隠の王
□思い出すのも困難
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2月14日
名前がなくて僕を呼びづらいと雪見が名前を考えはじめた。
『てつお』とか『さぶろう』とかさっきから言ってるけど、変な名前だったら絶対返事をしないでいてやろうと思う。
「宵風」
「宵風」
(誰かが…僕のことを)
思い出せるように何度も何度も「宵風」と呟く。
わからない。わからない。けど、
首の辺りに手をやる、冷たい僕の手ではないものが、僕に触れていた気がする。
「宵風……」
懐かしくて、哀しくて、
気持悪いくらい温かいものが僕の身体の真ん中でうごめいてる。熱いものが目尻に脳に込みあげてくる。
この胸に溜るモノは何?
僕が君を忘れてしまったからなのか
君が僕の前からいなくなってしまったからなのか
(3月4日、ニュースで脳が破裂した女性の遺体が見つかったと放映されていた。
僕はそのテレビの前で、ただ帽子を目深に被りながら、ソレを見つめていた)