ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活6
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この季節、朝の教室はまだ冷えている。



ストーブは付いているものの部屋の隅々まで温風はなかなか届かず、窓際最後列の乙瀬の席はまだ温まる様子が無い。
最後列で窓際なんて特等席と思っていたが冬場は中々に厳しいようだ。
窓に叩きつけて来る寒風が窓の隙間から僅かに吹き込み、乙瀬は両腕をさすった。
しかし今は寒さもさほど気になってはいない。
今朝、登校してくる時にさっぱり晴れやかな気分になれたからだ。
この寒さも心地良い程に清々しい。



(おめでとう生存院!)



作中で死ぬはずだった花京院が生きていたのだ。
二か月前に散々悩み悩んだ果てに勇気を出して手紙を託し、大事な形見までお賽銭にした甲斐があったというものだ。



(…でも、だからといって花京院や空条先輩とお近づきになろうとは思ってないけどね)



彼らは善人であると知っているし、彼らが嫌いとかそういうわけでは無い。
寧ろ生きていてほしいと願ったくらいだからキャラクターとしては好きだ。
生きて戻って来た花京院の姿を見た時は本当に嬉しかった。
それでもだ。
それでも関わりたくない…というか関わってはいけない。



理由その1
作中の知識をうっかり口滑らせでもしたらえらいこっちゃになるからだ。
もしも危険因子扱いでもされようものならたまったものではない。

理由その2
スタンド使いとはあまり関わら無い方が得策だと思うからだ。
スタンド使いはスタンド使いに引かれ出会うらしいから、新たな脅威となるスタンド使いがやって来ないとも限らない。
もしものその時巻き込まれるのは御免だ。



とにかく色々な意味でも御免したい…
…と思っていた矢先である。



乙瀬にとって今問題の渦中の人物が教室に現れたのは。



教室がざわついた。
朝のホームルームの時間になり中年のお人好しそうな担任が入って来る。
それから少し距離を置いて背の高い男子生徒が入って来たのだ。



唖然と見つめた視線のその先には淡い赤茶の柔らかそうな髪と深緑色の長ラン姿の転校生が居た。









■とある女子の異世界生活■









(ああ、うん…)



乙瀬はちらりと自分の隣の空席を見た。
乙瀬の席は教室の窓際列の一番後ろ。
元々は人数の都合上、乙瀬の隣席は無く一人だけの特等席であった。
それが今朝になってみたら自分の席の隣に見慣れぬ机と椅子が用意されていたのだ。
自分の席を間違えたのか?それともクラスを間違えたか?と一瞬勘ぐった。
が、確認した自席に置きっぱなしの私物類は乙瀬の物である。
誰ぞが机を動かしてそのままにしたのか…とも思ったがそれにしては机は小奇麗だったし、教室内の見慣れた机の配列が乱れている様子はなかった。
明らかに新しく置かれた席である。
その時点で予感はあったが…
乙瀬は一体どこまで彼らと縁があるのだろうか。



(スタンド使い同士の引力が働いてる訳じゃないってのに…
あたしはスタンド使いじゃないよ)



まさか実はスタンド能力を秘めているとでもいうのだろうか。
試しに念じてみたりするが何も出てこない。
乙瀬はクラスメイト達が花京院に向ける好奇心の視線とは違う諦観に似た視線で壇上を見遣った。
自己紹介の最中クラス中の注目の的(主に女子から)となっていた花京院は窓際後ろの席に知った顔を見つけて目を丸くした。
しかも自分に宛がわれた席に向かって見ればそこは彼女の隣であった。
ボブカットの黒髪がさらりと揺れて花京院を黒瞳が見上げる。



「…今朝はどうも」



「同じクラスなんだね。
隣同士よろしく…八柱さん…だったよね?」



「…うん。こちらこそ、よろしく」



どこか憂い帯びた繊細な印象のある美男子花京院に湧きたつ女子が乙瀬に羨望の視線を向けた。
それではここで、作中登場人物と下手に関わってしまった場合の面倒な理由その3を述べましょう。

理由その3
ファンの女子に殺されるかもしれない。

それでも幸いなことに花京院は元から他人に対して距離を保つ(アニメ知識で得た彼の幼少期からイメージ)から、その辺は有り難い…と、乙瀬は思っていた。
余程にこちらから絡みに行かない限り、花京院ならその辺のことは大丈夫だろう。
などと思いながらいつも通りに一日を過ごす。

ただ、気になるのは花京院が時たま何かもの言いたげに視線を乙瀬に向けて来ることだった。

朝のホームルームからそして…4限目となった今も。
実は授業が終わる度に花京院から何か話しかけようとしている気配はあった。
ただ、そこは転校生の宿命とも言うべきかな、あっという間に花京院の机周囲に人垣が出来てしまうのだ。
特に女子の。
そんなわけで花京院は結局、時々乙瀬に何かを伝えたい視線だけを向けるだけだったのだ。



(…ま、まさか…まさか?)



乙瀬の背に冷や汗が伝う。
手紙の件がバレたのだろうか?
いやそんなはずはない。
乙瀬は人伝に手紙を渡したのだしその後すぐ空港を出た。
顔は見られていない。
大丈夫だ…こちらから手紙の事やジョジョの話に関する事をしゃべらなければ怪しまれることは無い。

4限終了のチャイムが鳴る。
各々昼食タイムの動きを見せる。
学食組の幾人かは授業終了少し前から財布を取り出していたらしく、号令終了と共にダッシュで教室から消えた。
まあ毎度のことだ。
それに対して弁当持参組はのんびりである。
授業終了前にはひっそり弁当箱スタンバイをしており終了と同時に競歩の勢いで一斉に動き出す。
…あれ、のんびりって何だっけ?
弁当箱を持った数名の女子生徒が数人、瞳に好奇心と少しの下心を含ませてこちらにやって来るではないか。



(…ああ、なるほどな)



乙瀬は彼女らの目的を察した。
女子達はあっという間に花京院の机周辺を取り囲む。



(こいつぁ都合がいいや)



乙瀬は自分の弁当箱を持つと席を立った。
親友の弥栄子は最近彼氏と昼を共にする事が多いので乙瀬は大体その時の気分で女友達の輪を転々としていたが…
しかし本日は他の女友達も花京院に夢中である。
よってボッチ飯が確定となった。



(ま、たまにはボッチ飯もいいか)



一人考えたい事もある。
万が一にも手紙の事で探りを入れられるのでは面倒だ。
花京院が女子壁によって埋もれたのをいいことに、教室からおさらばしてしまおう。


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