頂き物

□こうなったのは誰のせい
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こうなったのは誰のせい









時代は21世紀の日本。

場所は駅前の大通り。

前回のお話は東京都内の某学校の高等部の理科実験室で始まったが、今回のお話はここで始まる。





時刻はもうすぐ日が暮れるか、暮れないかの境目の黄昏時。
駅前は帰宅途中のサラリーマンや学生で賑わっていた。


その人ごみの中にまぎれて、玲とメアリーは歩いていた。

「マカロン♪マカロン♪」

メアリーはとても嬉しそうにスキップしながら、玲の手を引いている。
足が弾むごとに彼女の巨乳がたわわに揺れ動くが、玲にとってそんなものは見慣れたものだったので、特に気にはしなかった。

「ふっふ〜ん、全部玲に奢ってもらうんだからね〜♪」
「……えーとさぁ、メアリー。一応確認だけど、限度額は理解してるよね?」

玲は心の中で、今自分のサイフの中にある金額を数えた。
彼女の気分次第で、玲の今月の食事事情が決定されてしまう。

「それはあたしを置いてった、あんたが言えることじゃないの!」
「……ハイ、すみませんでした」

ぴしっとドヤ顔で断言されてしまえば、玲はもはや何も言えなくなる。

先日、肝試しと称したゲームを実行に移した二人は、校長先生の聖域である理科実験室にこっそりと足を踏み入れた。

結局そこで目的を達成する前に校長本人に見つかってしまったのだが、玲は恐怖のあまり、メアリーを置いてその場からスタコラ逃げ出してしまったのだ。
しかし、玲のその後すぐにグレル先生に見つかってしまい、玲とメアリー、その他肝試しに参加した数人の生徒ともに罰則を食らったのだが、その話はまぁおいといて。




今日はメアリーを置いて逃げたことに対して、玲がその埋め合わせをする日だったのである。

「何味にしようかなぁ〜。チョコ?イチゴ?抹茶?それとも全部にしようかなぁ?うーむ、他のメニューも捨てがたいし…」
「……」

もし、それを全部注文されるとしたら、玲は明日から水道水をおかずにご飯を食べなきゃいけなくなるのだった。


はぁ、とため息をつき玲は自らの不幸を呪った。




二人は駅前にある黒塗りの看板の、最近できたばかりのカフェに向かっていた。
自家製マカロンやクッキー、その他はパイも売っているお店である。
『カフェ・ド・キャット』と書かれた看板と、玄関には不気味な猫の置物が置いてある。
どことなくハロウィンな雰囲気を醸し出す店内は、その割にはたくさんの客がティータイムを楽しんでいた。


「わぁ、このカスタードパイもおいしそう!むむぅ、イチゴマカロンも捨てがたい…」

店に着くなりメアリーは開口一番にそう宣った。

確かにショーケースの中に並ぶケーキやお菓子はどれもおいしそうで、思わず玲も目を輝かせてしまう。

「いらっしゃいませ、2名様ですね?」

店の奥から黒いワンピースに白いエプロン姿の店員が顔を出した。
黒い短髪に、灰色の瞳の外国人だった。

「開いているお席にどうぞ」

そう言って二人に着席を促すと、再び店の奥に引っ込んでいった。

「ほらほら、玲もなにか頼まなきゃ、せっかく来たんだし…」
「じゃあせっかくだけど…一番安いヤツで……」

えー!もったいない!前にイヴと来たときはこれとこれ頼んで…とか、いや、そんなに頼んだらあたしは今月破産するから…とかそういう会話を繰り広げていると、二人の耳に丁度聞き覚えのある声が響いてきた。






「おやぁ?玲とミス・ファンバステンじゃないかぁ?」


二人は一斉に振り返った。



カフェの扉をチリンと鳴らして入ってきたのは、黒いスーツにごつごつしたブーツをはいた、学校一の変人だった。
その長い上着裾をはためかせて、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら突っ立っている。

二人は思わず声をハモらせていた。

「「校長先生!?」」
「ヒッヒ…学校帰りにこんなお店に寄るなんて先生はあんまり感心しないねぇ」

校長は入り口のショーケースにだらしなく寄りかかり、二人の驚いた表情に満足するかのように笑みを深めた。



「あら、誰かと思ったら貴方だったの」

店の奥から先程の店員がお冷やの入ったグラスを2つお盆にのせて現れた。
彼女は校長の姿を認めるなり、真顔になってそう言った。

「えっ!校長先生と知り合いなんですか!?」

思わず玲は聞いていた。
店員は苦笑いのような笑みを浮かべて、グラスを置きながら答えた。

「ええ、ちょっとねぇ。腐れ縁みたいなものよ。そんなことより貴女たちはこいつの生徒なのね」
「はい、そうですけど……」

まさか校長をこいつ呼ばわりできる人がいたとはと、二人は戦慄し顔を見合わせた。

「小生と彼女はふる〜い友人でねぇ。たまにこのお店でクッキーを頂いているのさ」
「へ……へぇ。そうなんですかぁ」

玲はお冷やを飲みながら思わず感心してしまった。
校長にもまともな知り合いがいたんだなぁと素直に感動してしまったのである。


「そうかぁ、ヒッヒッヒッヒ!あのとき駅前のマカロンがいいって言ってたのはここのことだったんだねぇ〜」

校長はさらに笑みを深め。口元を手でおさえた。
二人は先日起きた事件の顛末と、その後にやらされた罰ゲームを思い出し、思わずテーブルに頭を打ちつけたくなった。

「あのときの二人は笑えたよぉ〜!ヒィ〜ヒッヒッヒ!!!小生は理想郷を見そうになったよぉ!」
「何?何の話?」
「「やめろ!きかないでください!」」


実はさぁ、と言いかけた校長を二人は全力で止めに入ったのだった。
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