頂き物

□こっち、向いて……
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こっち、向いて……









こっち、向いて……
そっちじゃなくて、

なんで、あっち見てるの?

違うでしょ……

ねぇ、こっち……向いてよ。








「っ!」


勢い良く振り向く。

ここ最近、同じような嫌な気配ばかり感じる。

しかも決まって仕事帰りに。

何をどう考えても、誰かが私の後をつけて来ているのはわかる。

けど、振り向いたところでその姿を見る事は敵わない。

気配ばっかりが、私の後ろに充満しているみたいだ。


「……気持ち悪い」


ぼそりと呟いてはみたけど、何も変わりやしない。

いつになったら、コレはなくなるのやら。




「はぁ……」


翌朝、仕事の前に大きなため息をつく。

最近これが毎朝の日課となっている。


「どうしたの?最近ため息ばっかりだね」

「あ、ああああアラン君!な、何でもないっす!ただ、ちょっとね、うん、悩み事なだけ」

「そっか。本当に困った時に、出来る事なら相談して欲しいな」

「そっ……そうする。い、今はまだそこまでじゃないから、平気、だよ!」

「うん、わかった。さて、そろそろ仕事しないと。じゃ、名前さん、またね」


そう言って爽やかに去っていくアラン君。

やっぱりカッコいいな……きっと叶う事はないと思っている、片恋の相手………




だった。



その日の帰り、私は見てしまった。

私の後をつける、気配の正体を。

振り向いたそこにいたのは、

アラン君だった……

ただ後ろにいただけなら構わない。

けれど、目が……アラン君の目が、おかしかった。

朝見たのとは違う、暗い光の灯った目。

今にも何かをしてきそうな、雰囲気だった。


「…あれ?失敗しちゃった。何で振り向いちゃうかな、名前さん……」

「な、にしてるの…アラン君」

「見てのとおりだよ?君の後をつけて来ただけ。他はまだ、何もしてないでしょ?」


ニッコリと笑うアラン君。

怖い……

いつも見ていた顔と違う。張り付けたような笑顔。

これは一体、誰なの……?


「バレちゃったから、いったんこれは止めておくね。次はどうしようか考えてないし」

「もう……何もしないで。止めて!」

「ごめんね、名前さん……俺もう、自分で抑えられる域は超えてる。どうすれば止まるのかなんてわからない」

「え……?」


悲しい顔をする、アラン君。

きっとこっちが、本当のアラン君なんだろう。

何がどうなったのかなんてわからない。

でも、どこかには彼を止められる方法があるはず。


「またね……名前さん。今度は捕まえてあげるから」


また笑う。

狂った様な笑顔。光の灯さない、目で。

そのような目で見られたら、ただただ怖かった。

あの優しいアラン君はどこに行ったのか。

翌日私は、アラン君と最も仲の良いであろう、エリックさんの所に行った。

エリックさんに事の全てを伝えると、とても驚いた顔をされた。

ここ最近も私が言ったような変化はなく、至って普通だったらしい。


「つーか、アランがんな事するとはな……性格とかから考えて絶対になさそうだけどな」

「自分でも止められないって言ってましたし…エリックさんなら知ってるかと思ってたんですが……」

「悪いな、何にもできなくて。あぁ、そういえばだけど、確かアランの奴、好きな人ができたとかどうとか言ってたような……」

「好きな人…私な訳ないだろうし、変な方に何かこじらせたのかな……」

「どうだかな。その辺はアランにしかわかんねぇだろ。暇があったら聞いといてやるよ」

「ありがとうございます」


そこで一度話を切り上げ、お互い仕事に戻った。








また、か…

君はいっつも、そっちに行くんだから。

どうして俺の所には来てくれないの?

俺のこと嫌い?

自分で押させられる域は超えてるってさ、教えたはずだよね。

本当にもう、止まらないから……!






目が覚めたら暗い場所。

背中には壁の感触。手首にはロープの感触。

周りを見渡しても、誰もいなかった。

捕まえただけ……?

