ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活2
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季節は11月上旬。



八柱乙瀬は日々、公暁東高等学校の生徒として通っていた。
トリップ翌日こそ色々慌てたり周囲からは不審人物を見るような目で見られたりもしたが、何とかごまかしたし、あれからもう一か月は経っている。
いい加減乙瀬もこのジョジョの世界での生活を心得て来るというものだ。
乙瀬は公暁東高に通うにあたり、周囲の状況に馴染んだところで最初にしたことがあった。

それは…









■とある女子の異世界生活■













「八柱!スカート丈を規定の長さに戻さんか!」



「げ、今日は田場又先生居たのか…」



乙瀬は生活指導の田場又教諭が登校する生徒の流れを割りながら定規を持って近づいて来るのを見て眉間に皺を寄せた。



「『げ』ではない『げ』では!校則違反だ!」



「でもセンセー、いつもスカート丈を超ロングにするなって言ってるじゃん。
あたし、長くしてない」



「規定を守れと言っとるんだ馬鹿もん!
短くすればいいなどと誰が言った!」



このジョジョの世界に馴染んだあたりで真っ先にしたこと…それはスカート丈を短くした事である。
どの時代でもやはり学生服改造で校則違反をする生徒は多いものだ。
であるが、平成の時代と違ってこの時代の生徒はボンタン、長ラン、ロンスカなどの時代である。
この学校でも珍しくはない。
女子のスカートは膝丈か膝下が当たり前。
しかし、その中で時代に逆らうがごとくスカート丈膝上15pをキープする乙瀬は目立ちに目立った。
太ももまで露わな短いスカートに黒のハイソックスかオーバーニーソックスの組み合わせはこの時代のこの学校においてオンリー乙瀬だったのだ。
しかし時代に逆らってはいるが、それが似合わないとか変だというわけではなかった。
寧ろここの学校のスカートは膝上くらいのほうが実はシルエットが綺麗に見えるのだ。
見た目的には良い意味で目立っていた。

ただし、そういった出る杭というものは打たれるもであり、目立ちまくる乙瀬は先輩方…とくに女子生徒に僻まれた。
乙瀬が元居た世界よりもガラ悪い生徒が目立つこの学校である…不良先輩から呼び出しを喰らう事はよくあった。
…が、そこは平成っ子。
腕力がある程度ものをいうこの世界とは違い、より口達者な者こそが勝ち残っていく時代に生まれてきたのだ。
頭の回転はそこまで良い方では無いが軋轢生まずに世渡りする程度には口が回るのだ。
脳筋気味のツッパリ女子を言いくるめるのは乙瀬にも容易かった。



『あたしだけ短いスカートで目立つっていうんなら先輩もどうです?
うちのクラスの男子が言ってましたよー、先輩は脚長くて綺麗だって』



『は!?な、なに言ってんのアンタ!』



『先輩、ミニスカート似合いますって!
若いうちしか足出せませんよ?
美脚ならなおさら出さなきゃ損ですよ!』



『そ、そうかな…?』



『うん、そう!』



『…いや、まあ…実を言うとあたしもここの学校のスカートさ…
短めの方がイケてるんじゃないかって思ったりもしてさ…』



『やっぱり先輩も思いますよね!
スカート膝上の方が絶対スタイル綺麗に見えますよ!
流行りがどうとか、そういうんじゃなくて似合うかどうかですよ先輩!
やりましょうよ!』



『そ、そうだね!
あたしも短くしてみよ!』



…一丁上がりである。
少しずつ…少しずつであるがスカート丈膝上派が増えてきているのが成果として見える。
それに乙瀬の性格はさっぱりと、どこか少年じみた部分もある。
そのせいか、最初こそ僻み敵視していた視線は徐々に徐々に消えて行った。
乙瀬の人間性が生々しい女らしさを打ち消していて、短いスカートを履いていても「色気で男に媚びうってる」という印象はごく薄れていたのだ。
…そんなわけで乙瀬のスカート丈は太ももの半分ほどで揺れているのが当たり前の光景だった。



「センセー、あたし基本的にスカート短くするくらいしかしてませんよ。
タバコ吸わないし、授業もちゃんと出てますし、喧嘩しないし、ピアスも空けてませんよ。
あたしにガミガミ言うんだったらもっと問題のある生徒を指導した方がいいと思いますけど」



