ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活15
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「入って」



「…ああ。お邪魔するよ」



意中の女の誘いにホイホイ乗ってやって来た…彼女の部屋。
二人っきりでエレベーターで4階まで降りる時から既に、乙瀬のボブカットの黒髪から覗く滑らかな項に指を這わせたくて仕方なかった花京院である。
結構その気だ。
しかし、それは仕方のない事だ。
普段どれだけ聡明で落ち着いていて大人っぽいといえど彼はまだ17歳の男子高校生である。
若さ漲る年頃だ。
あのような紛らわしい誘われ方をされては、覚悟を決めた男の顔になってしまっても誰も咎められまい。

そんな花京院が八柱家の玄関に入り靴を脱ぎ廊下に一歩上がった所で、彼は部屋の異変に気が付いた。



トトトトトト…



…と、何か小型の生き物が走り回るような音が聞こえたのだ。



「何か足音…」



「うん、だからお願い!」



ぐいぐいと花京院の背を押して部屋の奥に追いやろうとする乙瀬。
明らかに花京院の意図と乙瀬の意図が食い違っている…その事に花京院はようやく気が付いた。



「ネズミ…」



花京院の視界に灰色の毛玉が過る。
一度はこの部屋から逃げ出したはずの人間が援軍を連れて戻って来た事を察してか、悠々カレールーを齧っていたネズミが警戒モードに入ったらしい。
食事を中断して避難場所を探している様だ。



トトトトトト…



部屋の中を小さな軽い足音が走りまわっている。



「…八柱。頼みっていうのはもしかして」



乙瀬へと振り返る。
すると乙瀬は勢いよく首を縦に振って肯定した。
否定してほしかった。



「今あたし一人しか居なくてさぁ…ドブネズミとか初めて見たわ。
ちょっと、あたし無理だわ。
よって、花京院に任せる」



花京院の頭の芯に何か冷え固まったものが発現した気がする。
徐々に徐々に冷気を放ち、それは花京院の頭の中をすっかり冷やしていく。
花京院は乙瀬に近くに来るように手招いた。



「ちょっと…ちょっとこっち来て」



これからネズミ退治を依頼する手前、花京院の行動には敬意を払い基本的に従う方針の乙瀬は手招きされるまま彼の側に寄った。
乙瀬の額にビシリと弾かれる衝撃と痛みが走る!



「痛ぁっ!」



痛みと驚きで目をまん丸くする。
彼の右手の形からするに、どうやら思いっきり全力でデコピンを放ったらしい。



「君さぁ…」



花京院の声は平素よりも一段階低い。
眇めた目で睨み下ろしてくる彼の眉間には深く皺が刻まれ、陽射しの傾きのせいで顔に深い影を落としている。
それはそれは恐ろしい人相であった。
この顔、乙瀬は知っている。
肉の芽が付いていた時の花京院だ。



「たった、このためだけにあんな際どい誘い方をしたのか?」



冷めた。
一気に冷めた。
のぼせていた熱が気化冷凍されたレベルで冷めた。
寧ろ一巡して冷めたものが別の性質になって沸々煮えたぎってきた気がする。
流石に乙瀬も花京院が肉の芽院のような形相をしていれば何かすごくマズイ事をしてしまったのだろうという推測は出来た。
ただ、一体何がそんなに彼の機嫌を損ねてしまったのかは理解できていないが。
乙瀬はジンジンと痛む額を押さえながら、申し訳なく眉尻を垂れつつも率直な意見を述べる。



「だってネズミだよネズミ。
アイツら結構凶暴なんだよ?
噛まれたらどうすんのさ。
あたしは嫌だよ絶対に」



「自分が嫌な事を人にやらせるってどういう性格してるんだい君」



「そのセリフは確かゲブ神の時に…」



「それ以上は言うな。君の身のためだ」



慌てて口を両手で塞ぐ。
余計な生意気な台詞は吐かないように気を付けよう。
特に花京院が怒っている時は。



「でもさ、でもさ。
もしかしたらスタンド使いかもしれないし、そのネズミも。
可能性が無いでもないじゃない」



イギーやストレングスやペットショップみたいに。
動物のスタンド使いほど凶悪なものはない。
4部で承太郎と仗助がネズミのスタンド使いと交戦するわけだが、まだ4部アニメを見ていない乙瀬にはそれを知る由もなかった。



「そんなお手軽にスタンド使いが転がってれば、僕は今までの人生で息苦しい生き方なんかしなくて済んだのだがな」



「…す、スタンド使い同士は引かれあうらしいですよ」



「へぇ、それはまた興味深い話で。
そんな事より本心を言えよ」



「はい。ネズミ怖いです。
あたしはネズミ一匹にすら尻尾を巻いて逃げ出したヘタレです。
ネズミ怖いです。
貧弱な精神です。
ネズミ怖いです。
なので、花京院にネズミをとっちめてほしいです。
ネズミ怖いです!」



乙瀬、低頭姿勢。
憮然としていた花京院がすごく底意地悪いニヤニヤとした笑みを浮かべ始める。



「八柱…普段、君は僕を避けるのに。
こんな時ばかり頼るなんて虫が良すぎるんじゃあないか?」



「ああ、はい分かりました。
後で何かお礼します、させていただきます」



「投げやりだなぁ。
もっと腰を低くしてくれないと僕もヤル気が起きないよ」



花京院は頬に掛かる前髪を指先で弄り始めた。
あからさまに、わざとらしい位に気乗りしていない態度を示している。



「お願いします花京院さま!!いやもう何でもいいからさ!
ホントもう、とにかく何でもいいから、どうにかして欲しい!」


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