ロープの結び目は案外ゆるく、すぐに解けたので、すぐに薄暗い部屋を出る。

閉じ込められていたのは、協会内の地下倉庫だった。

確かに目立ちにくいし、誰もこんな所には来ないだろう。

一体何故、このような状況になったかなんてわからない。覚えていない。

いつ誰に捕まって、あの中に閉じ込められていたんだろう。

回収課オフィスの前まで戻ると、そこに待ち構えていたのはアラン君だった。

どろんとした暗い目で、恐ろしいほどきれいな笑みを浮かべていた。


「また…エリックさんにでも会いに来た?俺の事言いに来た?俺がどうにかしてるって、言いに来たのかい?」

「なんの事…?」

「だって、今日エリックさんに俺の事聞いてた、言ってた。そうでしょ?ずっと見てたから、わかってるよ」


言いながら、静かに近づいてくるアラン君。

怖くて、後ずさりするけど、どうなるかなんてわかってる。

そのうち壁にぶつかって、逃げ場がなくなるだけ。

もちろん、その通りになった。

アラン君の顔を見たくなくて、次第に縮む距離の中で何とか顔だけは背ける。


「……助けて」


か細く聞こえた声。

何の事かと背けた顔を戻してしまうと、すぐ目の前には最早きれいな笑顔ですらなくなったアラン君の顔が目の前に迫っていた。

助けてって言いたいのは、こっち!


「せっかく捕まえたのに、出て来ちゃったし、もう一回捕まえなきゃね…」


手のあたりで鳴る、ジャランと、重い音。

自分で力を加えず目の前まで手を持ち上げると、アラン君は嬉しそうに笑う。


「もう逃がさない。俺の大事な人……大丈夫、殺しはしないよ。ずっと生かしてあげる。俺の支配の下でさ。他の誰の、所にも……行かせたり、しない、から……」

「離して、よ…」

「嫌。絶対に嫌だ。君はずっと俺以外を見る。絶対に俺を見てはくれない。俺はずっと君を見ているのに君は気付いてくれない。俺ばっかりが苦しい思いをし続けているんだ。ねぇなんで。なんで見てくれないの。見てくれたと思ってもすぐに逸らされる。きみはおれのこときらい?おれはきみのことすきなんだ。ずっとすき。くるしいんだよほんとうに。おれゆうきないからさ。ことわられるのがこわかった。だからとおくでみるしかできなかった。こんなこというのがわがままなのだってわかってるよ。わがままでも、おれはきみがほしかった。おれをみてほしかった。好きだって、言って、貰いたいだけなんだ……」


狂った笑顔が次第に消え、だんだんと何かを恐れるような表情になる。

堰を切ったように涙が溢れだし、立っていられないようでガクンとひざを折る。

鎖で繋がれている私も、それと同時に座り込む形になった。

つらつらと立て板に水をかける勢いで言われたことを頭の中で整理すると、アラン君は私を手放したくないらしい。

その理由は、私の事が好きだと。そう言っていたと思う。


「アラン君は、私の事、好きって、事?」

「…好き。大好きだよ」

「私もね。アラン君の事、好き。不釣り合いだと思ってたから、ちょっと避けてたかも。ずっと片想いでいいと、思ってた」

「え……ほ、本当?」

「うん」


アラン君に言われてしまえば、私も言わざるを得ない気がした。

でも、それと同時に一つの思いがあった。

これでアラン君が、元に戻ってくれるんじゃないかと。前と同じ、優しい笑顔を見せてくれるんじゃないかと、思っていた。

ムリだったら、諦めるしかない、のかな。

けど、諦める必要はなさそうだった。


「ありがとう…!俺、わかってたんだ、こんな事するべきじゃないって、わかってた。でも、どうしても、止められなかった。気持ちが抑えられなかったんだ……怖い思いさせて本当にごめんね、名前さん…」


そう言いながら私の手にかけられた鎖を外し、ぎゅっと抱きしめてくれた。

私の片恋も、アラン君の不安も今日で、今で終わり。


「これからはずっとお互いを見て、一緒に居よう、アラン君」

「うん…絶対、一緒に居てね」

「絶対、居るよ」


これは約束。

絶対という、言葉の鎖。

きっとお互いがお互いに依存してしまう。離れられない。

そんな関係でも、私は満足している。



---------あとがき----------

rit.様のサイト5000HITでリクエストさせていただいた小説です。
死神に追跡されるシリアスを味わいたかったのでw
無茶苦茶なリクエストをしてしまいましたが、見事に追われる恐怖と恋情とが合わさった作品です!
しかもキャラがアラン夢で読めるなんて・・・!

ありがとうございました!

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