ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活
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「…ねえ、なんか外がおかしい!
外が昭和感すごい!」



慌てて部屋に戻ると乙瀬は両親に外が昭和に溢れているという事を必死に言い募った。
この異常事態を伝えなければならない。
息切らしながら部屋へと駆け戻って来た娘の必死な主張を聞いた夫婦は顔を見合わせ、そして娘へと失笑を向けた。



「昭和感もなにも今は昭和でしょ」



「まだ寝ぼけてるのか乙瀬。
買い物に行きながら頭すっきりさせておいで」



と、今が昭和であるのが当たり前のように言い放たれたのだ。



「いやいやいや…今は平成でしょ」



またも両親からは目を点にして「平成って何?」と、言い返され笑われて終わる。
いやいやいやいや…おかしいだろう。
両親はからかっているのか?
いつの間にそんな趣味が悪くなったのだろうか。



「だから、今20XX年でしょ!!」



「そろそろその冗談もくどいわよ。
今は1987よ」



「そんな訳がないだろう!」と、怒鳴りかけた乙瀬であるが、それを寸で止めた。
部屋に違和感の正体に気が付いたからだ
今朝も何か違和感がある事は感じていたが…今はっきりと判明した。
乙瀬は部屋中に視線を素早く配る。

リビングやダイニングにあるもの…日付の入っているもの全てが昭和年号だ。

雑誌などもデザインがやけに昭和感に溢れている。
テレビを見ればニュースキャスターや有名人も、平成ではもう引退している顔が居るし、平成でも現役の者はいるれど大分若い姿をしている。
そんな馬鹿な。
そしていつもテレビ台の下に入れてあるゲーム機の異常も発見してしまった。
そこにあったのは見慣れたP●4ではなく、ファ●コンだった。
ソフトもフ●ミコンのものだ。
八柱家にあるレーシング系ゲームでは唯一のグラン●ーリスモはF-MEGAになっている。



(あのOP曲のムー●オーバーザキャッスル…好きだったのに。
…いや、今はそれどころじゃない!)



自分のバッグをひっくり返す。



(…無い?…無い…無い!)



スマホを取り出そうとするもバッグから出てきたのは財布、ティッシュ、ハンカチである。
自室を出る前に入れたはずのスマホはどこにも無い。
その変わりに出てきた四角いディスプレイ形状のものはなんと…






ポケベル






こんなん初めて見た。
絶望を抱えたまま乙瀬は自室に飛び込んだ。
自分の趣味のアレコレは一体どうなってしまったのか…!
乙瀬の目の前にはなんと…



(…!!)



なんと、いつもと変わらぬ見慣れた平成のものがありふれていた。



高校の制服、学生手帳、教科書色々もいつも通りのだし漫画もPCも変わらず。
普通に平成のものだ。
そう思ったとたん、不意に自分が持っているバッグが先ほどよりも重たさを増した気がした。
中身を確認すると先ほど中身をひっくり返してでも調べ尽したのに出てこなかったスマホがあった。
スマホが出てきた代わりにポケベルが無くなっている。
起動は普通にできる。
しかし、その状態のスマホを持って一歩部屋から出ればスマホは手の中でポケベルに姿を変えてしまった。
部屋に戻るとすぐにポケベルがスマホになる。

乙瀬は考える。
この奇妙な現象について、我ながら頭がイカれていると思うが一つの答えを導き出した。
どうやら、自分はタイムトリップというものを体験しているらしい。
それも単純に自分だけが昔の時代に飛ばされるのではなく、周囲の環境ごと過去と融合している形に近いのではなかろうか。
どういう訳だか、平成の時代に居たことを両親は記憶していないが。
そして乙瀬の部屋がきっと時代の境目であるらしい事は、何となく察した。
だってネットも繋がっているのだから。
繋がっている先はきっと平成なのだろうなと何となく思う。



(どんな原理なのかは知らないけど…
でも、この『平成の部屋』は証拠だよね)



そう思って乙瀬は親を呼んだ。
しかし乙瀬の期待通りに事は運ばなかった。
親が乙瀬の部屋を視認した瞬間、彼女部屋の様子は平成の世界から一変、昭和の世界になってしまたのだから。
本棚の「ワン●ンマン」や「進●の巨人」や「●執事」は消えてなくなりその代わりにこの時代に流行っていた相応の漫画が入っている。
制服も乙瀬が見慣れたブレザーではなくなっていた。
全く知らない、濃紫紺色のセーラー服である。



「何よー、何もないじゃない。
もう冗談は止して、さっさとお父さんの手伝いして頂戴」



そういいながら母親はまた父の単身赴任の準備に戻っていく。
親の視線が乙瀬の部屋から外れた瞬間、部屋はまた平成の世界に様変わりした。



(…お、おう、つまり…)



…つまり。
平成の証拠は乙瀬の部屋でのみ存在しているという事か。
そして乙瀬以外の人間が部屋を見れば、この時代観に合わせた様子に変化してしまう。
という事はきっとお金や身分証明となるものも何もかも、きっと一歩乙瀬の部屋の外に踏み出せば全てこの時代のものにすり替わってしまい、そしてきっと人々の記憶もこの時代に合わせて不自然無いように刷りあわされているのだ。
一体どんな要因がありどんな原理なのかは分からないが。



(…ん、待てよ?)



そこで乙瀬はハタとある事に思い至る。
…今日は日曜日だからまだいい。
だが明日からは?
平日の学生はしかるべき場所に通わなければならない。
学校だ。
果たして、乙瀬はこの時代でどこの学校に通っている事になっているのか。
恐る恐る生徒手帳を手に取り、部屋の外へと一歩踏み出す。
すると手帳に刻まれていた馴染み深い学校名は、馴染みのない文字を刻んだ。






公暁東高等学校






乙瀬は思わず手帳を手から滑り落としてしまった。
嘘だろ。
通っている覚えのない高校であるが、見覚えはある高校の名だ。
それはつい最近乙瀬が見ている、とあるアニメに出て来る高校ではないのか。
最初の一話、二話しかその高校は登場しなかったが確かに記憶している。
しばし呆然とした後、乙瀬は手帳をひっつかみ学校の住所を確かめる。
そして部屋に取って返し出かける準備をし直して、マンションを飛び出していった。
目指すは公暁東高。



(本当に…本当に…?)



まさかまさか…そんな。
住所の場所を探し、目的の場所に近づいてくると遠目にも分かる学校の校舎が見えて来る。


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