ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活7
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その筆跡を知っている。



あの旅の最中で幾度となく見てきた文字だ。
忘れるはずが無い。
だってそうだろう?

あの手紙のおかげで、あの旅を終えた今もこうして生きていられるのだから。

忘れはしない。
確かに知っている。



君の筆跡を僕は知っている。













■とある女子の異世界生活■













乙瀬と花京院のわだかまりが解けたあの日から。



乙瀬の隣席からチラチラと窺うような視線は消えた。
だからといって、二人は特別仲が良いというわけでもなかった。
挨拶や用があれば話しかけるが、それ以外では別にこれといった親密な会話は無い。
花京院が乙瀬に対する時は、他のクラスメイトの時よりは身構えが多少崩れているという程度だろう。
ようやく「普通」のクラスメイトとしての関係になっただけなのだ。

ただ、花京院はこれまでの人生でその一般に言う「普通」とやらを経験したことが無かった。
50日間の旅の中でようやく気兼ねなく接する事が出来る友を得る事ができたのだが、それとて相手もスタンド使いという一般人の枠からは外れた者同士だ。
花京院にとって一般人との普通の関係というのは乙瀬が初めてだった。
クラスの友人は他にも出来たが、やはり気安さという点においてはどこか一線を画するものがあるようで、転校して来てからこの数日ですっかり女子に囲まれるのが日常と化してきた花京院がまず最初に助けを求めるかのように視線を向けるのは乙瀬である。
しかし肝心の乙瀬は「お隣さんは今日もモテモテだな」と我関せずを貫き通しており、たまに目が合っても温くニコリと微笑むだけだ。

そんな具合にスクールライフを平和?に送る毎日である。
ジョジョの世界であるがスタンド使いに関係しなければ割とまあ、平穏な生活といえよう。

そんなとある日の授業での事だ。



「ああ、しまった…」



…という声が、授業の準備をしているらしい隣席から聞こえてきた。
ちらりと様子を見ると、彼は少々困った顔で開けた鞄の中を見下ろしてため息をついていた。
それから乙瀬へと申し訳なさそうに口を開く。



「八柱さん。すまないが教科書を見せてくれないか?
実は時間割を明日のと間違えてしまったようで…この時間と次の授業のを見せて欲しい」



「ん、いいよー。
花京院君ってしっかりしてるイメージあるんだけど意外とそういうポカもやらかすんだね」



「ははは…昨夜はちょっと夜更かしし過ぎたみたいでね」



実は前日、花京院は去年12月末頃に発売したゲームの某岩男シリーズの2作目に熱中してしまい夜更かししていたのだ。
本当は発売日当日に買ってプレイしたいところだったのだが、その時期はエジプト遠征中だった。
帰国してくるなり真っ先にした買い物は「ロ●クマン2 Dr.ワ●リーの謎」である。
エ●ーマン?余裕ですよ。
で、今朝寝ぼけて時間割を間違えてしまったという事だ。
実家で両親と暮らしていた時には夜更かしゲームに興じるなんて真似は出来なかった。
一人暮らしを始めて早速その楽しみを味わったはいいが、そのツケはきっちりと回って来たという事か。



「花京院君でも夜更かしするんだー」



「あまり優等生だと思わないでくれよ。
僕だって時には羽目を外し過ぎてしまう事くらいあるさ」



「確かに優等生は学ラン改造したりピアスつけたりしないな」



「…似合わない?」



「いや、いいと思うよ?
花京院君って分かりやすい個性でさ」



「分かりやすい…目立つのがいい事ばかりっていう訳でもないけどね」



苦笑い気味の花京院の様子からして、何かあったのだろう…転校して来て早々に。
それは容易に想像がついた。
何せ乙瀬にも経験があるからだ。



「先輩方に早速、目を付けられた?」



「どこの学校にもこういうのってあるもんだなぁ」



しみじみとした口ぶりからして前に在学していた学校でも似たような事があったのだろうなと察せられる。
それでも長ランとピアスを止めないあたり、彼の拘りを感じる。
…まあ、恐らく花京院の場合は服装の事もあるだろうけれども、それ以外の要因もありそうだ。
この紳士な性格も細面で端正な容姿も頭の回転が良い所も…とにかく女子ウケする。
それが気に入らないのだろう。

