二人並んで正門を出る間も周囲の女子生徒からはチラチラとこちらを窺って来る視線が向けられた。
乙瀬はその視線から逃れるように早足に歩を進めた。
本人は競歩レベルで急ぎ足のつもりであるが、隣を歩く長身は足を急がせている様子は無かった。
多分、これが彼の普段の徒歩スピードなのではないだろうか。
コンパスの違いが明白すぎて辛い。
「八柱は僕の事が嫌い?」
帰宅する生徒の姿がまばらになって来たあたりで、花京院がそんな事を問う。
彼が何故そんな事を聞いてくるのか、身に覚えはありまくる。
乙瀬はしかめっ面しながら隣の顔を見上げるが、しかし、しっかりと首は横に振った。
「嫌いとかじゃなくてさ」
「それなら好き?」
まるでどこかのヤンデレ女子みたいな事を言うんじゃねえよ。
正直、花京院が好きか嫌いかの二択を迫るとか、割とシャレにならない怖さがある。
「端から端へと飛んだなオイ。
好きか嫌いの二択ならそりゃ好きだよ。
花京院と友達すんのも良いなとは思う」
「それなら何故逃げ回るんだ」
「だから言ったじゃん。
貴方のファンが怖いのだと。
学校では絡んでくるのをやめてくれと」
何度も何度も言っているはずなのだが。
まだそれを聞くのかと、乙瀬はいい加減言い飽きてきた理由を口にする。
「今だからこそ再び問うている」という花京院の心情を汲むにしては、今の乙瀬は少々小娘すぎた。
「でも何もされてないだろ?」
「まあ、そうだけど…そういえば最近、呼び出しされる事が無くなったかも」
それに乙瀬を見る視線まで消えたわけでは無いが、先日までの刺々しい物ではなくなった。
不思議そうにしている乙瀬には、事の真相にまで思考を辿らせるなど到底できまい。
しかし、別にそれで構わない。
花京院が乙瀬の知らぬ場所で労を執っていたなど知らなくていい。
知ればきっと乙瀬は逆に気まずさを覚えるだろうから。
花京院はそう思う。
「なら大丈夫なんだろ。
大体、人目を気にしたところでもう今更だ。
それに学校だけで対策してたって意味ないだろう?
学校の外で一緒に居るところを誰かに見られてたら結局同じじゃあないか」
「…そりゃ、そうなんだけど…少しでも目撃の確立を下げてだな」
「無駄無駄無駄」
某吸血鬼のようなセリフで花京院は爽やかに笑った。