ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活3
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やはり元・異世界人というのはどう足掻いても異質なものなのだろうか。
どれだけその世界に馴染もうと努力しても世界から異質、異分子と見なされている気がしてならない。
この世界で一般人と言うにしては異質な者…例えば吸血鬼や柱の男や波紋戦士や…
そしてスタンド使いと同様に。
だが乙瀬は決してスタンド使いなどでは無い。
もちろん石仮面なんか見たことも触ったこともないし波紋戦士でもないし、地球上で日常レベル程度の太陽光を浴びても死んだりしない。
乙瀬はスタンド使いなどでは決してないが、スタンド使いに関わってしまう奇縁は持っているのかもしれない。
そう思えてしまう。



「エメラルドスプラッシュゥウウウ!」



それくらいにド畜生な鬼タイミングで巻き込まれたのだから。









■とある女子の異世界生活■













11月も半ばになる頃からか、八柱乙瀬は何かを考え込む事が多くなった。
よく憂鬱な表情していた。
近頃ではいよいよ睡眠時間すらもまともに取れなくなり寝不足気味に陥っていた。
相当な悩みがあるのだ。



「あたしは関わらない、あたしは知らない、あたしは一般人…」



命が惜しいならジョジョのストーリーや登場人物に関わってはならない。



「だけど死んでほしくないし…」



あのアニメで知った彼らの死に様は、衝撃でひどく悲しくて悔しかった。
あれは二次元の世界の事だったから、涙腺崩壊程度で済んでいたのではないか?
今、乙瀬が居る此処は目の前に本物を見る事も出来る世界なのだ。
実物としてこの世界で生きている。
その彼らが死んでしまうのだ。
この世界では会った事もないが…それでもその日その時を迎えれば、きっと乙瀬は彼らの事を思ってしまうだろう。
己が平穏とした日常を過ごしているその時、彼らは命を賭して戦いその戦いの中で傷つき死んでいくのだ。
リアルな死だ。
自分はその未来を知っている。
きっと彼らに助言をしようと思えば出来るはずなのだ。
救うために動く事は出来るはずだ。



「だけど…」



ストーリーに関わるという事はそれだけ自分も危険を冒さねばならない。
下手に情報を渡して怪しまれれば乙瀬が主人公側の面々に敵対視される可能性もあり得る。
それだけではない。
どこからどこへと、どう情報が伝わるかも分からないのだ。
DIO側に目を付けられたりしたらそれこそ最悪だ。



「だけど…」



このまま手をこまねいているだけで終わるのか?
救える可能性があるかもしれないのに?
あんなに大好きなキャラクター達なのに。
きっと、そろそろ原作が始まる頃だ。
もう11月も末になる。
噂によれば空条承太郎が喧嘩相手のチンピラを病院送りにして留置場のお世話になっているらしい。
という事はもう承太郎はスタンドに目覚めているという事だ。
ストーリーでいう所の第一話が始まろうとしている。
関わるのか関わらないのか。
どうすべきなのか、いい加減決心したいが…

…こんな様子で延々延々と悩んでいるのだ。






そんな悩ましい日々を送っていたある日。

悩みに悩み悩み過ぎて乙瀬はついに体に限界をきたしてしまった。
寝不足に加えて近頃では食欲も落ちていた。
貧血だろうか足元がふらつく。
学校に着く早々に体調不良に陥り、朝のホームルーム前に保健室の世話になった。
乙瀬が保健室についたときには既に男子生徒が居てベッドを二つ陣取っていたが、彼らの血色良い顔色を見るにただのサボりだろう。女性養護教諭は乙瀬の青白い顔色を見るとすぐにベッドを貸してくれた。
一番壁際の隅っこである。
隅っこ落ち着く。
男子生徒たちが短いスカートを見てからかってくるが、正直乙瀬は今それどころではなかった。
養護教諭が男子生徒をあしらうと乙瀬に向き合う。
この養護教諭はどこかサバサバしていてるが明るくて優しい先生だ。
男女ともに人気がある。



「貴女2年生ね。
名前…は、聞くまでも無いか。
その膝上15センチ丈のスカートは八柱乙瀬ね?」



「…あ、はい…ご存知でしてたか」



「ウフフ、そりゃあね。
学校の怖い先輩達の呼び出しにも負けず、それどころか言いくるめてポリシー貫く女子なんてそうは居ないわよ。
この前なんて生活指導の先生をあのジョジョに押し付けてその隙に逃げ出したんですって?」



「ははは…」



「さてと、貴女は横になってなさい。
はい、体温計よ」



渡された体温計を受け取った乙瀬は、何かのフラグが立ったような気がして寒気を覚えた。
保健室…体温計…う、頭が…



「あ、ありがとうございます」



「最近はちゃんと眠れてないんでしょ?
隈が出来てるわよ」



乙瀬はベッドに潜り込んで体温計を脇に挟んだ。
それからダルい瞼を何とか押し上げて養護教諭の質問に答えていく。



「はい…ちょっと寝つき悪くて」



「食欲は?」



「あんまり…」



「寝不足と貧血気味でしょうね。
あと、最近どんどん寒くなって来てるから身体が気候の変化に追いついてないのかもしれないわ。
とにかく、ゆっくり休みなさい」



「はい」



白い清潔なベッドに横になり布団をかぶると養護教諭が仕切りを閉めてくれる。
空間が遮断されてしまうと、どっと疲れが押し寄せてきたように感じる。
疲労感と共に少しの安堵の息が漏れた。
ベッドの中でウトウトしはじめる。
男子学生と養護教諭が話をしている声が仕切り越しに子守歌のように聞こえて来て、意識が少しずつ心地良い眠りの闇に落ちていく。
……

少ししてドアが開く音がした。
誰かが保健室に入って来たのだろう。
教諭が何か呆れたような声で話しかけている。
一言二言、男子生徒の声だろうか…良く通る低い声がする。
もう半分くらい眠りに落ちている乙瀬の耳には言葉として入って来ず、ただただ眠りに誘う音として流れ着く。
端々に聞いた言葉からして足を怪我したらしいが…
乙瀬の身体からふと力が落ちる。


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