ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活
1ページ/3ページ




「…嘘だろこんなの」



と、呟く少女は、とある神社の石段に腰かけて溜息を落とした。
そういえばこの神社の石段は承太郎が肉の芽を埋められた花京院からの攻撃によって転落した階段ではないか。
そんなつもりはなかったというのに思いがけず名所めぐりしてしまった事に、少女はがくんと項垂れる。
肩に着く位の長さの黒髪がさらさらと滑っていく。
項垂れた勢いでいつも首にかけている細いチェーンがしゃらりと音をたてた。
チェーンに通した指輪の色彩鮮やかに煌めく飾り石を見つめながら深く深く溜息をつく。

八柱乙瀬17歳。
高校2年生。






週明けからは公暁東高校の生徒として通う事になる。









■とある女子の異世界生活■









突然ですが。

八柱乙瀬はある日突然、異世界トリップというものを体験した。
何を言っているのか分からないと思うが乙瀬も何が起こったのか分からなかった。



事の始まりは朝。

朝起きた時、昨夜泣きはらしたままの勢いで眠ってしまったせいか、いつもよりも寝起きがすっきりしない頭で食卓に顔を出すと父親が突然こんな事を言ってきたのだ。



「杜王町に行く」と。



何でも、急に単身赴任する事になったらしいのだ。
期間は半年だそうだが。
母親は父親とは別の仕事先であるからこちらに残るそうだが、SEという職業上夜遅くまで仕事をしている事は多いし休日出勤というのも珍しくはなかった。
よって、父が単身赴任で居なくなるという事は、ほぼ乙瀬の一人暮らし状態になるという事だ。
まあ、別に幼稚園児や小学生じゃないわけだし、不都合はない。
寧ろ疑似的一人暮らしというものを体験出来てこれはこれで面白いと思うのは、多感な年頃故か。
それに八柱家が住んでいるのはマンションであるため、両隣や下階にも住人が居る。
分譲なので住人は小さいころからの顔見知りばかりだしご近所仲も良い。
だから特別不安に思う事は無かった。
ちなみにこのマンションは分譲であるが2年間の賃貸体験ができる部屋もある。
10階建てのマンションで、7階までは基本的に分譲であるが8階からは賃貸契約ができる。
ちなみに8階からの間取りはファミリー向けと一人暮らし向けがある。
なんでも、現時点でのファミリーだけでなく将来家庭を持ちたいと考えている独身者にも興味を持ってもらうためらしい。
試しに住んでみて気に入ればそのまま購入もできるのだ。

まあ、それはそうと。
本日は日曜日。
再来週の月曜から赴任地で仕事になるので乙瀬は父親の慌ただしい単身赴任準備を手伝う事になった。



「そういえばさお父さん。
赴任先の杜王町ってどこなの?」



「あれ、言ってなかったか」



「知らん」



「S市の紅葉区だよ」



「…聞いたことない」



「ははは、乙瀬は地理苦手だもんなー」



「…」



ていうか「えすし」ってどこの地名だ?
何県だよ。



「まあ、いいけどさ」



それよりも。



「…何か、部屋の模様替えとかした?」



実は、朝起きて自室を出て来てからというもの何か違和感があったのだ。
いつもと変わらないはずなのだが、何かが違う気がしてならない



「何も動かしてないわよ?」



母が首を傾げながらそんな事を言う。
ならば気のせいなのだろうか…何て言うのか、こう、妙に「肌に馴染まない」感じがするのだ。
住み慣れた自分の家のはずなのに、他人の家に上がったときのような馴染まない何か。
匂いというか、空気というか、雰囲気というか…



「ほらほら、買い出し行って来てちょうだい」



「…うん」



母にそう押し切られてしまっては仕方ない。
足りない物の買い出しを引き受けた乙瀬は出かける準備をしに部屋に戻った。
ごろ寝用のジャージから外出しても恥ずかしくない程度にラフな私服に着替える。
バッグには財布、ハンカチ、ティッシュ、スマホ。
そして鏡の前に置いていた細いチェーンを首に掛ける。
チェーンに通していた指輪の部分をシャツの内側に入れると金属特有のひんやりした感触が肌に触れた。
大好きだった祖母の形見であり、お守り代わりの指輪である。
肌身離さず持っていたいが傷つけたりしたくないのでいつも服の内側に入れている。



「いってきまーす」



「いってらっしゃい。
お昼ごはんまでには帰って来るでしょ?」



「あー、うん多分ね。
帰って来なかったら冷蔵庫入れといて。
夕飯に食べる」



「はーい」



特にどこかに寄り道する予定は無い。
真っすぐ用事を済ませて真っすぐ帰ってこよう。
それから最近動画サイトで見ているアニメ…ジョジョの奇妙な冒険を見よう。
3部まで見終わって、丁度次から4部に入る。
まだ3部ショックを引きずっているがジョジョで負った心の傷はきっとジョジョでしか癒せない。
2部ショックもそうやって3部で癒した…が、それ以上の傷を負ってしまったのだ。
4部で癒えきる事を願う…願いたい…が…ジョジョの事だからどうせ何か泣かせるポイント仕込んでるんでしょ?
まあ、いい。
見てからのお楽しみとしておこう。



「ちゃっちゃと買い物済ませますかねー」



エレベーターで1階まで降り、上着のポケットに手を突っ込んで軽い足取りでホールを出る。
ホールを出てから右手側は駐輪駐車場。
左側はゴミ捨て場。
正面の整備された歩きなれた石畳を進みマンションの敷地を出る。



いつも通りの足取りで敷地を出て、いつもと違うものを見てしまった乙瀬はそこで固まった。



見渡す周囲の景色は見知っているはずなのに知らない景色だったからだ。
日本である事に変わりはない…が、なんというべきか…そう、どこか古い。
近辺の様子は乙瀬の記憶といくつか一致しているため、全く見ず知らずの街というわけではないのが救いだった。
乙瀬が過ごしてきた街並みが20〜30年くらい昔に戻ったかのようだ。
そう、昭和の香りがするのだ。


次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