ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活6
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花京院は生い立ちからして対人関係では他者に深く立ち入ることを拒む。
それはきっとスタンドの存在を誰にも認知されず奇異の目で見られてきた事が起因だろう。
スタンドを理解できない者には、スタンドの世界を受け入れられない。
その花京院の持論は偏見の極論ではあるが、同時に概ねの正解でもある。
人は自分の理解を超えるものは受け入れがたいものなのだ。
他者から嫌悪の目で見られる事を恐れているのだろう。
スタンド…ハイエロファントグリーンを嫌悪され拒まれる事、それは花京院の存在自体を嫌悪され拒まれるも同義なのではないか。
そんな思いを抱きながら育って来た彼は、表上はスマートに紳士的に他人に対応するが、それはある意味対人恐怖故の自己防衛手段なのかもしれない。
穏やかな表情のその内に秘めている熱い魂も、尊敬に値する人物でなければ頭を下げる事や従属する事を嫌う一面もあるプライドの高さも…それら全て品行方正な殻で包んでいる。

波風たたせず、当たり障りなく。
優等生、善人、好青年。

花京院は実際にいい人なのだろうけれども…
わずかな心の内側すらも気を許した者以外には、誰にも悟らせないように更に「いい人」の仮面を被って本来の花京院典明という素顔を隠している気がする。
「いい人」である花京院典明は、自分のせいで怪我を負わせた隣席の女子にきちんと詫びねばならないのだ。
花京院なりの基準で「謝罪と許し」の形が成り立たなければ、この先も彼は乙瀬に対して引け目を感じ続けるだろう。



(ああ、はい、分かりました。
それなら、ここできちんと決着つけますか)



事あるごとに隣席から気遣ってる気配をいちいち向けられるのは鬱陶しい。
きっと何かにつけて右頬のこの傷痕を見ては保健室事件を思い出して罪悪感を感じてしまうのではないだろうか。
であれば仕方ない…少々『事情』に入り込む危険を冒すが、ここできっちりさっぱりと互いに気持ちを晴らしてしまおう。
もちろん、踏みこみ過ぎない程度に線引きはするが。
乙瀬は花京院の顔をじっと見つめ返す。



「花京院君さ、顔つきっていうか表情っていうかさ、すっきりしたよね」



「え?」



「あの時はそりゃまあ、正直に言うと怖かったよ。
けど、今はあの時と雰囲気随分違うじゃん。
空条先輩との間にどんな因縁があったのか知らないけども、きっと何か解決したんでしょ?」



「…ああ…そう、だな」



「あの時は周囲お構いなしって感じで喧嘩してたけど、今はどう?
まだそういう気分になりそう?」



花京院は真っすぐに乙瀬の目を見て、はっきりと力強く言葉を発した。



「いいや。
もう二度とあんな真似はしないよ」



「そう。なら、それでいいの。
今の花京院君はあの時の花京院君とは違うっていう事なんだよね?
それならいつまでも過ぎた事を言わない。
男ならビシッと前だけ向いてなさいよ」



乙瀬はフっ、と女子にしては無駄にイケメンオーラを出しながら微笑して右手を差し出した。



「大事なのはこれからでしょ。
だから、これからよろしく…お隣さん」



「……」



花京院は唖然とした風に大きめな口を半開きにしていたが、ややあって乙瀬の右手を見下ろして力の抜けた笑顔を見せた。



「…こちらこそ、よろしく。
お隣さん」



そしてしっかりと乙瀬の右手を握り返したのだった。
そんな二人を静かに見守っていた承太郎は学帽の鍔を掴んで下げ、お決まりのセリフを言う。



「ヤレヤレだぜ。
だから言っただろう花京院。
この手合いの女は結構図太いと」



承太郎の口元はほんのりと微笑んでいた。
不愛想でそっけない態度の承太郎であるが、彼は何だかんだで優しい男だ。
戦友で親友の花京院を心配していたのだ。
だからこそ、乙瀬の行方を捜していたハイエロファントグリーンに屋上に向かう姿を見かけた事を教え、そして花京院に頼まれるまま彼が着くまでの間、乙瀬が移動したりしないようにと足止めしに屋上までやって来たのだ。
そんな友達思いの承太郎から乙瀬は割と失礼な「図太い女」認定されたが、それに怒る様子などなく、したり顔をしていた。



「あれ、知らないんですか?
女は皆図太いんですよ。
大なり小なりあるでしょうけどね。
性質の違いはあれど、何かしら強かでなきゃ女なんて性別やってられません」



乙瀬の言葉を聞いて、自分の周囲に居る女達の逞しさを知っている承太郎は苦々しい顔をした。
不良先輩と図太女子のやりとりを見ていた花京院は思わず軽快な笑い声を上げるのだった。

17年の孤独と50日間の戦いの旅を経てきたスタンド使いの少年は、異世界からやって来た一人の少女が託した手紙と願いによりようやく青春を謳歌できるようになったのだった。
「全く普通の学生」とは言い難い部分もあるだろうけれど、今までの彼の生き方からすれば年相応の学生生活というものはまるで見違えるような世界だ。
花京院典明がようやく手に入れた心と身体の平穏だった。






しかし、八柱乙瀬の「普遍的平穏」はある日、突如として訪れた不幸により終わりを告げる事になる。
不幸、というよりは不測の事態であり不足の計画性であり、己で掘った墓穴にハマるというしょっぱい出来事なのである。


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