ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活8
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「そいつぁ明らかに怪しいぜ」



髪を逆立てたフランス人が言う。
彼の側で丸くなって寝ているボストンテリアは興味無さげにしているが耳だけはこちらの話に傾けている様だ。



「確たる証拠が出そろった訳ではないが…
現状、『彼女』が一番怪しいのではないかと私も思う」



エジプトの占い師もフランス人に同意する。



「うむ…この手紙と『彼女』の筆跡は同一のものだろうな。
承太郎、花京院…例の『彼女』…八柱乙瀬という娘をもう少し観察して見極めてほしい。
そして出来るならば彼女を連れて来れるか?」



手紙を管理していたアメリカの不動産王は高校生二人へと、老齢にしてはまだまだ力強いエメラルドの瞳を向けた。

空条邸の一室。
エジプトを旅した面々が会している。
あの旅の後、DIOとの戦いの後始末をしながらも皆それぞれの生活に戻っていった。
それが今、件の手紙の差出人のために、また集まっているのだ。

結局、手紙の差出人が誰なのか、どんな思惑があったのか、何もかも謎のままだった。
それが今、明かされるかもしれないのだ。
皆、少なくとも手紙の主が敵対的ではない事は何となく分かっている。
あの手紙に命を救われたのだから。

それでも謎を謎のままにはしておけないのが、あの旅で培ってきた性分であろうか。
脅威になるかもしれない…その可能性はまだ捨てきれていないのだから。



「…ちっ、仕方ねえ」



「任せてくださいジョースターさん」















■とある女子の異世界生活■













一月末の某日



「おはよう八柱さん。
…八柱さんは来週提出する科学のレポートもう書いた?」



乙瀬が登校してくると、既に教室に居た隣席の男子が声をかけてきた。
彼女は「またか」と内心で嘆息する。
近頃、彼は「こう」なのだ…



「…おはよ。
いや、レポートはまだだけど」



「そうか、それなら僕と一緒に書かないか?
実験の時同じ班だったし。
僕、実験作業中は経過の記録あんまり取ってなかったんだ。
八柱さんは記録してただろう?
一緒にいいかい?」



「え?あー…いや、でもあたしもそこまでしっかりメモとか取ってないからなぁ。
記憶力も良くない方だから多分、花京院君の方がしっかり覚えてると思うよ」



こんな授業態度不真面目な奴を頼りになんかしてないで花京院一人で書いた方が絶対に効率がいいはずだ。
というか、花京院は元々頭が良い。
以前の学校で習っていた内容が公暁東高よりも進んでいたというのもあり、二か月の学力ブランクなんてまるで無かったかのように、早々にこのクラスの勉強に追いついている。
転校して来た最初の1週間ほどはほぼ全教科で補習を受けていたようだが、今ではそれも1教科を残すのみ。
頭の出来がまるで違うのだ。
ぶっちゃけ、今更乙瀬を頼ったところで収穫など無いだろう。
得るものがあるとすれば、時間の無駄と呆れくらいなものだ。



「だったら尚更一緒にやろう。
実験内容覚えてないんなら、書く時に困るだろう?」



「あー…」



「今日の放課後でいいかな」



「えー…」



「放課後どこか落ち着ける所に行こう。
それでいいだろ?」



「…あ、はい」



何これ。
もう、何だこれ。
花京院に押し切られるような形で、思わず了解してしまった乙瀬であるが内心焦っている。



(…なんかマズイかもしれない)



近頃の花京院は「こう」なのだ。
これまではもっと「教科書見せて」とか「プリント回収」とか、そういった事務的な用がなければ花京院から話かけるなどとなかったのに…
最近の花京院は些細な事や、特に急でもない用事で乙瀬に構う事が多いのだ。
変化が起きたのは教科書を一緒に見たあの日あたりからだった気がする。
徐々にではあるが花京院の態度の変わり方に何か予感がする。



(もしかして何か勘ぐられてる?ヤバい?
…いや、落ち着け…素数でも数えて…素数って何だっけ。
まあいいや…とにかくここで焦っちゃ駄目だ。
落ち着いて、怪しまれない事が第一だ…
逃げて回ってるばかりじゃきっと敏い花京院君にはすぐバレる。
なるべく普通に…普通に…)



と、内心の動揺をひた隠そうと努めていた丁度そのタイミングで、「それ」は起こった。
ころり…と花京院の机からペンが落ちた。
そのペンが空中でピタリと静止した。



「……」



その空中で止まっている不自然なペンを何事も無かったかのように掴んで机の上に戻したのは花京院である。
ハイエロファントグリーンを使ったのは明らかだ。



(見なかった事にしよう)



そう思った乙瀬であるが…
紅鳶色の瞳が乙瀬の不自然に無表情な顔を映していた。
がっつり視線が合う。
乙瀬の口元が僅かに引きつる。
その様子を映していた花京院の目が一瞬スっと細まった。



「いやぁ、驚いた!
不思議な事もあるものだなぁ?」



などと宣う花京院は同意を求めるかのように乙瀬へとわざとらしい程に目を丸くして驚いた顔を向けている。
その紅鳶色の瞳の奥に強い光を宿している。
一気に背筋に霜が降りた。



(さ…さ、探り入れられてる!?)


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