ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活5
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あれから二か月。



季節は1月半ば。
本日は休日。
相も変わらず寒い日が続く。
ちらほらと白いものが空から舞う。
東京でも雪は降るが、東北とは違い雪質は水っぽいみぞれ雪である。
人が歩いた後は踏み固まるよりも前にびちゃびちゃの半溶けのシャーベット状態になってしまう。
マンションのホール前の石畳は滑りやすくなるので歩行には気を付けなければならない。

八柱乙瀬は外出から帰宅してくるとマンション前に一台のトラックが停まっている事に気付いた。
引っ越し屋だ。
…という事は、マンションに誰かが越してきたのだろう。
引っ越し用トラックの中では一番小さなサイズのものが一台だけ…となれば、新たな住民はファミリーではない。
所帯ならばもっと大荷物になるはずだからだ。
二人暮らしか…いや、もしかしたら一人暮らしかもしれない。
7階まではファミリー向けの分譲であるが、8階からは独身者向けの賃貸もある。
その可能性は高いだろう。

そんな事を思いながら乙瀬は帰宅した。









■とある女子の異世界生活■














「ただいまー…ひい寒い寒い」



「おかえりなさい。
ポットのお湯沸いてるわよ。
暖かいもの飲んだら?」



母親が帰宅した娘を出迎えた。
乙瀬は早速マイカップにインスタントコーヒーと砂糖を入れはじめる。



「ここのマンションに新しく住人が引っ越してきたみたいだね」



一階で見かけた引っ越しトラックの事をなんとなく話す乙瀬。
母は「ああ…」と思い出したように頷いた。



「さっきポスト見に行った時にお母さん、その人と会ったわよ」



引っ越しの荷物を運んでいる最中だったらしく、ホールですれ違ったのだそうだ。



「男の人…いえ、随分落ち着いて見えたけどまだ二十歳前くらいの男の子かしらね。
かっこいい子だったわよー。
所作は洗練されてて線が細い感じなのに体つきはしっかりしてて背も高くって」



「ふーん」



乙瀬は半分聞き流しながらカップに湯をを注ぐ。
ポットから注がれるお湯の温度がカップ越しに寒さでかじかんだ手を温めてくれる。



「反応薄いわね…
乙瀬と同じ年頃だと思うわ。
一人暮らしなんじゃないかしらね。
気になったりしないの?」



「え?何で?」



「終わってるこの子」



「同じマンションに住んでる同い年くらいの男の子ってもさー。
どうせ8階以降の住人なんでしょ?
だったら殆ど顔合わせるとか無いだろうしさ、関係ないし」



「分かんないじゃない。
エレベーターで一緒したり、ゴミ出しの時に顔合わせたり、登校する時一緒の道通るかもしれないし?」



「顔合わせたからって話す事とか別にないでしょ。
普通、会釈して終わりじゃないの」



「つまんない」



「娘の女子力とは程遠い趣味を知っていて何を期待しているのだね母よ」



「折角、人並みより可愛く生んであげたのにヲタクなんだから。
やっちゃんなんて高校入ってからじきに彼氏できたって言うじゃない。
悔しかったら彼氏の一人や二人や三人くらい、ウチに連れて来てみなさいよ」



「ヲタクに仕立て上げたのは父と母だという事を忘れないでいただこう。
そして別に彼氏できなくても悔しくないし。
さらに言うと彼氏を二人も三人も作るってのは、人としてどうなのかと思う」



「つまんないの」



「娘に面白味を求めないでください」



「それなら何を求めればいいの?」



「求めなくていいと思う」



じっとりした生ぬるい目で母を睨むが母には大して効力を発揮していない。
母は乙瀬の冷めた視線を無視して言葉を続ける。



「そういえば、その引っ越してきた男の子の名前も聞いたのよ」



「ヤダちょっと何してんの。
いい年して親子ほど年の離れた男の子に名前聞いてきたの?うわ…」



「違うわよー。
引っ越し業者さんが荷物運び込む時にね、大きな家具の配置どうするか話してたんだけど、その時に名前呼んでたのよ。
それを聞いちゃったの」



「ああ、そうですか…」



立ち聞きか。
趣味の悪い事で。
乙瀬はカップに口を付けて熱いコーヒーを啜る。



「花京院君っていうらしいわよ」



という母の言葉に乙瀬はむせそうになった。



「…か、花京院?」



乙瀬のその反応をどう思ったのか、母は軽く笑う。



「ね、すごい名前よねー。
まるでどこかの貴族みたいよね」



「ははは…そうだね、どこぞの貴族みたいにやたら雅やかな名前だね」



ははは…はははははは…乙瀬は乾いた笑いを漏らした。
いや…いやいやいやいやいや。
まさか、ないでしょ?
それはまさか、ないでしょ?
まだ若い男性で、それで名は「花京院」?
そんなの一人しか思い当たらない。
いや、だけどしかし…そんなまさか。
だけども、もしもあの花京院なのだとしたら…彼はあの戦いを生き延びたという事になる。
乙瀬の中に期待が持ち上がった。
もしかしたら、本当に…本当に彼らの運命を変える事が出来たのかもしれない。
しかし、だからといって…



(流石に同じマンションに住んでるとか、考えすぎっしょ…
たまたま同じ苗字だったんだって)



そうだ…そうに決まってる。
こんな所に花京院が居てたまるか。

花京院典明という男は善人のスタンド使いだし、キャラクターとしても好きだ。
だから彼自身に対する不安は無い。

ただ、やはりスタンド使いが近くに居るというのはそれなりに危険も伴うものなのだ。
「スタンド使いはスタンド使いと引かれあう」…というジョジョのネタをネットでたまに見かける。
4部からのネタであるらしいが。
しかし、3部を見ていてもそれは思うものだ。
もしもスタンド使い同士の戦いにまた巻き込まれる事になったとしたら…そう思うと寒気がする。



(いやいやいや…流石にこんなに身近に主要登場人物が住むなんてないって。
近所に芸能人が住んでるとか、そんなレベルじゃないよ。
だってジョジョ三部の主要キャラだぜ?
スタンド使いだよ、それも生まれつきのガチ勢じゃんか。
ないない…違う人だきっと)



ごくりと唾と共に懸念を飲み下し、乙瀬はこの件に関しては深く触れないようにしようと心に決めた。


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