story

□特等席
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あいつの隣は俺の特等席だ。これは誰にも譲らない、俺の一番落ち着く場所。

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最近は温暖化の影響で長引いた夏も終わり、すっかり肌寒い季節になってしまった。
そんな中、俺は山崎が早めに出してきた炬燵に入りぬくぬくしていた。

まだ冬には程遠いといえど、夏の暑さに慣れてしまった体にこの温度差は耐え難い。
炬燵の中は温かいものの、昼寝をするには何か物足りない。
上手くは言えないが、安心感のない温かさだ。

俺は名残惜しい温もりから脱け出し、早足で廊下を歩く。

最高の寝床を求めて。

―――――

「何だ、また問題でも起こしたのか?」
俺を見るなりいかにも嫌そうに顔をしかめた野郎に俺は侵害だとムッとした。

俺が最高の寝床を求めて向かった先は副長室。
ここには決して暖房器具などない。あるのは仕事をするのに必要最低限のものと、この殺風景の部屋の主であり、心も冷えきっている鬼の副長こと土方十四郎だけだ。
そんな冷えきった部屋に、俺は炬燵よりもいい寝床があることを知っている。

俺は未だに警戒心を解こうとしない野郎を放って奴の隣に座った。
怪訝そうに顔をしかめ、俺を横目で見ながらも書類に筆を走らせる野郎に静かに俺は寄りかかる。

土方さんの隣は俺の特等席。これは言わずと知れたお約束。これを奪おうものなら誰だろうと許さない。
一番隊隊長の俺が土方さんの隣に居ることが長年続いた今、俺にとって一番落ち着く場所はここになってしまった。

隊服越しに伝わる熱と、仄かに香る煙草の匂いを全身で感じながら目を閉じる。

「何なんだよ」
深い溜め息と筆を置く音に、一度は眠気に襲われた俺も再び重たい瞼を開ける。
どうやら一向になにもしてこない俺に痺れを切らしたらしい。

「おい、総悟…」
「なんですかィ?」
「寒いからこっち来い」
俺は腕を掴み引き寄せられ、膝の上に座らされた。

「これなら少しは温かいだろ?」
そう言いながら抱き締められる。確かに温かい。
「土方さん、仕事…」
「休憩も必要だろ」
眠いながらも呟いた言葉はさらりと返されてしまった。
再び襲ってきた睡魔に俺は素直に目を閉じる。

さっきより密着する背中から直接熱が伝わり、土方さんの吐息がすぐ耳元で聞こえる。隊服から仄かに香る煙草の匂い。全てが目では見えないが土方が近くに居ることを物語っていた。俺はいつの間にか寒さなんか忘れて土方さんの存在に溺れきっていた。


俺の特等席がまたひとつ増えた。
 

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