ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活7
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花京院は乙瀬のさらりとした言葉に僅かばかり目を丸くして瞬く。
それから方眉を上げてどこか試すような悪戯っぽい忍び笑いを大きな口の端に浮かべた。



「…確かにそうだけども。
でもそれってつまり、『必要とあらば徹底的に叩きのめす』っていう事でもあるぞ」



「喧嘩の最中でも要不要を判断できるくらい冷静って事でしょ、きっと。
その花京院君が叩きのめす必要有りと判断するって事は、こりゃ相当な事情があるって時なんじゃない?」



「随分僕の事を買ってくれるんだね」



「そこそこ人を見る目には自信あるんだわ」



嘘である。
そんなものは無い。



(作中の登場人物だからある程度の性格知ってるってだけの事なんだけどね)



と、乙瀬は思っているが、実はなかなかに人の本質を見抜く目は優れていたりするのだが本人にその自覚は無い。
無自覚に花京院の胸の奥、心の欠片を掬い取り届けた言葉は彼の心の琴線に触れて良い音を鳴らす。



「…君はやっぱり少し変わってる人だね」



「ああ、よく友達にも言われるよ『変人』だって」



花京院は「ふはっ」と掠れる吐息のような笑い声を漏らした。
会話が一区切りついた丁度その時、予鈴が鳴る。
教師が入って来るとほぼ同時に乙瀬と花京院は互いに机の端を合わせた。
その机同士の接地線を隠すように教科書を開く。
ぺージは前回からの続きだ。
教科書には要所要所にマーカーで色付けされていたり、注釈が書き込まれていたりした。
結構、書き込まれていて教科書がごちゃごちゃ文字だらけになっている。
ちらりと乙瀬の机の上を窺えば彼女の卓上には筆記用具のみが出ていてノートやメモ帳と思しき姿は見当たらない。



(八柱さんは直接教科書に書き込むタイプか)



花京院とてチェックマークくらいはつけるが基本的にはノートに板書を取り、綺麗にまとめるタイプだ。
というか、学生の大多数はノート派だろう。
教科書に直書きする方が珍しいのではないか?
というか、これできちんと授業内容を覚える事ができるのだろうか。
もしかしたら時々居るような、話を聞いただけで授業内容を全て記憶できてしまうタイプなのか?
だったとしてもノート提出の時とかはどうしているのだろうか?
…などと思いながら何気なく乙瀬の字を追う。
筆圧は普通より薄めで、字は汚くはないが癖字だ。
授業が始まってから教科書に書き込まれていく文字はさらに増えていく。

払いや止めが走り書きのように伸びやすい。
跳ねは丸角気味。
右側に傾斜(特に英数字)しがち。
字間はそこまで詰まっていないので癖字でも読みにくい程では無い。



(句読点は「、」ではなくて「.」に近い書き方をする…)



乙瀬の字を追いながら花京院が予想していたかのようにそう思っていると、本当に乙瀬は句読点を「、」ではなく「.」と書いた。
花京院はハタと気づく。



何故、自分は乙瀬の句読点の癖を知っていたかのように予想できた?



しかもそれは予想というより、何故か具体的なイメージとして浮かんだ気がする。
その些細な不可思議を花京院は軽く流さず重く受け止めた。
こんな事、普通は何ともない小さなとりとめない事だと忘れてしまうだろう。
けれど、花京院はエジプト遠征で奇妙な体験を死ぬほど味わってきた。
だからどんな些細な事でも、一度でも気付いたならばそれは全力で疑うように心構えていた。
疑り深く、用心深くなければスタンドの世界では生きていけない。
花京院が乙瀬の筆跡に覚えた感覚の正体は既視感である。



(僕は知っている…この筆跡を見たことがある)



そう、あれは何処でいつだった?
やはりそう遠い記憶では無い。
あの50日の間、何かにつけては仲間と雁首揃えて神妙な顔でソレを見ていたはずだ。



まるで予定表のように書き記されていた、あの旅で起こる事柄や敵の事を仔細にした手紙。



最初こそ誰も信じなかった怪しいだけの手紙だった。
誰もが気に留めなかった。
ただ、自分達の事情を知る何者かが寄越した怪しい手紙という事で、念のため持ち歩いていた。
最初はそれだけだった。
しかし、手紙の内容通りに敵の襲撃に遭い、次に起きる出来事の的中が続けば嫌でもその手紙の内容がこの旅の未来予知である事を信じざるを得なくなった。
全てをそのまま信じた訳では無いが、次の敵の襲撃が近くなれば皆であの手紙を読み返し作戦を立てた。
休息の時間があればやはり手紙を広げて差出人について考えた。
そしてDIOとの決戦の時も。



(あの手紙の通りに事が進んでいたならば僕は本来死んでいた)



花京院だけではない。
アヴドゥルもイギーも今この世には居ないはずなのだ。
DIOのスタンドの能力と、エジプトでの戦いの様子をあの手紙から知る事が出来たから皆無事に生きて旅を終える事が出来た。
ホリィの熱も下がり命を取り留めた。
全てが良い方向で解決した…だが、最後の最後まで結局謎を残したままだったのが手紙だ。
そんな重要な手紙だ。
その手紙の文字だ。
忘れようにも忘れられない。



(君なのか…?)



花京院は退屈そうな乙瀬の横顔を用心深く盗み見た。
今にして思えば。
怪しい点は、エジプトへと発つ前からあった。
保健室での事件、あの時最後まで自分達の戦いを見ていたのは乙瀬だ。
その時、乙瀬の態度に怪しい部分があった。
あの時はさして気にしなかったが、今思えば不自然だった。
エメラルドスプラッシュで仕切りを吹き飛ばし、隠れていた乙瀬を見つけたその時。
彼女はあの時、どんな行動をとった?



頭を守るように抱え込んでいた手を何故か耳へとずらさなかっただろうか。



恐怖と護身行動のために縮こまっていたようにも見えたが、それにしては耳を隙間なくぴったりとガードしていたように思う。
そして、あれだけ歯の根が合わずガチガチと鳴っていたその口を無理矢理にでも引き結び、ぴったりと貝のように閉ざしたのは何故だ。



(そうか…そうかっ!
何故あの時に気付かなかったんだ…!)



彼女がそうする理由など、一つしか無いではないか。



(君はハイエロファントグリーンを警戒していたんだな!)



ハイエロファントグリーンが体内へ侵入するのを防ぐため。
万一にも花京院の人質になるのを防ぐため。
ならば、乙瀬にも見えているのか?
乙瀬もスタンド使いなのか?
花京院は彼にしては珍しく衝動に急かされ突き動かされた。



(ハイエロファントグリーン!)



彼の背後から煌めく緑色のスタンドが現れる。
そして黒板をぼんやりと見ている乙瀬の目の前に、視界を遮るように立塞がった。
どうだ?
見えているなら反応があるはずだ。



(……)



ハイエロファントグリーンの視界ごしに見た乙瀬の表情はピクリとも動かない。
気付かないふりでもしているのだろうか。
ならば。


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