story
□苦い思いも甘く変わる
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「なんでィ、恋人に女にモテるところを見せんのがそんなに楽しいんですかィ」
むかっ腹が立ち足元に転がっていた空き缶を思いっきり蹴りあげる。
綺麗な弧を描いて落ちた先に公園を見つけて、休憩がてらにベンチに座る。
まだ冬真っ只中の江戸は冷え込む。
俺は冷えきった手を温めようとポケットに突っ込んだ矢先にカサリと手に何かが当たり、それを引っ張り出してため息をつく。
「ったく…ホント、ついてねェや」
不器用ながらも綺麗にラッピングされた袋の中身は、今日見廻り帰りに渡そうと用意しておいたチョコだった。
土方さんが甘いのが苦手なのは百も承知だったので、ちゃんとビターチョコレートにした。
今日のために何度も失敗を重ねてやっと出来た手作りチョコだったが、今までの騒動ですっかり忘れていた。
何気無くリボンをほどき不恰好なチョコを取り出す。
「どうせ…渡せねェし」
今日の調子じゃ断られるどころか、渡すことさえ出来ないだろうと苦笑して、チョコを食べようと口を開けた時。
「おい、何してんだ?」
「…なんでィ、もう女はいいんですかィ?」
頭上から声がして慌てて振り向くも、飄々とした顔の土方さんを見ると再び嫉妬心に刈られて嫌味を吐く。
「あんなもん、どうだっていいんだよ。ったく、バレンタインだかなんだか知らねぇけど、こっちの迷惑も考えろっての」
「ホントですねェ…」
自分もバレンタインに踊らされている一人と思うと聞き流すことも出来ず、手にしていたチョコをこっそりとしまおうとした直後。
「それ、どうした」
目敏く俺のチョコに気がいた土方さんは目を細める。
「……、さっき貰った」
今更「あんたに渡すために作った」などと言えるはずもなく、ぶっきらぼうに答える。
するとピクリと土方さんの眉が動いた。