無双orochi2夢小説

□■赤鬼さんと一緒(1)
1ページ/4ページ


「おーい、嬢ちゃん! こっちにも酒持ってきてくれ!」

「はーい。今行きますよー」


酒宴も佳境に達しようかという頃。
ほろ酔い気分の者や、酒宴開始早々に出来上がりかけていた者、まったく酔いの気配を見せぬ者。
名だたる武将達のさまざまな表情が見える。
戦国時代、三国時代の世界、更には仙人や妖魔という人外までもが存在する、すべて融合したこの不思議な世界。
そこにあってもなお、やや異質な装いの娘が飲店で忙しく働いていた。

紺色の上下揃いの生地で出来た、上着と膝丈上の短いひらりとした履物。
上着の内に白い薄手の衣服を着ており、首元に簡素な赤い飾り紐を結っている。
服に使っている布は絹などの高価な生地ではなかったが、一般の村人が着るにしてはずいぶんと頑丈で仕立てが良く、また簡素でありながらそこそこの品も保たれている不思議な衣服だった。
この服の正しい名称を答えられるのは、恐らくこの服を身にまとっている本人だけだろう。

その娘・・・未来の日本からやってきた少女、佐倉玲は紺色の揃いのブレザーとスカートに白Yシャツと赤いリボンという制服姿に飲店で働き始めてから着用するようになった前垂れを掛けていた。

どうみても非戦闘員。
戦場ではなんの役にも立たないだろう。
それが何故この様な軍に身を置いているのかと言えば、また単純な話で、この世界に取り込まれてしまい妖魔に追われていたところを妖蛇討伐軍に拾ってもらったというのが理由だ。
どこか安全な村に送ってもらうまで、戦えぬならせめて炊事や雑用をさせてもらおうということで、飲店で働いているのだ。
新しい仲間が増えるたび交流を深めるため、あるいは戦の勝利の祝杯ということで宴会が催されているため、玲の仕事は多かった。
そしてこの日もまた、新たな仲間を迎えた妖蛇討伐軍は酒宴を開いていた。

「酒が足りぬ・・・」

「はいはーい。今度は誰さんがお酒足りないのかなー・・・・・っと」

酒のおかわり催促に玲が視線を向けた先には、数人の男達の円陣の内に一際目立つ赤毛が居た。
大柄な体躯に、鮮明な赤毛頭からは二本の角、瞳は左右で色違いの金色と赤紫色。
人間ではない。
彼の名は酒呑童子。
新しい仲間とは、この酒呑童子のことだった。
彼の周囲に転がる空の徳利の数が周囲と比べて異様な数だった。

「お酒の追加は徳利じゃなくて樽ごとの方がいいかな?」

「ああ、そうしてく・・・・・・お前は・・・・・」

言葉を不自然に切った酒呑童子は驚いたように目を見開いた。
酒呑童子の鼻腔に覚えのある魅力的な香気が舞い込む。
玲の顔を見つめたまま固まる。

「はい、お久しぶりね」

ひらひらと軽く手を振る玲に、酒呑童子はようやく硬直状態から解かれた。

「・・・・・無事、逃げ切れたようだな」

「うん。おかげさんで。あの時はありがとう」

「初めてあった時も思っていたが、お前は変った娘だ。
鬼に感謝など示す人間が居ようとは」

「うんとね。前も言ったけれど、鬼とか人間とか関係ないよ。
あなたは、あたしを助けてくれた。だからあたしは感謝してる。
ただそれだけの単純なことだよ」

「・・・フ。そうか。単純なこと・・・か」

「んで、お酒は樽ごと? ていうか、あたし一人じゃ樽ごと運ぶの無理ゲーなんだけれど、どうしよう」

「良い。自分で持ってこよう」

「そう? んでも悪いなぁ」

「構わぬ」

「んー、でも、あたしの仕事を任せちゃうからなぁ。
そだ、なんかおつまみくらいは、あたしの奢りで出してあげる」

玲は言うなりその場を早歩きに去り、厨房へと入って行った。
その後姿を見送り、酒呑童子はそっと呟く。

「やはり面白い娘だ」

酒呑童子は最初に玲と出会った時のことを思い出すのだった。











「赤鬼さんと一緒」

〜 orochi2トリップシリーズ1〜
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