story

□苦い思いも甘く変わる
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只今市中見廻り中の俺は盛大に不機嫌である。

それもそのはず。市中はどこもかしこもピンク一色。
いつも以上にカップルがいちゃいちゃしてるだけでなく、路地裏など人目の付かないところで顔を真っ赤に染めた男女の告白現場何かを何度も目撃すりゃあ嫌でもこういう気分になるもんだ。
まぁ、俺も大人だからそれくらいではここまで不機嫌にはならない。

問題は俺の少し後ろにいる男にある。

「あ、あの!!」

可愛らしい声に振り替えれば小柄な女の子が顔を真っ赤に染め、どこか落ち着かない雰囲気で俺の少し後ろにいる男に話しかけている。

「こ、これ、良かったら受け取ってください!!」

そういって突き出された手には綺麗にラッピングされたチョコが握られていた。

「わりぃ、俺甘いもん苦手なんだ」

相変わらずポーカーフェイスを保ち、煙草をくわえたままきっぱりと言い捨てたのは、真選組だけでなく、江戸中で人気ナンバーワンである男、土方十四郎。

そして俺の不機嫌の原因である。

「36人目…」
「あ?」
「あんたが今日泣かせた女の数でさァ」

そう、今日はカップルが楽しむイベント、バレンタインデー。

今日は店どころかニュースやバラエティー番組でさえその話題が引っ張りだこである。
そして、今日とばかりに女どもが色めき立ち土方さんにチョコを渡す振りをして近寄ってくる。

まぁ、全部切り捨てられてるけど。



一応、俺と土方さんは恋人同士だが、流石に世間と立場上人前でいちゃつくことは出来ない。

そんな俺は只今絶賛妬きもち中である。

そんな俺を知ってか知らずか、今日の見廻りは避けようとした俺をあっさりと引き留め、一緒の班にしやがった。
そして、今に至るわけだが…。

俺の予想は的中し、屯所を出るなりチョコを持った女の嵐である。
土方さんはどうも落ち着かないようで、見廻り中ずっときょろきょろしてやがるし。

どうせ好みの女から貰えるチョコを楽しみにしてるんだろィ。

で、夜に呼び出してズコバコヤる訳ですかィ。

俺みたいな男じゃ抱けねぇし。

と、心底ねじ曲がった考えをしながら歩く俺を足はどんどんと速くなって、女の波に呑まれ足止めをくらった土方はやがて見えなくなった。
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