ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活8
4ページ/5ページ


(やはり来たか空条先輩)



現れたのは特徴的な学帽と改造長ランだった。
…どうやら季節問わず、屋上は承太郎が高確率で出没するスポットらしい。
次からはもう屋上の利用はしない。



「何だテメエ…また一人で飯か。
ダチは居ねえのか」



「居ますよ友達くらい。
…女だって、いつもいつも誰かとつるんでたいワケじゃないですからね」



「喧嘩中か」



「違いますー。
ていうか、先輩もこんな人が来ない所で昼食ですか。
…ああ、静かな所がいいんですかね。
あたし、場所変えましょうか?」



「食っていけばいいだろ。好きにしな」



冗談止めてくれ。
私すぐ帰りたい。



「いえいえ、お邪魔しました。
ごゆっくり」



足音が聞こえてきたあたりから、まだ食べかけであったが弁当を片づけ始めていたため、すぐその場から腰を上げられた。
我ながらグッジョブ。
承太郎と入れ違いの形で立ち去る。
…去ろうとしたところ、承太郎に続いて他に人影が近づいてくる事に気付く。
その時になって初めて乙瀬は己の浅はかさを呪った。



「まだ昼、途中だろう?
丁度ここで会ったことだし一緒しないか?」



乙瀬の進行方向を遮るようにして立ちふさがった長身が、そう言いながら自分の弁当箱を持った右手を示す。
左手では乙瀬の肩をガッシリと抑えている。
新緑色の長ランはこの学校では現在一人しか居ない。



(花京院…恐ろしい奴め…)



乙瀬は青白い顔で花京院からの提案という名の強制を受け入れた。
今すぐ泣きたい。

乙瀬の行く先を苦も無く見つけ出せたその秘訣は、もしかしなくともハイエロファントグリーンだろう。
彼のスタンドは射程距離100m以上を誇るのだ。
本体がほんの少し歩数を稼ぐだけでこの学校の敷地内は全方向に殆どカバー出来る。
敷地内で乙瀬がどこに逃げようと隠れようと無駄という事だ。
どうせ見つかるのならば、一人になるのは愚策だった。
まだ友人たちの輪の中に居た方が良かった。
何せ、今この場に居合わせる顔は乙瀬の他には花京院と承太郎なのだ。
二人が組んでない訳が無い。
完全に分が悪い。
大袈裟に言えば敵陣だ…ここは敵陣の中で、乙瀬は孤立している状態だ。
強行突破で逃げ出そうにも階段側は花京院と承太郎が早々に陣取りダブルディフェンスの構えだ。
いくら座っているとはいえ、ガタイのいい男が二人並んでいるのでは隙間を抜けようにも抜けられない。
袋のネズミ。
窮鼠猫噛むという言葉があるが、乙瀬にはこの二人に噛みつく勇気は微塵も無い。
追いつめられたネズミは恐々と二人の前に腰を下ろした。



「それにしても八柱さん。
さっきは驚いたよ。
突然『まるで逃げるようにして』窓から飛び出していくんだから」



花京院が何気ない口調で話しかけて来る。
さっそく飛んでくる言葉のジャブ。
ジャブだけど今の乙瀬には重い一撃だ。
ズドンと重い音を立ててもろに心臓の辺りに入った。
一発目から既に動悸がすごい。
乙瀬はもう視線すらも合わせられない。



「……」



「君、もしかして僕の事避けてる?
何か気に障る事したかな…それなら謝らせてほしい」



などと殊勝な口調で言うがその表情は先日に保健室事件で謝罪してきた時違い、まったくこれっぽっちも「申し訳ない」という様子はない。
寧ろ口元は若干楽しんでそうに口角が上がっていた。



「…いえ、別に…逃げてるだなんて…そんな事はありません…」



「そうかい?
話かけようとするとタイミングを計ったように逃げてしまうし、視線も合わせてくれないし」



「そんなことはない…っ」



今にも死にそうな震え声になってしまっている。
それでも花京院は止まらない。
流石の承太郎も引き気味な色を浮かべた瞳を友人に向けているが、それでも花京院は止まらない。



