ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活8
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おそらく花京院は乙瀬がペンが転がり落ち行くのを見ていた事に気付いていたはずだ。
寧ろタイミングを計ってわざとペンを落とした可能性すらある。
いずれにしても乙瀬が見ているという確信あって、その上でハイエロファントグリーンを使った。
その意味は考えるまでもないだろう。
乙瀬の反応次第でスタンド使いか、非スタンド使いかを見分けるためだ。
そして、何故花京院が乙瀬に対して探りを入れたのか。
それはどんな経緯の上でか、乙瀬に何か怪しい点を見つけたからだろう。

これはマズい。
出だしの反応からして後手だった。

非スタンド使いならば、普通はここで驚愕のリアクションを取るはずだ。
呆気にとられて分かりやすい反応が無い場合もあるが、それでも非現実な光景を見たショックの色が何かしらあるだろう。
スタンド使いならば、突然目の前に見知らぬスタンドが現れたら半ば条件反射で自身を守るためにスタンドを呼び出す。
そんな殺伐としたスタンド生活を送っていないノーガードの能天気ならば、単純に「仲間を見つけた!」と喜々として自己アピールのためにスタンドを呼び出す。

乙瀬の反応はそのどれでもなかった。
乙瀬の目にスタンドの姿は見えずとも、隣人がスタンド使いであると知っているのだからペンが空中静止していようと何も不思議に思わない。
目の前の不思議の正体は見えていないが、それを理解していてその上で無視を決め込もうとしていた。

乙瀬は自身の愚かさを内心で罵倒しつつ、慌ててこのピンチをかわす方策を考える。
三択…一つだけ選びなさい。



その1
キュートな乙瀬は突如、冴えてる言い訳が閃く。

その2
いいタイミングで誰かが割り込んできて助かる。

その3
かわせない。現実は非情である。



教室内の生徒はまだまばら。
半数程しか登校していない。
いつもの花京院ガールズ達は個人プレーには走らず頭数が揃った時にのみ行動を起こす団体行動派である。

やはり答えは……「その1」しかないようだ。



「…え? あぁ…何かあったの?
ごめん、ぼーっとしてて見てなかったぁ…あはは…
はははは…」



棒読みな大根役者っぷりを発揮した乙瀬に、「ふぅん?」と穏やかに唇の端を微かにつり上げる花京院。
たったそれだけの事でゲロを吐きそうな程のプレッシャーが乙瀬を襲う。



(ぁあ…駄目だこりゃぁ)



乙瀬の返しはつまり悪手、下策、愚答。
答えは「その3」現実は非情である!



その後も巧妙な時間差を置いて乙瀬が油断した頃合いを狙い探り入れがあった。
休み時間だけならず授業中でもタイミングを見て花京院からのジャブが飛んでくるのだから溜まったものでは無い。
しかし、ここで逃げ出せばそれは花京院が探ろうとしている事…おそらく手紙に関する事について認めたも同然である。
下手に逃げ出せない。
しかし花京院の探り攻撃を受け止められる精神的余裕はじりじりと擦り減っている。



(た、耐え…いいや!限界だ逃げるね!今だッ!)



寧ろ、よくぞ4限まで耐えた。
逃げる。
もう逃げる。
昼食の時間くらい落ち着きたい。
4限終了の時間が迫って来ると隣から食事の席を一緒しようとする気配すら感じたものだ。

4限終了のチャイムが鳴る。
ついにこの瞬間が来た。
隣席のたおやかな悪魔が行動する前に、号令終了と同時に乙瀬は弁当が入っている鞄を掻っ攫うように取る。
そして…



「嘘だろ八柱!!」



「乙瀬!? 何してんの!!」



背後でクラスメイト達が大騒ぎしているが知ったこっちゃない。



(逃げるんだよぉ!)



彼らの驚愕の声を背負って、乙瀬は窓からダイナミック退出した。
ここは二階であるが、すぐ真下は駐輪場になっている。
駐輪場の屋根に飛び降り、そこを全力で駆け抜ける。
まずは一旦外へ逃げてそれから落ち着く場所を見繕いたかったのだ。
窓から飛び降りれば乙瀬の後を追おうにも、常識人の花京院は窓からショートカットなどとせずきちんと校舎内から降りて来るだろう。
もしも乙瀬が律儀に校舎内を逃げたとして、花京院の足ならすぐに追いつける。
だから、この時間差は大きなアドバンテージである。
少しでも逃げ隠れの時間が欲しい。
そして少しでも気を休めて次に備える時間が欲しい。



しかし乙瀬はあまりの動揺と焦燥で失念していた。
ハイエロファントグリーンの射程距離評価がAであるという事を。



花京院は乙瀬が飛び出していった窓を見ながらひっそり微笑んでいた。
その背後、誰の目にも見えない煌めく緑の影が細く細く延びていった。


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