこかの財閥のお嬢様かと思うくらい。

スタイル抜群の体は、まるで強く持ったら折れてしまうガラス細工のようにか細い。




一言で言い表すなら.......

才女?女神?マリー・アントワネット?


いいや、どれも違う。


形容しがたいほどの美しさを持った女の子が、アタシの前に座っていた。




こんな子が、アタシの妹に......?



いまいち、信じられない。



というか......





胸が、大きい..........!



こんなんテレビでもみたことないわよ.......!


なにアンタ、グラビアアイドルでも目指してるの.......!



くっそぉ〜........



半分よこせ!






な、なに考えてるんだアタシは。

第一半分もらってもバランス最悪じゃないか..........



















「それじゃあ、今日はこれで」

「とっても美味しかったです。
また、つれてって下さいね?」

「僕はそれよりも茜さんの手料理が食べたいな。」

「それなら尚更たくさんいって、味覚えないと。ね?」

「ははは、考えとくよ。
それじゃ、茜さん、理可ちゃん、さようなら。」

「さようなら、憲一さん。
ほら、理可も。」

「あっ........さようなら。」






「どうだった?」

「憲一さんは大丈夫だよ。
だけど、やっぱり.........」

「早織.........ちゃん?」

「うん...........アタシ正直、早織ちゃんと一緒に暮らせる自信無い。ましてや妹だなんて......」

「そうよね。落ち着きあるし、背も高いし、どう考えても早織ちゃんの方が姉らしいわよね。」

「そういう問題じゃなくてさ、アタシと早織ちゃんはさ、何て言うか........住んでいるところっていうか、タイプが違うじゃん?
アタシああいう子ってちょっと苦手なのよ.......何考えてるんだかよく分かんなくて........」

「おっぱいも大きいしね。」

「!! おっぱいは関係無い!」

「お、おっぱい!?」

「す、すいません運転手さん!
こ、こら理可!そんな変なこと大声で言わないの!」

「おっぱいは関係無い.........おっぱいは........」

「ちょ、ちょっとー?お母さんの話し聞いてるー?」

「おっぱい.................は!
な、なに?」

「...............とりあえず、明日ちゃんと早織ちゃんと会って、話ししておくのよ?」

「わ、わかってるよ.......」

「結局今日は一言も話さずにずっとおっぱいばっかり見てたんだから。」

「え.................」

「ん?」

「そ、そんなに..........見てたの?アタシ..........」

「見てたわよ〜もうばっちりと。まるで親の仇をみるかのような目付きで。
ぶっちゃけ早織ちゃん本人より、おっぱいの方が見てる時間は長かったわね。」

「.......アタシ、死にたい.......」

「死んじゃダメよ。これから始まるんだから、このぐらいでへこたれてどうするのよ」

「分かってるよ.......」

「とにかく、明日早織ちゃんに会って、仲良くしておきなさいね。」

「は〜い......」

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