星屑置き場
□黄色の薔薇の花言葉2
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私の娘はキラキラと輝くブロンドを持つ。
金髪というものは劣性形質で、混じりっ気のない金色になるには、両親も金髪でないといけないらしい。
けど、私は茶髪。夫は薄い紫と言った具合。
実際には今の彼の髪が自毛かどうかわからないんだけど、どのみち二人の間に金髪の子供が生まれるはずがないわけで。
しかし誕生した紛れもない我が子を抱きしめながら、私は娘に友達の名前をつけた。
再会を果たして以来、一度も会っていない彼女の名を。
ピンクの薔薇の花束をくれた、青色が大好きな彼女の名を。
「ママ。あのね、パパがいじめるの」
小さな小さな娘は、最近9歳になった。
彼女は女の子なのに青色が大好きで、緑色の服を好んで着る。
おまけに、父親のことを良く思っていないみたい。
「いじめる?」
「パパはわたしにニンジンをいっぱい食べさせるのよ。ピーマンも、ブロッコリーも!」
「そう」
思わず笑みがこぼれる。
外見も、性格も、まるであの子の―――――メアリーの生き写しのようなのに、吐き出される台詞はなんて愛らしいのでしょう。
「メアリー。好き嫌いはダメよ」
「ちゃんと食べるもん。わたしは、パパが口うるさく言って食べさすのが嫌なだけだよ!」
子供らしい妙な言い分は軽く矛盾を孕んでいる。
夫は食べないから食べさせているのだろうに。
そういうの、受け流せばいいのにいちいち指摘しちゃうから、夫は娘の反感を買うんだろう。
「それも全部、メアリーのためを思って言ってることなのよ 」
「うそ!パパはきっとわたしが嫌いなの」
「どうしてそう思うの?」
かん高い声で推測を口にする娘に、私は問うた。
因みに夫は娘にベタ惚れである。
可愛がりすぎてるのが逆にウザく感じるのだろう。
しかし、指摘したところで無意味なことを知っている。
夫はとにかくひたすらに娘に弱いのだから。
「パパはわたしよりママの方が好きなのよ。わたしが嫌いだから、パパは私をいじめるの」
「そんなことないと思うけどな」
あどけない疑心暗鬼。
でも、確かなことは。
この子には、ちゃんと両親がいて。愛されているということ。
それがわかっているからこそ、娘も父親に反抗的態度を取ってしまうのだろう。
そろそろ父親のことをパレットナイフで突き出すんじゃないかって、ほんの少し思っている。
「邪魔だなぁ」
娘は呟く。
「邪魔だなぁ。パパ、邪魔だなぁ」
「どうして?」
「わたしのことを見てくれないパパなんて、嫌い。ママは優しいから大好き。優しいママまでわたしから取っちゃうパパは、邪魔」
「――――――本当に、メアリーはパパが大好きなのね」
「違うもん。嫌いだもん」
矛盾だらけの言葉を紡いで、ぷうっとぱんぱんに頬を膨らませる彼女。
ああ、本当に。
メアリーはメアリーなのだわ。
命は黄色の薔薇。
まだ若い。だけど立派な一輪の薔薇。
あの子と同じ。
あの儚い友達と一緒。
可愛らしくて。
残酷で。
素直じゃなくて。