ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活12
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二月初頭



暦の上ではもう春になるが実際にはまだ寒さは続いている。
冷え込む日には雪が降る時だってある。
本日は少々冷えた。
空模様は青く晴れているが空気だけは身に染みるように冷たい。

そんな清々しく冷えた朝の学校。
空気は冷えるが気合で短いスカート丈を維持している女子生徒が一人、マフラーを鼻先まで上げていつものようにのんびりとした足取りで登校してくる。
鞄を持った右手とは逆の左手にはビニール袋をぶらさげている。
登校時間は特別早くもないが遅くも無い。
校門で風紀の乱れをチェックしている委員会や生活指導の目を上手い事掻い潜り、誰にも咎められる事無く悠々昇降口までやって来る。
靴から上履きに履き替え、二年の教室に向けて廊下を歩く。

階段を半分昇った所で、彼女は背後から少々苛立ったような声を掛けられた。



「おい八柱!」












■とある女子の異世界生活■












名を呼ばれて振り返る。
彼女を呼び止め、少し眉を顰めながら階段を昇って来るのは赤茶色の柔らかそうな髪の少年だった。
右サイドだけ長く伸ばした特徴的な前髪と赤いチェリーのようなピアスが動きに合わせて揺れている。
今日もきっちり着込んでいる長ランであるが、これは今まで見慣れた深緑色のものではなく、この学校指定の黒い生地で出来ていた。
どうやら新しい制服が仕上がったらしい…が、規定の学ランを着る気はないらしい。
黒い長ラン姿の彼が何だか新鮮であるが彼は隣席の男子生徒…花京院典明に違いはない。

花京院の両手にはクラスの配布物であろうプリントの山と1限目の教材や日誌…色々と荷物が抱えられていた。
彼が今日の日直なのだろう。
あれを一人で運んでいるのか。
大変だな。
ハイエロファントグリーンを使えばそこまででもないのか?
いや、しかし人目のある所では出来ないか。

などと、ぼんやり思っていると花京院が乙瀬の目の前までやって来た。
一段下に居る彼の目線はほぼ乙瀬と同じくらいだ。
なるほど、階段一段分の身長差があるのか。



「おはよう」



「おはよう。
で?他に何か言うべきことは無いのか?」



同じ高さの目線にある紅鳶色の目が眇められた。
もしかしなくてもご機嫌斜めだ。
それも、どうやら原因は乙瀬にあるらしい。



「ん?」



「『ん?』じゃあないぞ」



花京院の大きな口元が呆れの形に歪む。
そして基本的に女子には紳士な花京院が、日誌で乙瀬の頭を叩くという暴挙に出た。
あの花京院が…非スタンド使いとは分かり合えないだろうと諦観し他人とは距離を築き善良人の仮面を外さない花京院が、随分と素顔を晒す様になったものだ。

…それは、乙瀬の秘密が空条家で明かされた日から。
花京院の距離感が縮まったように思う。
精神的な意味でも物理的な意味でも。
花京院の他人に対する厳重に閉ざされた心の扉が乙瀬に対して開かれたようだ。
乙瀬にスタンドは見えないが、乙瀬はスタンドを知っていた。
そして旅の無事を祈り、助言をくれた。
そのおかげで花京院は生き残れたのだから。

心を開いた花京院は相変わらず物腰穏やかだが、以前と比べると遥かにフランクに接してくるものだ。
どうフランクかというと。

腹黒院。
ドS院。
無遠慮院。
あつかまし院。

などなどである。
まあそれは最初から知っていた事だ。
花京院典明という男は恵まれた体格でありながらも繊細な佇まい、冷静で落ち着いた紳士的な振る舞い、丁寧な言葉遣い、どこか憂い帯びた美しさや気品を持つゆえ女性的に思われている。
流石は三部のヒロインとまで言われるほどだ。
しかしその実、我が強くて力任せな一面や攻撃的で熱い一面もある。
いかにも優等生ですという顔をしてるけれど、校則違反(ピアスと長ラン)は伊達では無い。
それはそうだろう…スタンド使いは皆、強い闘争心でスタンドを操っているのだから生まれつきのスタンド使いである花京院には充分にその猛々しい戦士の素質が備わっている。
つまり、表面上のたおやかな印象とは逆に、スタンド使いとしても一個人としても男らしい根幹があるのだ。
彼のスタンドは敵をひきちぎると悦びで狂い悶えるし、ポルナレフの顔面に仲直りの握手代わりに肘鉄くらわすし、ベビーフードにうんこを混ぜて赤ん坊に食わせたりするし、自分が嫌な事をポルナレフにさせようとするし、作中で描写される中で様々なドSな言動がそれを証明している。
善良人の仮面の下にはとんでもない鬼畜が潜んでいたものだ。

…であるが、それは気を許した仲間内でのみ見せられる素顔なのだ。
たぶん乙瀬に対してはポルナレフと同等くらいの意識なのではないだろうか。



とにかく。
今の花京院は乙瀬に対して己を偽る事がない。



「君、今日僕と日直当番なの忘れているだろう?
しっかりしてくれよ。
今日は配布物多いんだから手分けしてくれ。
ほら、コレ半分でいいから持って」



「あ、はい…すみません」



「僕がここまで持ってきたんだから日誌も頼むよ」



「…お手数おかけしました」



「以後気を付けるように」



「…はい」



容赦が無く口やかましいんだなこれが。
割と手も出る…もちろん充分な加減はされているが。


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