無双orochi2夢小説

□■赤鬼さんと一緒(7)
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いつの頃からだろうか。
時折、ふとした拍子に脳裏を駆け巡る光景や、夢を見ることがある。
いつも決まってそれらは陰鬱な気分にさせてくれる。
その光景は、恐らく記憶だ。
自分の記憶ではない。

他人の記憶だ。

これは・・・この記憶は・・・









『・・・・・・!』

何者かが何かを言っている。
声はまるで水の中で話しているかのように不明瞭だ。
何と言っているのだ。
もっと、よく聞こえるように相手の口元に意識を集中させた。

『遠呂智さま!』

・・・なんだって?
おろち・・・遠呂智といったのか?
思わず我が耳を疑う。
遠呂智だと?
どこに遠呂智が居ると言うのだ。
ぼやける視界の中、目を凝らして周りを観察すれば妖魔たちが眼前で跪いているのが見えた。

『ねえ遠呂智様、次はどの国を攻め滅ぼしましょうか?』

女の声がした。
媚びるような、纏わりつくような、愉快気な声がした。
その声の方へと視線を向ける。

妖魔の女が居た。

この顔は見覚えがある。
妲己だ。
その妲己が、自分に向かって「遠呂智」と呼ばわる。

『遠呂智様』

・・・やめろ。
私は遠呂智ではない!
私は・・・私は・・・・!

・・・・・・・・・

私は・・・誰だ・・・・?



私は酒呑童子だ。
いや、遠呂智だ。

違う、私は・・・・・

















「赤鬼さんと一緒」
〜 orochi2トリップシリーズ7〜














白い光に包まれた。
酒呑童子は眩さを感じて身を捩る。
僅かに聞こえてくる小鳥の鳴き声に、うっすらと瞼を上げた。
朝が来たようだ。

「・・・夢、か」

いや、あれは確かに夢であるが、ただの夢ではない。
この討伐軍に身を置き、太公望との会話を交わすうちに少しずつ断片的な映像を夢に見ることが増えていた。
これは、記憶だ。

自分の記憶。
そして、遠い昔から生きた彼の者の記憶。

分かっている。
己が何者であるのか。

「私は遠呂智だった・・・いや、遠呂智の分身というべきか」

すとん、と胸に落ちた答えに不思議と抵抗は無かった。
ただ、孤独感と罪悪感、そして哀しみが全身に広がった。
かつて人間達を苦しめてきた遠呂智・・・それが自分自身とも言える存在なのだ。
これを皆が知ったら、どう思うだろうか。


何よりも、玲に知られてしまったら。


それを考えるだけで恐ろしかった。
人に恐れられる側の鬼である己が、恐れている。

「玲に厭われることがこれほどに怖いとは」

乾いた溜息を落とすと、顔に掛かっている寝乱れた赤毛を振り払った。
憂鬱な身体を起こして眩い朝日から手で庇うようにして顔を抑える。

遠呂智と同一の存在。

その事実が酒呑童子の心に重たく圧し掛かった。
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