ジョジョ夢小説

□とある女子の異世界生活13
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帰り道



通い慣れた登下校路を自宅に向けて歩く影が二つ並んでいる。
乙瀬はいつもは弥栄子と一緒か他の女友人と一緒か一人で辿る道であるのだが、今日はそのいずれにも当てはまらなかった。



「一緒のマンションだったんだよな」



乙瀬の隣で彼女の歩幅に合わせてゆっくり歩く花京院が可笑しそうにしながら言った。
今まで気づかなかった…というか他の階層の住人の事までは気にしてなかったのだが、二人は同じマンションに住んでいたのだ。
それは先日、乙瀬の記憶をハーミットパープルで念写した時に気付いた事だった。
乙瀬は引っ越しトラックが停まっていた日に心の奥では察していたが、あえて気付かなかった事にしていたのに。
花京院が気付いてしまった。
やはりマンションの8階に越してきたのは花京院だったのだ。

彼は現在一人暮らしなんだそうな。
突然の転校を両親に願い出たのだから、それは確かに親の方も仕事の都合というものがあるのだから本人だけがこちらに引っ越してくる事になるのは当然だ。
しかし、ここのマンションはそもそも分譲が目的だから一人暮らし仕様の部屋とはいえ間取りも設備もそれなりにしっかりしている。
結構な家賃のはずだ。
…花京院の実家は結構なお金持ちなのかもしれない。
花京院という苗字からして金持ちそうだ。
そういえば彼自身、育ちが良さそうな坊っちゃん感がある…気がする。
インドで早々に財布をスられてしまった時もラバーソールと違い「テメェ俺の財布を盗めると思ったのかぁこのビチグソがぁ」と、めちゃ許さんバックブリーカーなどせずに「僕はもう財布をスられてしまった」と困惑気味にコメントしただけだったし。

…今はそれよりも。
近頃急激に色々な意味で距離感が近くなっただけでなく、住居まで近いとなればこれはもう、あらぬ疑いの嵐は免れない。
一緒のマンションに出入りしている現場なんか見られた日にはもう命が無いかもしれない。
死活問題だ。



「花京院、一つ言わせてもらうわ」



「うん、何?」



「あのな、あたしは別に花京院の事嫌いじゃない。
普段普通に喋ったりするのも構わない。
でも学校で必要以上に絡んでくるのはやめて欲しい」



「付き合ってません潔白です」と弁解しても僻みや嫌味は止まらない。
というか花京院に誤解を解こうとする素振りが無いので、この疑惑の真偽はいつまで経っても平行線なのだ。

ついに乙瀬本人の口から「距離を置こう」という言葉が出て来るようになった。
花京院にとって一番避けたかった事態である。
そのはずなのだが、花京院に焦る様子は一切無かった。



「別に僕の事嫌いじゃないんだろ?
なら僕がそれに従わなきゃならない理由は無いな」



「理由あるから言ってんだっての。
あたしが花京院ファンの女子達に殺されかねないんだってば」



「大丈夫さ。
八柱って結構しぶといし神経も太いから」



言いながら甘いマスクを爽やかな微笑で彩る花京院を乙瀬は怨念じみた黒い影を纏わせるかのような恨みがましい目つきで睨んだ。



「お前ほどじゃないよ。
神経の太さに関しちゃ特にな」



「馬鹿らしいな。
僕達の友好関係なのに何で他の女子を気に掛けなきゃいけないんだ」



この男は女子の恐ろしさを知らないから余裕こいていられるのだ。
女子…異性相手には可愛らしい生き物でいるが、同性同士となれば事情が違って来る。
男同士の喧嘩のように派手に血を見るような闘争には至りにくいが、その代わりにかなり粘着質で陰湿で精神を深く深く抉る、いつまでも心に膿んだ傷痕をのこすような攻撃をしかけてくるのだ。



「お前ね、女子同士の諍いって結構怖いよ?
普段しおらしいあの子もこの子も、裏に回ればいとも容易くえげつない行為を行ったりするよ?」



大なり小なりあるだろうけれど、大方の女子は陰口を叩いた事くらいあるだろう。
寧ろ、裏で人の悪口を言うのではなく、その時その場でオープンに明け透け言葉を返しつつもサッパリとしたやりとりが出来る乙瀬はどこか少年じみていて女子としてはかなりイレギュラーだ。
もしも花京院が、そんな乙瀬を女子の判断基準にしているのだとしたら、とんでもなく大きなミスである。

ところがこの花京院の余裕の出所は、乙瀬が思っても見なかった所からだった。



「八柱。僕のスタンドがどんなタイプなのか忘れてしまったのかい?」



花京院のスタンド、ハイエロファントグリーン。
遠隔操作タイプで視覚は共有している。
触手や触脚で触れた物は手に取るように分かる。
偵察や遠距離攻撃に向いている。

…好意を寄せている女が、自分のファン達に危害を加えられるかもしれないという状況であるのに花京院がやけに落ち着いていられる理由が今、判明した。
乙瀬は密かに身震いした。



「…嘘だろ花京院。
まさかハイエロファントグリーンでいつも校内哨戒してるとか言わないよね?」



「まさか。
そんな手間な事するわけないだろう非効率だ」



「だよな…よかっ…」



「要は八柱に危害が及ばなければいいだけなんだから。
学校に居る間中、ハイエロファントグリーンで君の追尾をしているだけさ」



乙瀬はありありと慄き身震いした。



「嘘だろ花京院」



「流石にトイレや着替えの時は部屋の外で待機してるから安心してくれ」



「マジかよ花京院!
道理で近頃、空条先輩がもの言いたげな目でこっち見てる事が多いと思ったら!」



乙瀬にスタンドは見えないが、それでも思わず慌てて背後を振り返り近辺を探るように手を振り回す。
残念ながらハイエロファントグリーンは今はもう本体の中に戻っている。

それに気付かず空振りを続ける乙瀬の姿を穏やかに眺める花京院であるが、まさかこの男がこれで終わるはずがなかった。
いくらハイエロファントグリーンで乙瀬の守りを固めているとはいえ、それは彼女の身体への危害を防ぐだけに過ぎない。
もちろん、乙瀬の身の安全は大事だ。
しかし、ここから重要になってくるのは、精神的に健全な環境作りである。
人を傷つけるものは物理的なものだけでなく、言葉や態度も刃となる。
花京院と仲を深めるために乙瀬の心の傷を深めてしまうのでは意味がない。



(心置きなく青春ってやつを謳歌したいから)



花京院は既に次の手を動かすため、その算段をつけていた。


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