怪盗SP
□エピソード3
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…・エピソード3・…
兄ちゃんの店は、下町の問屋街にある。
他の店は雑多な作りなのに比べ、兄ちゃんの店は、日比谷にあってもおかしくない店構えで、同業者から一目置かれているらしい。
もちろん、一目置かれている理由はそれだけじゃないけど。
アメリカの大学時代の友人に、考古学から宝石堀に転じた人がいて、その人の口利きで世界中の問屋とネットワークを持っている。
中でも、ニューヨークで最も有名なダイヤモンド仲介業者と、日本で初めて提携を結んだ宝石商として、話題になった…
らしい。
らしい、らしい、というのは、
オレはあの世界に詳しくないからさ、兄ちゃんの言ってたことをそのまま書いてみたから。
って…誰に解説してるんだ?
ま、いっか。
今のオレは、それどころじゃないんだ。
あいつ…キャリアが来る前に、兄ちゃんのところに行かなきゃ。
あの後、総理の執務室前で立ち警護だったのに、まったく集中できなかった。
あんなの初めてだ。
憲太が何度かオレの前を通りかかって何か話したけど
なんにも思い出せない。
ばれた。
ばれたんだ、キャリアに。
なんで?
オレ、どっかでドジ踏んだんだろうか。
何か口走ったか。
無意識に…行動に出てたとか…?
両手がずっと拳になったまま開かない…
拳…手…
優香の手を、最後に握ったのは、ほんの半日前。
何を今更…こんな回想を…。
最初に覚悟していたことじゃないか。
未練がましい。
…違う。
鉄壁だと思っていた壁が
こんなに突然、
いとも簡単に、脆くも崩れ落ちると思ってなかったんだ。
もう
優香と手を握ることも、
抱き合って寝ることも、
笑顔を重ねることも、
できないかもしれない。