story

□吸血鬼
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土方が出張に行ってから一週間。特に大きな事件もなく平凡な日々が続いている。

その間の俺はというと…、突っ掛かる相手が居なくなり、ましてや怒鳴られる相手も居なくなり、縁側に座り柱に凭れながらぼーっと空を見上げていた。最初のうちは山崎を弄って遊んでいたが、あいつほど面白くなく、僅か3日ほどで飽きてしまった。

…にしても暇だ。いつもはこんなに暇になることがなかった。それも土方を毎日のように弄っていたからなのだが…。
いつにも増して何もする気になれず、悪戯しようとさえ思えない。前は暇な時、どうしていたのだろう…。そう、愛用のアイマスクを着けて寝ていたのだ。でも、今の俺は何故か寝付けない日々が続いている。何故だかは分からない。だから尚更山崎に心配されていた。

どういうことなのだろうか。前ならアイマスクを着け横に寝転がれば1秒と経たずに何度でも眠れたのに…。
そんなことを思いながら再び空を見上げた。今日も俺の心とは真逆の綺麗な快晴で、大きな積乱雲まで見え、けして強すぎない日差しが降り注いでいる。遊びに行くなら最適な天候なのに、今はそんな気にもなれなかった。

「はぁ…」
と、深い溜め息を着く。今日何度目の溜め息だろうか。最近は、ふと気が付くと溜め息ばかり着いている。だから山崎にも心配されるのだろうが、溜め息なんてものは無意識に着いているもので、直しようがない。
そんなことを考えていたらまた溜め息を着いていた。俺はただただ輝かしい光を放つ太陽を目を細めながら忌々しげに睨み付けることしかできなかった。



結局その日も何もせずに夜になってしまった。
布団に潜り、眠る準備は万端だ。しかし、さっきから寝返りをうつばかりで一向に寝られない。

俺は仕方なく起き上がり縁側へと移動した。外は昼間程ではないが蒸し暑く、風が心地よかった。空を見上げると月が優しい仄かな光を放っている。
「今日は満月ですかィ…」
ぽつりと呟いてみるものの返事が返ってくるはずもなく、俺の言葉は暗い闇夜に消えていった。さっきまで優しいと思っていた光さえもどこか寂しく思える。

「ホント、どうしちまったんですかねェ…俺ァ」
柱に寄りかかり静かに目を閉じる。何処からともなく聞こえてくるひぐらしの鳴き声がやけに寂しく聞こえた。
「土方さん…」
「何だ?」
ふと呟いた名前に聞き慣れた声が返事をする。びっくりして俺は慌てて目を開けた。温い風が運んできた煙草の匂いに期待が高まる。

「土方…さん?」
目を開けるとそこには居るずのない土方の姿が目に映った。
「だからなんだよ」
信じられないという顔をする俺に土方は怪訝そうに顔をしかめる。未だに状況を理解できない俺は何とかこの状況を呑み込もうとするが、半場パニック状態の頭では上手く状況を呑み込めない。

「なっ、なんであんたがここに居るんでさァ!!出張中じゃ…」
「あぁ、だから――」
「あ!もしかして幻覚!?そっか…等々幻覚まで…」
言葉を遮ったうえに項垂れた俺を見て土方は呆れたように大きな溜め息を着いてからそっと俺の手を掴み自分の頬に触らせた。

「幻覚なんかじゃねぇよ。ほら、ちゃんと触れるだろ?」
手から伝わってくる熱に本当に土方だと理解した時には既に抱きついていた。

「山崎からお前が最近元気がねぇって聞いて速めに仕事を終わらせてきた」
そう説明しながら俺を優しく撫でてくれる奴の手にすりよりながら力一杯抱き締める。やっと欲しかった温もりを手にできた喜びについ涙が溢れると、瞼にキスされた。

縁側に座った奴を見下ろす俺を手招きで自分の膝の上に座らせると後ろから抱き締められる。
「寂しい思いさせて悪かった…」
謝罪してくる奴を振り返るとキスされた。それから何度も温もりを確かめるようにキスを繰り返す。やがて奴は俺の首筋に吸い付いた。
「んっ…」
たまらず甘い声が漏れた。仕返しとばかりに今度は奴の首筋に吸い付く。

ふと昨夜観た吸血鬼の話を思い出だした。
確か吸血鬼もこんな風に首筋に歯をたてて血を吸っていたっけ…。



俺たちは吸血鬼みたいなものだと思う。

常に貴方が傍にいないと…キスをしてくれないと…抱き締めてくれないと乾いて死んでしまう。

貴方が居なくなったら俺は生きていけない。
それは貴方も同じだろィ?

そうやって俺達は地の底まで溺れて行く…。

今宵もキスの雨が降る。お互いがお互いを求め、吸い寄せられるように唇付けを交わす。
 

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