ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活14
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ピーンポーン…



平日朝の八柱家に玄関チャイムの音が鳴る。
乙瀬は朝食のトーストを齧りながらドアホンに応じた。



「はぁい」



間延び声であるが許してほしい。
まだ眠気が抜けきっていないのだ。
目だってしょぼしょぼである。



『やあ、おはよう八柱』



瞬間、乙瀬の寝ぼけ眼が一気に冴えた。











■とある女子の異世界生活■











寝起きドッキリでも仕掛けられたかのように、朝っぱらかひどい動悸がする。
何を言うべきか言葉が浮かばず金魚のように口を開閉しながら乙瀬は一人焦り慌てた。
室内を飛び跳ねるような落ち着かない足取りでぐるぐる歩き回り、両手で頭を押さえている。



(待て、落ち着付け…)



ドアホンから聞こえてきた男の声は毎日学校で聞いている声だ。
モニタを改めてしっかり見てみれば、長ランを着込んだ見知った顔の少年が居る。
このマンション8階の住人。
同級生の男子高校生。
花京院典明。



(つまり、どういう事なの…)



何故彼がこんな朝も早い時間から八柱家を訪ねるのか。
同じマンション内なのだからそりゃあ、ホールで顔を合わせるとかはあり得るだろうけれども。
しかし、わざわざ八柱家に立ち寄るなんてどんな用事だ?
寧ろどんな神経だ?
いや、言わずとも分かっているんだ。
彼の思惑ぐらい、分かっている。
分かっているからこそ分からない…混乱中だ。
少し待ってほしい。



ピーンポーン…



呼び鈴が再び鳴る。
まるで乙瀬の回答を急かすかのように。
乙瀬は思わず、キっと玄関の扉向こうに悠然と佇んでいるであろう少年を睨んだ。
ズカズカと足音荒く玄関へと向かい、扉を乱暴に押し開ける。



「嘘だろ花京院!」



彼の姿をこの目で確と認識する早々、目の前の光景を否定したい気持ちがこもった台詞が飛び出す。
母親はもう出勤しているので、この現場を見られなかったのが救いだった。
朝から慌てる乙瀬と正反対に今朝も優雅な花京院は白い陽光にも負けない眩しい微笑で出迎えた。



「マンションが同じなんだし今日から一緒に登校しないか?」



「だが断る」



そう言い捨てるようにお断りすると、乙瀬は扉を閉めた。
閉めたつもりだった。
ガッ、と何かが引っ掛かるような感覚。
見た目には何も変化はない…しかし何かつっかえ棒のようなもので扉がつかえて閉まらない。
花京院が足を滑り込ませている訳でもないし、何かが挟まっている訳でもない。
乙瀬の米神に青筋が浮き上がる。



「…テメ、一般人相手にスタンドは卑怯だぞ」



「スタンド使いがスタンドを使って何が悪いんだ?」



これしきも悪びれない花京院には最早何を言っても無駄であろう。
脱力したように肩を落として諦めの境地に至る乙瀬を満足気に見下ろす彼の姿は少年漫画の主役側の仲間とは思えないくらい悪辣である。



「僕、今まで学校生活で友達と思い出作りってした事なくてね。
折角だから八柱と高校生活を楽しもうと思って」



乙瀬は扉のノブに額を押し付けて朝っぱらから辟易した上目遣いでニコやかな花京院を見上げた。



「いや、うん、あのね。
空条先輩も花京院の友達だよね?ね?
先輩と一緒に登下校するんじゃダメなん?」



「そりゃあ承太郎とも一緒に通いたいさ。
でも学年違うし登下校ルートも途中からだろ。
あと、ファンの子達がいつも承太郎の周囲に居るから声かけにくいし」



「空条先輩ほどじゃないけど花京院ファンも多いんだからね?
貴方にも取り巻きくらい居るでしょーが」



「んー、ところがね。
最近そういうのは無いんだ。
自己主張しない方針を徹底し始めたみたいだ。
皆、道を開けて一定距離から見守ってるっていう感じで…」



「あんた、どこの組の親分だよ」



…ところで。
公暁東高の女子の人気は空条承太郎と花京院典明で二分されている。
比率で言えば承太郎の方に偏りはあるが、その分承太郎ファンはミーハー気質である。
女子に騒がれるのが嫌いな承太郎に限ってそういうファンが多く付いてしまうというのだから御愁傷様だ。

対して現在の花京院ファンは、より訓練されているコアなファンだ。
花京院沼の深みにどっぷりハマったコアなファン。
故にきゃっきゃと黄色い声を上げて「私が私が」と纏わりつくような稚拙で鬱陶しいアプローチの仕方はしない。
花京院が厭うであろう行いはタブーとし、トラブルや周囲への迷惑対策をしっかり守るのが信条なのである。
そのおかげで花京院自身には不快と思える事は無い(ある事もあるが、片手で数えて足る程度)

しかし、実を言えば花京院ファンは最初こそ承太郎ファンのようにミーハーの集まりだった。
今の花京院ファンはよく訓練されている。

花京院ファンは花京院典明の幸福を第一に願う事。
花京院ファンは花京院典明のありとあらゆる行いを悪意でもって阻害してはならない。
花京院ファンは花京院典明のためと称して周囲に迷惑行為をしてはならない。

…では、誰が彼女らをそう躾けたのか。



それは花京院本人に他ならない。



言っても理解できぬ質の悪い追っかけにはDIOですらゲロを吐いた歴戦のスタンド使いの名に相応しい威圧で処遇を下した。
言葉で理解できる賢い追っかけには善人100%の仏顔で言い含めた。
実はこれまでにも徐々にではあるがファンの行動は改善されてきていたが、この短い数日の間に一気に統率されるようになったのは恐るべきと言うか…
まあ、つまり。
現在の花京院ファンは花京院の幸せを第一とし、彼が誰と友好を築こうと、誰と恋を謳歌しようともそれを見守るのが使命なのであった。
ファンとして、その信奉対象の幸せを願うのは当然である。

しかし乙瀬はそんな事など知るはずもなく。



「だけど花京院。
やっぱ悪いけど、あたしにはVIPの隣に付く勇気は無いよ」



「別に君が付いてこなくても構わないさ。
僕が君の隣に付いていくだけだから」



「やめてください」


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