ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活6
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乙瀬は一人、階段をどんどん昇り屋上へ進んだ。
一人で静かに考え事しながら食事にするなら屋上が向いているだろう。
寒いけども。
もっと暖かければ屋上は人気スポットにな…らないか。
屋上は普段、学校一の不良空条承太郎の縄張りなのだ。(本人は別に独占しているつもりはないが誰も近寄れない)
ここ2か月間は屋上の主が留守をしているため、場所権は誰にも均等にある。
しかし、承太郎が登校して来た今、屋上はまた元の主の指定席となる事だろう。
だが、この寒空の下で昼休み中居座るほどに承太郎は狂人ではないだろう。
よって、この季節にあえて屋上でボッチ飯決めようとする馬鹿は乙瀬くらいしかいないのだ。
屋上の扉を開くと、冷たく刺すような風が吹き付けて来る。



「ぁあ…思った以上に厳しい」



速攻で扉を閉めて屋上を断念した。
扉の横、壁に背を預ける形で座り込む。
正直、ここだって大分寒いのだが仕方なし。
小さく震える膝の上で弁当を広げるのだった。













それから数分後。



(どうしてこうなった)



乙瀬は心の中で思った。
この状況がまるで理解できない。
乙瀬は弁当をつつきながら向かいの壁に凭れ煙草をふかしている身長195センチをこっそり窺った。
とても居心地の悪い沈黙である。
会話は最初に交わした一言二言以降に何も無く、物音は乙瀬が弁当を食べる音くらいしかしない。






…それは、乙瀬がここで弁当を食べ始めた時だったのだ。



この寒い時期に屋上でランチタイムなんて酔狂は居ないと思っていたのに、その酔狂がどうやら在り得たらしい。
階段を上り踊り場から姿を現した男子生徒。
あの大きなガタイに鋭いエメラルドの瞳は見間違えようが無い。
空条承太郎である。
大股であっという間に階段を上りきると承太郎が寂しく一人昼食中の乙瀬を見下ろしてきた。



「こんなとこで一人飯とは。
この季節にイかれてやがるのか?」



「…そう言う先輩もこの季節にこんなところでお昼ですか?
このイかれたランチパーティーに仲間入りですか?」



承太郎の右手には大きな弁当箱とコンビニのビニール袋が握られている。
彼もこれから昼食だという事が見て取れる。



「…俺はここで人と待ち合わせでな。
待つついでに飯を済ませるだけだぜ」



「…そうですか」



充分にイかれていると思う。
というか、不良のレッテルを張られている空条承太郎がこんなところで人と待ち合わせとか普通に物騒な想像しかできない。
何、貴方、気に入らないヤツでも呼び出してるの?
それとも果たし状かなんか貰ったの?
…などという言葉は思っても口に出せるものでは無く乙瀬は黙るという選択肢を選んだ。

乙瀬が黙々と弁当を食べるその向かいの壁側に承太郎もどっかりと座り、黙々と食事をとり始める。
承太郎に場所を譲りここから退散するという手もあったが、乙瀬はそこを梃でも動かないつもりでいた。
最初にここに来たのは自分である。
何故後から来た者に譲らねばならないのか。
ここで逃げたら負けだ。
よくわからない勝負根性で意地でもこの場所で完食するつもりだ。

ちらりと盗み見た承太郎の弁当は母ホリィの手作りであろう栄養バランスのとれた豪華なもので、乙瀬手作りの小学生の調理実習レベルな弁当とは格の違いが誰の目からも明らかだった。
しかしそれも、承太郎の身体に合わせた大きな弁当は、ものの数分であっという間に空っぽである。
もっとよく味わって食べればいいのに。
大きな弁当を平らげた承太郎はそれだけでは足らなかったらしく、コンビニ袋の中から取り出したパンをかじっていた。
それとて承太郎にかかればあっという間の事であった。
乙瀬よりも後に来たのに先に完食である。
食べるものを食べ終えたら今度は一服するらしく煙草を咥えてライターの火を寄せている。



(…ぶっちゃけ煙草の煙嫌いなんですけど)



臭い。
視界が煙い。
飯がまずくなる。
止めろ。
…と、言いたいが流石にちょっと怖くて言えない。
結局乙瀬の口は言葉を発するためでは無く、一刻も早く弁当を消費すべく懸命に咀嚼嚥下のためだけに動かされた。



(どうしてこうなった)



乙瀬は心の中で思った。
この状況がまるで理解できない。
乙瀬は弁当をつつきながら自分の向かいの壁に凭れ煙草をふかしている身長195センチを横目に窺った。
とても居心地の悪い沈黙である。
会話は最初に交わした一言二言以降に何も無く、物音は乙瀬が弁当を食べる音くらいしかしない。

気まず過ぎて辛い。
承太郎ガールズ達はよくもまあこの寡黙な男に夢中になれるものだ。
そりゃキレると手が出るのは早いが根はいい奴なんだろうし、なんだかんだで優しいけど、それは承太郎とそこそこに仲のいい間柄でなければ、この不愛想な男からは想像できないだろう。
顔は確かに端正だが折角のイケメンもこの不良オーラで台無しになっているのではないのか?
あれか。
よく聞く一定数は必ず居るっていう「ワルに惹かれる」っていう女子か。
…気持ち分からん。
4部太郎からは3部時代のオラオラ感は大分鳴りを潜めて落ち着いた大人の男になっているらしいし、ジョジョを語る上では外せないこの人物であるが…それでも少なくとも乙瀬はこの男を前にしてきゃいきゃいと黄色い声ではしゃげる気がしない。
寧ろ、この手の男には近くで愛想を振りまきながら侍るより、遠くから密かに観賞するのが正しいファンの在り方だと思う。
などと思っていると。



「おい、お前」



唐突に話しかけられた。
ビクンと乙瀬の肩が跳ねる。



「……何すか」



「確か2年の…八柱とか言ったな」



「…はい…何で知ってるんですか」



「俺に教育指導の田場又押し付けやがったろ。
他にもちらほらと噂が3年の教室にまで入って来るぜ」



「ああ、その節はどうも」



「どうもじゃねえぜ、てめえ。
いらねえところで教師に気合入れちまったじゃあねえか」



「…先輩…まさか根に持ってるんですか」



「俺はそこまで狭量じゃあねえぜ。
そんな事よりお前…」



翡翠の瞳が眇められた。
反射的に乙瀬の肩がすくむ。
何くそ怖い…
承太郎の眼光に射すくめられたまま背筋には冷や汗が吹き出し始めた。
しかしここで怯んだら負けだ。
野生の世界でもそうだ。
睨み合いで屈せば、後の全てにおいて負けを認めるという事なのだ。
逸らしたくなる視線をガンと固定させてメンチ切り返す。
正直、傍目からは凄んでいるというよりは「ぐぬぬ」している顔にしか見えなかったが。


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