頂き物
□繋がった世界
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最近の子は歩くのが早いのだ、と思った。子、というのは間違っているのだろうか。けれど、女、というのも、女性、というのも違うような気がした。
後姿を眺める。細い背中だった。動きやすいようにと纏めた長い黒髪が揺れる。
私よりも背が高いのに、腕も脚もすらりと細かった。
なぜ自分がこう考えているのか分からないなあとぼんやり、渡り廊下から見える空を少しだけ、見た。
20XX年。
グレルさんの学校で体育大会があるのだという。そのことを、高校から帰ってきた彼から聞いた。
ついでにデフォルメされた男女がボールを持って笑っているプリントも渡された。
応援に来なさいよ。
そう言われたので、はい。いつですか? と聞くと、
明日。
と、何でもないような調子で返された。
…今冷蔵庫にあるもので何が作れるのかということを主に考えながら、分かりましたと短く了承した。
学校というものに行くのは初めてだ。
用意してきたお重型のお弁当を、両腕で抱えながら高校の門の前に立つ。
そこら中に体操着姿の生徒がいて中には私のように学校関係者やら保護者らしい人たちも結構いたが、とりあえず、グレルさんはどこだろう。
「何してんの?」
声をかけられた。振り向くと、私よりも大柄な男の生徒たちが3、4人こちらを見ていた。
多分、この学校の人間だろうと思って聞いてみる。ぺらぺらとした笑みも浮かべているから、大丈夫。
あのすいません。お尋ねしたいことがあるのですが。と話しかけると、
やっべー、逆ナン?マジかよ。話しかけてよかったー。笑い声。
…なんとなく、会話が成立していない気もしたけど話を続ける。
「あの、人を探してるんですけど。」
「あのさー、俺ら競技もう出ねーんだよね。」
「そうなんですか。で、その、」
「でさーやっぱ?あっちーじゃん?夏だし?だからマジで涼しい場所知ってんだけどさー。」
「……」
「一緒にこない?」
会話が通じていなかった。
どうしようか。と暫く悩む。早急にグレルさんを見つけなければ。
自分が今置かれているこの状況がどういうものかは分からないが、とりあえず彼らに付き合えばお弁当が食べられなくなってしまうかもしれないということは分かった。
そうなるとグレルさんがお腹を空かしてしまう。それは一大事だった。
「すいません。失礼します。」
人込みでごったがえすグラウンドを横目で確認しながら、無礼に拒絶した。話は終わったのでその場を離れようとする。
「ちょ、待てっての。」
どうやら、男子高校生の怒気を買ってしまったらしい。態度がささくれ立つ。
いつの間にか周りもさりげなく囲まれている。
「申し訳ありません。用事があるので。」
「そっちから誘ってきたのに逃げんのかよ。」
私にしては正道な意見で拒否したのに、何故か憤慨していた。
というか誘ったってなんなのか。誘惑するということか。お重を持って誘惑する女がどこにいるのだろう。
「ホラ、こっちこいよ!」
一人が苛立ったかのように腕を引っ張ったその時だった。