ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活4
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願う事はただ一つ。
100年前から始まったとある血族の因縁に決着をつけるために旅立った彼らのために。

ただ無事の帰還を祈ろう。









■とある女子の異世界生活■













あの保健室事件のあった晩。
乙瀬はいつも以上に眠れぬ夜を過ごした。



「…あたしはやっぱり関わらない」



スタンド同士の戦いの世界に関りあいになるなんて御免だ。
そもそも乙瀬が彼らのために何かをしてやらなければいけない理由なんて無いのだ。
もちろん義務もない。
なるようにしかならないのだ。
それが、この世界の理だ。
乙瀬はただ、この世界に何かの偶然で転がり落ちて来てしまっただけの異分子に過ぎない。
最初から決まっている答えだ。
出過ぎた真似はすべきでない。



「…我が身可愛いのは人間として当たり前だし」



乙瀬はベッドの中で身じろぐ。
もう自分で結論は出したというのに、やはり落ち着かない。
何なのだ…自分で出した答えに、自分で気に入らないというのか?
未だに揺らいでいるかのような心をごまかすように視線を動かす。
その先に机の端が見える。



「……」



机の端からチェーンの銀色が見えた。
乙瀬は何気なくそれを引きよせる。
祖母の形見でお守り代わりの指輪がチェーンに繋がっている。

これは乙瀬が小学6年生の頃、祖母が亡くなるほぼ直前にその祖母本人から貰ったものだ。
祖母が婚約の証に祖父から貰った物なのだとか。
先に亡くなった祖父の代わりのように祖母が大事に持っていた指輪だ。
この指輪を持っているといつでも祖父が傍で見守ってくれているように思えるからと言って、祖母がいつでも手放すことが無かったのを乙瀬は覚えている。
その祖母が亡くなる直前に乙瀬にこれを譲ってくれたのだ。
なんでも乙瀬は少々危なっかしい所があるから少し心配なのだとかで。
それ以降、乙瀬はこの指輪を持っていると祖母の言葉を思い出し、そして祖母が感じていたのと同じように祖父や祖母が傍で見守ってくれているような気がしていた。

指輪はシルバーのリングに石がはめ込まれている極シンプルな形状だ。
石は光の加減によって様々な色がちりばめられて見えるオパールである。



一等眩いのは青色がちな石の中で対比するような白金色。
鮮やかに燃える炎のような赤色。
茨のような線が走る紫色。
優しい色味の中にも気高さのある緑色。
銀色にも見える清廉な白色。
風に舞う砂の様に気ままに散りばめた黄色の粒。



美しい色が見事に混ざり合う。
石の中に存在する色を見て乙瀬は思わず眉間に皺を寄せた。
これはまるで…

まるで彼らを象徴する色のようではないか。

そう考えた時、乙瀬はこの見事な色彩の石の中から幾つかの色が抜けてしまう様を想像してしまった。
ここから赤と緑と黄が抜け落ちてしまう想像を。



「……」



途端に石がとても寂しく見えてしまった。



「……ちくしょーが!」



乙瀬はベッドから跳ね起きた。
窓の外はもう白みはじめている。
急いで机に向かうと紙とペンを手繰り寄せる。
そしてPCを起動するとインターネットを起動してとあるサイトを調べ始める。

ジョジョWiKi

一晩もやもや悩んだ末に出した答えである。
彼らに関わらないようにしつつ旅の助言となるようにするためには、敵の情報を書き記した手紙を渡すのだ。
急がなければ。
今日は学校を仮病でサボる。
でも出来る限り詳細に。
特にDIOの館に踏み入ってからの仔細は重要になる。
アニメだけでは分からない詳細な部分も含めとにかく必死に調べ上げた。
まず気にしなければならないのは、彼らが日本を発つ時間だ。
今日である事は間違いない。
情報サイトを探れば時間が出てきた。

20時30分の成田初。

ならばまだ余裕はある。
調べた物に抜けは無いか、情報サイトやアニメを見直して見比べて念入りに仕上げていく。
原作を持っていなかったのが惜しいが…今更言っても仕方ない。

乙瀬が助言を紙にしたため終えたのは17時を少し回った頃だった。
手紙を封筒に入れ、急ぎ出かける準備を整える。
家から空港までは大体1時間と少しくらいか。
余裕を持って1時間半と見た方がいいか。
母が夜遅くまで仕事をする職業で助かった。
病気の娘が突然夕方に出かけて行くなんて、見られたら厄介だ。
まあ、止められたとしても行くけれど。

乙瀬はマンションを出ると成田空港へと向けて足を急がせた。






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20時 成田空港



出発ロビーにはトランクケースを持った搭乗客が多い。
その中で手ぶらで来ている者は見送りの者であろう。
様々な人で溢れているロビーに封筒を手にした少女の姿があった。
少女は誰かを捜しているかのように視線をきょろきょろと動かしていた。
実は彼女は一時間ほど前からここでこうして待機していたのだが、それを一々気に掛ける者は居なかった。
周囲を見回しては、手元の封筒をじっと見下ろして一大決心した面差しで唇を引き結んでいる彼女のその姿を見て、何かを想像できるとすれば大方が「恋人もしくは片思いの相手に何か大事な想いを綴った手紙を渡そうとしている」のだと思うだろう。
確かに、大事な手紙は渡すつもりである。
が、少女の事情はもっと複雑でリスキーである。

時計を気にしつつ周囲を見回していた少女の目がハっと見開く。

彼女の視線の先に目的の人物達の姿を捉えたからだ。
いずれも体格の良い男が4人のご一行だ。



(来た…!)



