ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活5
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そんなある日。



空条承太郎が二か月の休学から復帰して来た。
彼は有名人だし、あの目立つ容姿である。
登校すればすぐに気付く。

いつもの登校路の神社。
乙瀬の後方から早速キャッキャという女子生徒達の黄色い声が湧いている。
そのうち我慢の限界を迎えたらしい承太郎が「うっとうしいぜ!」と怒鳴る声が聞こえて来るが、女子達はそれでも怯まない逞しさを見せる。

ああ、ついにDIOとの闘いが決したのだ。

50日間にわたる旅を終えて帰国して来たのだ。
乙瀬は表面上、澄ました様子を保っていたがその内心では動揺でいっぱいだった。



自分が関わった事で何か変化はあったのだろうか?
何かを変える事は出来たのだろうか?
彼らは無事に死闘を生き抜けたのか?
やはり定められたストーリーは変える事が出来なかったのか?
それとも元の運命よりも更に酷い結果を招いてしまったのだろうか?



どれほど気を揉もうと乙瀬にそれを確かめる術は無かった。
もやもやしながら石段を降りる。
霞むような視界の端を他の生徒が何人かちらほら降りていくのが見える。
乙瀬の後ろから、また一人分のコツコツと規則的な靴音が近づき追い抜こうとする。



「おい花京院! てめえ無視して行く来か!」



低い声が苦々しく吠える。



「はははっ。
承太郎は人気者みたいだから、割り込んだら悪いかなと思ってね。
それに僕、実は学校転入手続きしてからまともに登校していないんだよ。
早めに職員室に行かなければいけないんだ。
僕は先に行かせてもらうよ承太郎」



穏やかで、しかしどこか食えない理知的な落ち着いた声が承太郎の唸りに応えた。
その声は二か月ほど前に聞いた事がある。

乙瀬は思わず足を止めた。
…止めたはいいが、元々ぼんやりとしていたところに急な停止で身体がその動きについて行けなかった。



「…や…べぇっ!」



嫌な浮遊感。
つんのめって石段から落ちていく。
石段はまだ半分も降りていない。
この高さから落ちれば無事では済まない。
良くて骨折…悪ければ死亡か…
石段に倒れ込む身体の痛みを想定して身を縮めてぎゅっと目をつむる。



「っっっ……?」



しかし、想像していた痛みはいつまでもやって来なかった。
うっすらと目を開けば自分の視界の先には石段が続いている。
自分の予想では今頃はもう石畳とお友達になっていたはずなのだが…



「大丈夫ですか?」



乙瀬のすぐそばで男の声がした。
ふとそちらへと顔を向ければ、間近にこちらの様子を窺う紅鳶色の瞳が見えた。



「…あ」



淡い赤茶色の柔らかそうな前髪が彼の右頬にかかり揺れている。
繊細な線の細面に切れ長の目と、秀麗なのにきりりと男らしい直線的なラインの眉。
その男に見覚えがある。

花京院典明



「足は挫いたりしていませんか?」



「大丈夫…です」



そういえば落ちると思った直前、乙瀬の腕に強く引っ張り上げるような感覚があった。
花京院が寸前で乙瀬の腕をつかまえてくれたようだ。

花京院だ…花京院が目の前に居る。
…という事は。



(やっぱり死亡フラグをぶち折るのに成功したんだ)



花京院が生きているならもしかしたらアヴドゥルやイギーも生きている可能性がある。
乙瀬の胸の内が妙にくすぐったいような温かいような心地で満たされた。



願いは通じた。



ならばもう、それだけで充分。
すっきりさっぱり晴れやか爽やかな…そう、新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のような気分だ。
様子を窺う花京院にパっと笑顔を向けた。



「ごめんなさいね、ちょっとボンヤリしてたみたいで。
助かりました。
ありがとうございました!」



礼を述べ、小さく頭を下げると乙瀬は先程までのおぼつかない足取りが嘘のようにしっかりと地を蹴った。
小気味よくトントンと早足に降りて行き、ラストの5段は軽く飛び降りた。
勿論、飛び降りた瞬間に舞い上がるスカートの裾は抑えていた。
先までとは打って変わってアクティブな女子生徒に花京院はやや呆然としたが少しして小さく苦笑した。



「ちょっと変わった子だなぁ…」



花京院の呟きに答えたものかそれとも女子特有の噂話好きな気質によるものか、承太郎の取り巻きの女子達の唐突なお喋りが始まる。



「あの子、二年の八柱さんよね」



「生活指導の田場又先生をかわすためにジョジョを囮にして逃れた子よね」



…という背後からの女子達の会話を聞く。
二年…同じ学年か。
同学年だし同じクラスになる可能性もある。
一応覚えておこうか…
というか初対面からしてインパクトで忘れるに忘れられないだろう。



(…初対面…初対面?…なのか?)



花京院は自分で自分の記憶に疑問を掲げた。
…どこかで見た事がある気がする。



丁度肩口をくすぐる長さの良く磨いた黒檀のような髪。
…あの黒髪が白いベッドが並ぶ部屋の隅っこで小さく震えていたのを見た気がする。

大きなアーモンド形の目はどこかネコ科動物を思わせ、活発で悪戯っぽい印象を受ける顔立ち。
…あの愛らしい猫顔が、いつであったか何処であったか、戦慄と蒼褪めていた気がする。



その記憶はさほど昔の事では無かったと思う。
彼女に見覚えがあるのだとすれば、それはきっとDIOに操られて承太郎を襲った日の前後あたりだろうか。
あの日の前後に会った女子生徒は限られてくる。



「…まさか、彼女はあの時の?」



口中で呟くような小声は幸いにも承太郎ガールズ達には届いていなかったが、花京院と同じく八柱乙瀬に見覚えがあった承太郎は花京院の様子に気が付いた。



「おい花京院…あいつは恐らく保健室での…」



「…やはりか」



「何、シケた面してやがる。
あの手合いの女は結構図太いぜ。
てめえが思ってる程にヤツは気にしちゃあいねえようだしな」



「気にしていないのか…
もしくはあの時に居たのが僕だと気付いていないか…」



…本当に気付いていないのか?
あの時保健室であれだけの騒ぎを起こしたのに。
被害としては女医や男子生徒の方が重症だったが、彼らは花京院が絡んでいる事など知らない。
だが八柱乙瀬は確実に花京院と承太郎が戦っていた(非スタンド使いには訳が分からなかっただろうけれど)現場を見ている。
花京院の顔を覚えている可能性の方が高い。
それとも、非スタンド使いにとってはあまりに現実離れした出来事で頭が混乱していたのだろうか。
花京院の顔を覚えている余裕は無かったという事もありえるのかもしれないが。
しかし、それにしてはどうにも先ほどの彼女の様子が引っ掛かる。
花京院の姿を認識した瞬間、衝撃を受けたかのような驚いた顔をしていたのだ。

…そういえば近くで彼女を見て気づいたのだが、右の頬に極薄く切り傷の痕があった。



(あれはやはり僕のせいか)



当然と言えば当然であるが、随分と怯えさせてしまった。
…また人にこの力と、それを持つ自分が恐れられてしまうのか。
幼いころから味わってきた孤独感がじりじりとせり上がって来る。
今となっては心根分かり合えた仲間や友が居るが、それでもこの孤独な感覚は嫌なものだ。



「…何にしてもだ、花京院。
お前、いつまでもゆっくりしていていいのか?
職員室に呼び出されてんだろう」



「ああ、そうだった!」



花京院は先程の乙瀬と同じように石段を駆け下りていくのだった。


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