たおやかさのある美男子花京院とは対照的な、いかにも「逞しい美丈夫」という外見の承太郎は花京院が来る前も来た後も変わらずのモテっぷりであるが、この学校内で承太郎に喧嘩をふっかける勇者(愚者)は居ない。
承太郎が滅法喧嘩強いという噂は近隣校にまで広まっているし、何よりも見た瞬間の威圧感がすごいので対面した瞬間にもう決着がついていることが殆どだ。

対して花京院は長身で骨格もしっかりしているが、それでも繊細でどこか儚げな印象がある。
承太郎の分まで不満を抱えている不良たちからすれば格好の八つ当たり対象なのだろう。
廊下や登下校路などで上級生から声を掛けられどこぞに連れていかれている花京院の姿を見たという証言をチラホラ聞く。
されど誰もが想像したであろうボロボロに叩きのめされた花京院の姿を目撃した者は居ない。
呼出し直後には多少、制服に汚れが付いていたりするが基本的にはノーダメージである。
花京院は登校して来てから今日この日まで毎日健康そのもの至ってスマートに振る舞っている。
近々、花京院に喧嘩を売る者は居なくなるのではないだろうか。



「花京院君、見た目は結構女性的な柔らかい印象あるのに喧嘩強いんだね」



まあ、つまり、そういう事になる。
というか、スタンド使いに非スタンド使いが勝てるはずがないのだ。
当然の結果であろう。



「女性的って何だい失礼な。
僕は心も体も男以外になった覚えは無いぞ。
それに両親には内緒にしてたけど、実は結構昔から喧嘩売られる事が多くてね。
慣れてしまったよ」



「へぇー…」



なるほど生まれつきのスタンド使いであるとはいえ、エジプト遠征で見せた数多くの機転やスタンド技術は17歳の少年にしては卓越しすぎていると思ったら…
喧嘩で培ってきた実戦慣れのおかげなのか。
などと考察する乙瀬の反応をどう勘違いしたか、花京院は急に表情を曇らせた。



「…ごめん、喧嘩が得意な男が隣だなんて嫌だよな。
この話はもう終わりにしようか」



「え?いや別にあたしは気にしてないけど。
花京院君から吹っ掛けた喧嘩じゃないんでしょ?」



「ああ、まあ…そうだけども」



「じゃあ正当防衛じゃん」



大人しそうな見た目に騙されて八つ当たりに絡んでいった馬鹿が悪いのだ。
スタンド使いに喧嘩売る方が間違っている。
まあ、一般人にはスタンドなんか分かるはずがないのだけど。
でも花京院のせいではない。



(一般人とのたかが喧嘩のためだけにスタンドを出すのは、やり過ぎな気はするけども悪意向けられてるんだもんね。
それに複数人だったり相手が凶器を持っていたりする場合もあるだろうしなぁ)



…いや、案外ただの喧嘩の時には生身かもしれない。
作中、所々で意外と武闘派と思われる行動があったのを思い出す。
タワーオブグレー戦での当て身に始まり、仲直りの握手代わりの肘鉄に、そしてバックブリーカーは実はラバーソールの技というより花京院本人の行動を綿密に模倣した技なのではないか?疑惑もある。(レロレロは本人の行動だったので、バックブリーカーももしかして?)
…まあ、何にしても身を守るためなのだから、スタンドを使うのだって当然の対応だろう。



「それにさ…勝手なイメージでまた言うんだけど、ごめん。
花京院君の事だし必要以上に相手を痛めつけたりとかはしないでしょ?」


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