少女…八柱乙瀬はジョースター一行がやって来るのを見つけたのだ。
間違いない…あの日本人離れしたガタイの良い男たちの一団なんて、この国ではそうそうお目に掛かれるものではない。
何よりも、彼らの姿を作中でずっと見てきた乙瀬が見間違えるはずがない。
実際にこの目で見た承太郎と花京院も居るのだから確実だ。
乙瀬は彼らに見つからないようにフードを被り顔を背けた。
窓ガラス越しに搭乗手続きをしている所を観察する。
暫し待っていると保安検査場に向かっていくのが見えた。



(行動するなら今…)



乙瀬は保安検査場より先には行けない。
近くを通りかかった職員に声をかけた。



「すみません!
この封筒をジョセフ・ジョースターという人に渡してください!
忘れ物なんです!大事なものなんです!」



中身はただの手紙だと示すように、折りたたんだ紙を封筒から出して見せた。
とりあえず、これで怪しいブツではないとアピールできたと思う。



「ジョースター様はもう搭乗口へ向かわれましたか?」



「今さっき、検査場を抜けたばっかりです。
体格のいい男の人4人組なんで分かりやすいと思います」



「お預かりいたします」



職員は保安検査場のカウンターに居る職員と一言二言会話をして、封筒を示した。
保安検査場の職員は頷いた。
手紙を持った職員が奥へと進んでいく。
どうやら手紙は届けられるようだ。
正直、ここの検査場を通過できるかどうかで不安が大きかったが…今回は思惑通りとなってくれた。
ジョースター一行に手紙は渡さねばならないが乙瀬が直接手渡すつもりは無かったのだ。
人伝に渡したかった。
上手く行ってくれて助かった。
乙瀬はとりあえず息を吐く。
そして早々にその場を立ち去る。
怪しんだジョースター一行が戻って来て乙瀬に気付いてしまっては大変だからだ。
こんなところで捕まりたくはない。

足早に空港を出る。
腕時計を見ると時刻は20時25分だった。
あと5分ほどで彼らが乗っているエジプト行きの飛行機が飛び立つだろう。
ゆっくりとした足取りで歩く。
それからほどなくして航空機が一機飛び立った。
時計の文字は20時30分。
高度を上げて小さくなっていく航空機を見送る。



「…旅の幸運を」



小さく呟いた声は航空機の音に紛れてかき消えた。
乙瀬に出来る事は後は祈るだけだ。






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翌日



乙瀬はいつもよりも早い時間に起きて家を出た。
登校ルートの途中で通る神社に立ち寄る。
承太郎と花京院が邂逅した例の神社である。
乙瀬はこれまでの人生で神頼みなどした事が無いが、今回初めて神にも願いたい事が出来たのだ。
ぶっちゃけ神社での作法なんて詳しくは知らない。
知らないがこの思いは本物である。
マナー知らずな人間であっても真剣な願い事を持っている者を無碍に追い払うほど神様は狭量ではないだろう…きっと。



願う事はただ、彼らの事だ。



自分に出来る範囲の事は、やり通した。
正直なところを言えばあの手紙で何かが変わるかなんて分からない。
信じてもらえない可能性の方が高い。
怪しまれてもう捨てられてるかもしれない。
それでもいい。
信じてもらえなくても、あの手紙の内容を少しでも記憶にとどめていてくれれば…。
その影響で何かを変える事が出来るのならば…。
彼らが少しでも傷つく事が無いように。
少しでも彼らの過酷な旅が和らぐように。
死の運命から救われるように。

乙瀬は財布を取り出す。
お賽銭にはケチケチせずに諭吉を…
…と思うがやはりとどまった。
人の命の無事を願うのだ。
相応に自分も対価を支払うべきなのではないだろうか。



乙瀬は首にかけていたチェーンを外して、それを見つめる。



祖母の形見の指輪を手の中に一度握り込む。
縋るように胸元に押し付けた。



「ごめん、お婆ちゃん。形見手放す」



指輪を賽銭箱に入れると、中でカランと軽い音が鳴る。
祖母から孫へと渡った指輪は、大切な人を想い託されてきたお守りの指輪。
今度は乙瀬がこの指輪に想いを託す。
鈴を鳴らして手を合わせる。



(神様どうか彼らを守ってあげてください。
…お爺ちゃんとお婆ちゃんにもお願い。
自分勝手な孫の我儘だけど、彼らの事を助けてあげて)



静かな神社の境内に乙瀬の祈願が捧げられる。
この願いは届くのか…
異世界からの乱入者が間接的に関わってしまったこの世界で、物語の結末を知る者はまだ居ない。


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