「何を言うか!」



田場又教諭が眉尻を吊り上げたが、乙瀬は丁度タイミングよくキャッキャと黄色い声が聞こえてきた事に温い笑顔を浮かべた。



「ホラ、丁度いい注意対象が来ましたよ」



乙瀬が視線で示したのは女子の集団…に囲まれたハーレム状態で登校して来た男子生徒である。
裾の長い改造学ラン、鎖、ピアス、改造学帽。
飛びぬけて高い身長に高校生離れした逞しい体格。
そして鋭い翡翠の眼光と彫像のように掘り深く整った顔立ち。
近隣ではすっかり名の知れた不良生徒で女子人気NO1を誇る。
公暁東高3年、空条承太郎である。



「ホラ、ホラ先生!出番ですよ!
あたしなんかよりよっぽど指導しがいがありますよ!ホラ!」



と言いながら教諭の背を押して承太郎に近づける乙瀬である。
教諭の顔がみるみる青くなっていく。
承太郎の翡翠の瞳がギラリと剣呑に光ってこちらを睨んだ…気がする。
教諭の顔が引きつる。
もともとこの教諭は立場の弱い生徒に威張り散らしている気があった。
生徒の視線が集中している手前、逃げ出す事もごまかす事もできずどんどん冷や汗をかいていく。
いい気味である。



(今のうちに逃げるんだよぉ)



承太郎に睨まれて教諭が固まっているうちに乙瀬はさっさとおさらばである。
にしし、と悪戯な猫のような笑顔で下駄箱まで駆けて行く。
承太郎の取り巻きが「何あの子ージョジョを囮にして逃げたわよ!」「あの子知ってるわ2年の子でしょ!生意気ね!」などと口々に文句を言っているが、乙瀬には関係ない。
勝てばよかろうなのだ。
一体何の勝負なのか知らないが、とにかくこの場の駆け引きに勝ったのは乙瀬である。
意気揚々と教室に入って鞄を机の横にかけていると友人の弥栄子が傍に寄って来た。



「見ちゃったわよ乙瀬ー。
あんた、よくやれるわねー」



「何が?」



「生活指導の田場又を空条先輩に押し付けてまんまと逃げたでしょ」



「あー、アレね。
丁度いいタイミングだったよ」



「後で先輩にヤキ入れられても知らないわよー」



「大丈夫でしょ。
あの先輩は一々こんなセコイことで下級生に仕返ししに来るような小っちゃい男じゃあないでしょうよ」



「いやいや空条先輩本人のことじゃなくて取り巻きの方」



「あ、そっちね。
まー…そっちも大丈夫でしょー。
別に空条先輩に色目使ったわけじゃないし。
空条ガールズは下級生をいびりに来る時間も惜しいでしょ」



「それもそうでしょうけど…乙瀬さ、あんま無茶しないでよ?
あんたに喧嘩売ってるつもりは無いっていうのは分かってるけど。
向こう見ずっていうか怖いもの知らずっていうかさ…心配なのよね」



「やっちゃん優しい。好き。
…大丈夫、あたしだって線引きくらいは出来るから」



そう、線引きくらいは出来る。
このジョジョの世界で非スタンド使いが作中のキャラクター…スタンド使いに関わる事の危険は誰よりも理解している。
越えてはならないラインを見定める事が一般人には重要だ。
乙瀬は作中のキャラクターやストーリーとは関わり合いにはなりたくない。
だって一般人なのだから。
彼らに関与すると死亡フラグが建ちまくるであろう事は考えるまでも無く明らかだ。
スタンドなんてチートなものがない乙瀬は隅っこで平穏に暮らしたいと思っている。
遠巻きのモブで構わない。
寧ろモブがいい。
だけどジョジョは好きな作品だ。
好きなキャラクター達の行く末を知っている。



(…あたしが動けばもしかしたら助けられるかもしれない)



…その可能性を持っているのはおそらく乙瀬だけ。
乙瀬が何も動かなければきっと作中通りにアヴドゥル、イギー、花京院は死ぬだろう。
乙瀬は何を見るともなく窓の外へと視線を向けた。
かろうじて枝にしがみついていた数少ない枯葉がはらりと風に舞って落ちた。
季節は11月。

ジョースターの因縁。
星屑十字軍がはるばるエジプトまで吸血鬼討伐の旅に出るのはもうじきだ。
乙瀬はどうしたものかと息を吐いた。



誰にも打ち明ける事の無い胸中の重石が更に大きくなったような気がした。






ちなみにこの日。
生活指導の田場又教諭は生徒の目がある手前引くに引けず、承太郎を指導しにかかって逆に気合を入れられた。
その後、田場又教諭をこの学校で見かける事はなくなった。


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