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コタンで過ごす事、数日。
杉元も晴もアイヌの習慣やコタンでの生活に少し慣れてきた、とある夜。
子供たちが寝静まり、起きている大人達だけが一日の余韻の時間を静かに過ごしていた。
フチと晴は繕い物を、杉元とオソマの父マカナックルは時折短く言葉を交わしていた。
そんな中、低く尾を引く音が遠く微かに空気を揺らした。
「聴こえるか? 二人とも。珍しい音だぞ」
「遠吠え…ですね」
「犬よりも太くて長く続く遠吠え。狼のものだ」
オオカミ。
その獣はもう、日本にはただ一頭しか残っていない。
あの時の白い狼…レタラだ。
マカナックルは話してくれた。
アシリパとレタラの出会いや共に過ごした日々。
そして別れの事を。
レタラは結局アシリパとは共に在れなかった。
父親を亡くし、レタラとも別れ、そうしてアシリパは寂しさを抱えた。
「大人びてはいるがアシリパは寂しがり屋のいたいけな子供なのだ。
そんな事があってからアシリパは笑顔を見せなくなったが最近はずいぶんと明るくなった。
お二人と一緒に居るのが楽しいんだろう」
マカナックルはそう言い残すと寝入っているオソマを抱えて自分のチセへと帰って行った。
それからフチが杉元と晴に話した内容は、言葉こそ分からなかったが心は二人にしっかりと伝わっていた。
アシリパは大切に想われている。
フチにも村の皆にも。
愛されているのだ。
その夜更け。
皆がすっかり寝入った頃。
杉元佐一は一人、コタンを去った。