「もしかして、あの時の事で迷惑かけたのかな?
ほら、僕が教科書忘れた時に見せてくれただろう?」



乙瀬は既に空っぽの缶ジュースに意味も無く口を付けたまま緊張した。



「あ、そういえばさ。
その時に八柱さんの字を見てて気が付いたんだけど。
実は以前にとある手紙をもらった事があってね。
その秘密の手紙に書いてあった字とよく似てるんだ」



話しが本筋に入ると承太郎も威圧感満々で睨み下ろしてくる。
ニコニコと笑顔で狡猾な隙無い光を灯す花京院の目は相変わらず乙瀬を弄ぶように見つめている。
彼らの目は「君が真実を吐くまで追求を止めない」と言っている。
真実は吐かないがゲロなら今すぐ吐きそうだ。
押し掛かって来る重圧に胃が握り潰されているような錯覚がする。

逃げたい今すぐ逃げたい。
しかし、階段は承太郎と花京院の向こう側。
逃げたとしても捕まるのは分かっている。



(逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ)



どうにか遣り過すしかない。
視線はあっちこっち泳いでいる。



「あ、そうなのふーん…」



なんとか一言しらばっくれるセリフを吐くだけで精いっぱい。
刑事に尋問される犯人の気分で弁当をつつく。
弁当はまだ半分も残っているが、承太郎も花京院はとっくに食べ終わり片づけも済んでいた。
疑惑…というより確信と尋問に近い監視の目を緩めず見つめて来る気まずさの中で食べる食事は正直、味すら分からなくなる程に緊張にまみれていた。
ガラスメンタルは砕けそう。
ようやく全てを食べ終わってもまだ解放はされない。
弁当箱を片づけ鞄に仕舞い、へたりそうな腰を上げたところで花京院の目が眇められる。
乙瀬の心臓が口から出そうになった。



「あれ、もう戻るのか。
食べ終わったばかりなんだし、ちょっとゆっくり話でもして行かないか?」



道を譲る気の無い花京院が提案という名の強制その2で乙瀬に座るよう指図である。
やめて。
闘争心と精神力の高い貴方がたと違って、こちとら一般人なのだ。
これ以上プレッシャー掛けられたら本当にゲロ吐いちゃうから。
DIO様と向かい合った時の花京院のようにな。
よって、ここは断固、「だが断る」と拒否の姿勢を貫かねば。
恐怖を乗り越えるのだ乙瀬よ。
もう二度と惨めな八柱乙瀬には戻らない。



「いえ、寒いんで…教室に戻りたいです…」



断固たる毅然とした態度…とはいかず、とても低姿勢。
消える直前のロウソクの火のように萎えかけている意志でどうにか振り絞った勇気である。



「それもそうだね。
女性は身体を冷やさない方がいい」



意外。
乙瀬の主張が却下されることは無く、あっさりと罷り通る。
助かったとばかりに少し緊張を緩ませた乙瀬の視界の先で、花京院が立ち上がった。



「それじゃあ承太郎。
僕達はそろそろ戻るよ」



「ああ、じゃあな」



当然のように乙瀬と一緒に戻る姿勢を見せる。
まるで一人だけ時止めでも喰らったかのようにピッシリと凍り付いた乙瀬に、花京院はゆっくりと優しい仕草で手招きする。
もうプレッシャーがひどくてゲロ吐くどころか胃に穴が空きそうだ。
腹にでっかい穴が空きそうだ。



「さあ、行こうか八柱さん」



優雅な顔立ちの少年が眼光だけは強いままに穏やかに微笑む。
乙瀬はその笑顔に逆らえなかった。
彼に手招かれるまま逆らえなかった。



「…はい」



これが…せい…いっぱい…です。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