朝霧桜は百合色に
□通告
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「理可。お母さん、結婚するから。」
夕食で席についたお母さんの第一声がそれだった。
「うん...........分かった。」
「あ、あれ?」
「ん?」
「あんまり........驚かないのね。」
「まあ薄々気づいてたしね。」
「そ、そう。」
「憲一さん.......でしょ?あの人優しそうだしね。アタシは賛成だよ?」
憲一さんと会ったのは一ヶ月前。
お母さんに「会わせたい人がいる」と無理やり連れて来られた。
正直会うまでは警戒してたけど、第一印象が『背伸びしたハムスター』(笑)だったから、一気に和んじゃった。
この人ならアタシのお父さんになってもいいかなーって、そう思った。
「で、でも理可。反対しないの?」
「なんで?」
「お父さんのことはどうしたのよ、とかさ........」
「言うわけ無いじゃん。」
アタシは鼻で笑う。
「お父さんが死んだときってアタシが一歳の時でしょ?覚えてるわけないじゃない。」
「そ、そうよね。なにいってんだか。」
お母さんが苦笑いする。
お父さんには悪いけど、実際アタシは父親の顔など全く覚えていない。
なんでも交通事故で死んだらしいが、賠償金はちゃんと払ってもらったし、供養もしている。
一応顔はアルバムで知ってるけど、アタシにとって父親はただの記号でしかなかった。
ちょっと冷酷かな?
でも、ホントなんだから仕方がない。
「それでね。理可。」
「なに?」
「あのね.......え〜と......ちょ、
ちょっと待ってて......」
お母さんは席を立つと、少し離れたところで電話をかけ始めた。
「あ、もしもし?憲一さん?あのね、いきなりで悪いんだけど、早織ちゃんって、誕生日いつ?
............分かった。ごめんね、変なこと聞いて。それじゃ」
お母さんは携帯を切ると、神妙な顔でこっちに戻ってきた。
「どうしたの?早く言ってよ。」
「あ、あのね、理可.........
妹、欲しくない?」
妹........でしたか.......
「憲一さんにも子供がいてね。理可とは姉妹になるんだけど、どうする?」
「どうする?って、そんなのどうしようも出来ないじゃん。結婚するのはお母さんたちなんだし。」
「そ、それはそうなんだけど.....」
「いいよ、アタシは?前々から、兄弟が欲しかったなーって思ってたし」
「あ、そうなの?」
「うん。将来は先生になろうかな、って考えてたの。」
「そ、そうなんだ.......」
妹か.......楽しみ。
最初は憲一さんの後ろに隠れてるんだろうけど、そのうち仲良くなるだろう。
それで、「お姉ちゃーん!」なんていって、一緒に遊ぶのだ。
それで、それで.......
「妹かぁ.......楽しみだなぁ.......」
「そ、そう。良かったわね。」
「あ、ところでお母さん、その憲一さんの子って何歳?」
「あ、やっぱり気になる?」
「当たり前でしょ。何歳なの?」
「え、えーっとねぇ......」
「?」
「16......歳。」
「へ?」
「ほら、理可は8月生まれでしょ?その子は11月生まれだから一応理可がお姉さんよ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。同い年なの!?」
「え、ええ。同い年よ。」
「うそー.........」
「...........ちなみに、何歳くらいの子を想像してたの?」
「........9、10歳位。」
「一回り違うけど、許して頂戴ね?」
「別に、いいけどさ.........同い年の妹なんて、双子じゃないんだし、想像つかないよ......」
「う、うん。」
「ところで、その子高校どこなの?」
「こ、高校?高校は.........…開央よ。」
「........高校まで、一緒なの?」
「ええ。」
同じ高校の同じ学年の子が、アタシの妹になる。
「.....全然実感がわかないよ......」
「そ、そう。」
「待って。確か憲一さんの名字って『瀬戸』だよね?」
「そうよ。」
「じゃあアタシ『瀬戸 理可』になるんだ......なんか、歯切れが悪いね......」
「........確かに、あんまりいい語呂じゃ無いわね.......」
って、そんなこと気にしてる場合じゃない。
アタシは頭の中で、名字が『瀬戸』の友達を探すが、どうしても思い当たらない。
開央は私立並みに大きい高校だから、アタシが名前を知らない人なんていっぱいいるし、第一ヒットしたらしたでなんか気まずいんだけど......…
それでも、同い年の妹ができる感覚は、あまり良いものじゃなかった。
「大丈夫かなぁ........」
「大丈夫よ、きっと。」
「........根拠は?」
「無い。」
「........ハア。」
「そういえば、お母さん。」
「ん、なあに?」
「その子って、なんて名前なの?」
「えっとね........
瀬戸、早織。」
「瀬戸、早織............」
「.........ダメだ、やっぱりわからないや。」
「そ、そう...........」
大丈夫かなぁ.......