ラフスケッチ
□ラフスケッチ 1
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第一話 入学式と通報の洗礼式 1
どよ・・・どよ・・・
まさに、そんな表現がピタリと当てはまる困惑と驚愕のどよめきが、新生活を告げる体育館に充満した。
桜舞う春の日の、めでたいめでたい入学式。
新入生ならび保護者席から壇上へと向けられる不審の視線は毎年恒例であった。
時は21世紀。
日本某所の高等学校。
どこの学校でもほとんど変わらぬ式の内容であろうはずの入学式・・・そう、タカをくくっていた者たちは
校長挨拶で壇上にてマイクを握る銀色の長髪を伸ばし放題にした黒いロングコートの男を見た瞬間、
常識と普遍を貼り付けていた面皮を崩落させた。
その理由は壇上にてニタニタと笑う目元を前髪で隠した男の姿は、誰がどこをどう見ても超ド級不審者そのものであったからだ。
『校長』と呼ばれた不審人物は新入生とその保護者達の豹変した面相の列を見下ろし、
そして衝動に耐え切れず「ブヒャヒャッ!」と吹き出した。
「イヒッ! イーヒヒヒヒヒッ!」
マイクの音が割れてキーンとした耳障りな音が体育館に反響する。
校長の奇声のような笑い声ですっかり浮き足立つ空気。
ざわつきを通り越し、どよめきの保護者席では携帯を手元に構えて110プッシュの準備をしている人影は一人や二人どころではない。
校長の奇人変人ぶりを既知の教職員や在校生らは予想していた事ではあったが引き気味だ。
そんな彼らをよそに、ひとしきり笑った校長はゼェハァと息を切らしながら頬を染め、
まるで薬物でラリったかのような恍惚の表情で館内を見渡した。
「ヒィ・・・ヒィ・・・!
あ〜・・・オホン。失礼しました。
いやぁ〜毎年毎年、この反応が楽しみでしてねぇ。
今年も幸先良い『笑い』を頂戴したよぉ・・・ヒッヒッヒ!」
この変態男が、この学校の校長である。
今日までたっぷりと愛を注いで育ててきた愛息子に愛娘を
これからこの変態校長の統べる学び舎へと通わせねばならない不安を急速に膨らませる保護者。
そして今日から3年間、この恐怖の学校へと足を運ばなければならない新入生は身を戦慄させた。
「やっぱりあの校長、頭どうかしてるわよ・・・」
新入生席の一つに腰掛けていた金髪碧眼の少女はポソリと呟いた。
彼女の名はメアリー・ファンバステン
式が始まる直前のメアリーの記憶と、目の前の校長の姿が嫌でも重なり合わさる。
メアリーは空色の瞳を胡乱に眇めて壇上の校長を見上げていた。