ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活13
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「八柱乙瀬さん。今居る?」



「…はい」



「ちょっと来てくれない?」



「あ、はい…」









■とある女子の異世界生活■









見覚えの無い女子が数名クラスの入り口から顔を覗かせていた。
名指しの呼び出しである。
その日一日の授業から解放された生徒達が各々散り散りに教室から去っていくが、誰もが同情的に乙瀬を見つつも面倒事に巻き込まれないように我関せずを貫いていた。
乙瀬はこっそりと辟易とした溜息を吐いた。
あまりいい予感はしない。



(また例のパターンかな…)



最近、ちょくちょく女子生徒から呼び出されたり、声を掛けられたりする。
見知った顔の女子も居るし、まるっきり接点の無い女子も居る。
しかし、彼女らには共通点があった。



「乙瀬!私も一緒に行こうか?」



弥栄子が友人の危機を感じて乙瀬を守るように隣に並ぶ。
入り口で待っている女子達の視線が弥栄子にも突き刺さるが弥栄子も睨み返している。
元々が大人っぽくて美人の弥栄子が怒っている顔は妙に迫力がある。
一瞬女子達が怯むが、それでも彼女たちは退く気が無いらしい。



「私らが用があるのは八柱さんだけなんだけど」



「あら、別にいいじゃない着いて行くくらい。
それともなぁに?他人に見られちゃまずい事なの?」



「…別に、そんなんじゃないわよ。
ただ、ちょっと八柱さんに聞きたい事があるだけ」



「ちょっとした用事程度なら今ここで話せばいいじゃない」



「…っ落ち着いて話したいのよ」



弥栄子の鋭い切り返しに「うっ」と詰まる女子達。
明らかに「ちょっとした用事」程度で済まない内容だろう。



「あー、やっちゃん。
大丈夫だよ…ちょっと行ってくるよ」



今にも罵りあいの喧嘩勃発しそうな弥栄子を押しとどめる。



「やめときなよ乙瀬。
今回のはちょっといつもとは雰囲気が…」



「うん、そうなんだけどね。
だけど話しちゃんと付けなきゃ、きっと収まり付かないだろうしさ」



「だからって!」



「平気だから何とかしてくるよ」



『何とか』とは、一体何をどうするのだろうか。
きっと乙瀬本人にもよく分かっていない。
ただ、この場をいかに荒れる事なく平穏に治めるかを考えただけの信用無い『平気』である。
弥栄子が納得するはずもなく、乙瀬をとどめようとする。



「なあ、君達」



今まで事の成り行きを静観していた男が口を開いた。
入り口の女子達の顔つきが更に険しく強張った。
乙瀬は内心でその男に向かって文句を垂れた。
今乙瀬がこうなっているのは、大体この男のせいだからだ。



「八柱に『ちょっと』用事ってどれくらい時間かかる?」



「…え…と…その…多分、その…5分くらいかも」



「そうか。それなら…」



『5分』という言質はとった。
彼の内面を知っている者には、紳士仮面の下にあくどい顔をしているのが見えただろう。



「八柱。用が済んだらちゃんと戻っておいで。
5分くらいなら僕は待ってるから一緒に帰ろう。
もしもそれ以上に時間が掛かるようなら迎えに行く」



その言葉はつまり「乙瀬を5分以内に無事に返せ」という女子達に向けた牽制である。
彼…花京院の言葉を聞いて女子達は苦り切った顔をする。
これで、乙瀬が何か手ひどい真似をされる事はないだろう。

何せ、あの女子達が乙瀬を呼び出した理由というのは、他でもないこの花京院との関係についてなのだから。
彼女らは花京院ファン、または承太郎ファンの女子なのだ。

近頃の乙瀬は承太郎と花京院との仲が良い。
…というよりは、彼らの方が絡んでくるという具合だろうか。
承太郎は最近ではどちらかといえば弥栄子との海談義を目当てに二年の教室まで来ている節があるが、乙瀬も一緒にお呼ばれされている事に変わりはない。
そして花京院はもう傍から見てもあからさま過ぎる程に乙瀬贔屓だ。
だから乙瀬は彼らのファン達から関係を問われる事が多いのだった。

学校の人気NO1男子とNO2男子を独占しているも同然なのは弥栄子も同じ様な物であるが、彼女には呼び出しや嫌がらせが殆どなかった。
皆、弥栄子の前では根幹で女としての負けを認めているのだろう。
そして弥栄子の掘り深めの顔立ちが一度睨んだ顔をすると目力が一気に強くなるのだ。
だから彼女らはすっかり気後れしてしまい弥栄子には強く出られない。
しかし乙瀬は弥栄子と違いイマイチ迫力に欠ける。
大きな猫目は確かに日本人の平均から見れば力強く見え…いや、力強くは無い。
彼女の猫目はメンチ切りに役立つものではなく愛嬌に特化していると言っても良いだろう。
そして何より乙瀬は女子相手に凄むという事ができない性格である。
嫌味を言われてものらりくらりか、困り顔で弁解して回るだけである。
そのせいで、大体この手合いの呼び出しは乙瀬に集中してしまっているのだ。

呼び出しの多くは本当に『関係の確認』程度で済むのだが、時折今回のような過激派がやって来る事もある。
そういう時には花京院か弥栄子が犬の鼻より敏感に危険の匂いを察知して間に入っているのだ。



「行ってくるよ。
5分以内…には戻れるようにする」



5分以内…普通に考えて、場所移動の時間で潰れてしまう時間だ。
よって、話はこの教室の近くでなければ出来ない。
人気の無い所に乙瀬を連れ込むのは無理だ。
結局、教室を出た廊下で話をすることになった。


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