◆他校x不二

□201号室の事情〜トリプルなS〜
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「俺のマグカップがぁぁぁぁー!!!!!!」

朝っぱらから201号室に白石の絶叫が響き渡る。
花に水をやっていた幸村は「静かにしてよね」と毒を吐き捨てるも、もう一人の住人の姿はこの絶叫にも動じず夢の中だ。

「まったく、こんな絶叫してもまだ寝てるんだから。ほら、不二。おーきーてー。」

「んー。」

幸村に無理やり起こされ、寝ぼけ眼をようやく開く不二。
しばらくボーっとした不二は、ふと白石の手元に目をやった。

「あ、白石。マグカップ割れてる。」

「あぁ不二クン。おはようさん。せやねん、朝起きたら俺のマグカップが真っ二つになってもて…。」

「白石の置き方が悪かったんじゃないの?」

「ちゃうわ、幸村クン。俺はここに、ちゃんとおいとったんやで?せやのに…」

「…じゃぁさ、買いに行こうよ。マグカップ。」

不二の提案に目を輝かす白石に対し、少しめんどくさそうな顔を見せる幸村。

「だって、でかけるのってめんどくさくない?」

「そう言わないでさ…。せっかく今日休みなんだから。ダメかな?」

幸村より背の低い不二は必然的に上目使いになる。
もちろん、そんな上目づかいをされてしまっては幸村も「うん」と言わざるを得ない。
結局、朝食を済ませてからみんなで近くのショッピングセンターへ向かった。

「わぁー、久しぶりの買い物だ。なんか新鮮だね。」

「せやなぁ。なんかこんなん久しぶりやわ。毎日テニス三昧やったもんな。」

「ほんと、世間はこんなに普通なのに。なんか俺達だけ非日常って感じだよね。あ、不二。あの店行ってみようよ。」

幸村が指をさしたのは女の子に人気の雑貨屋。

「えー。女の子ばっかりだし。他の所でもよくないかな?」

確かに、店内は若い女の子。特にカップルたちであふれかえっていた。
正直、男3人でいくような店ではない。

「でもさ、不二クンなら女の子にっていってぇーっっ!!!!!!」

うかつだった。
不二は女の子に間違われるのを極端に嫌う。
女の子に見えると言いかけた白石の足を思いっきり踏みつけ、不二は幸村の腕をとり店内へと入っていった。

「ちょ、不二クン。堪忍やってぇ。なぁー!!!」

店内は少し薄暗いアンティークなコーナーもあれば、ファンシーなコーナーもありちょっとした迷路状態だ。
あっという間に白石は不二と幸村を見失い、一人きょろきょろ店内を歩き回ることになった。

「なぁー、どこ行ってもおたんやー。はぁ…。」

仕方なく一人でマグカップを見てるとふとイニシャル入りのマグカップが目に入った。

「く・ら・の・す・け…のKっと…。お、あったあった。」

緑ベースのマグに白い太字でKの文字が入ったシンプルなデザイン。だからこそこういうのがいい。
もうこれでいいやと思い、マグを手に取りレジへ向かう。
どうせ不二も幸村もどこかでほっつき歩いて「アレ可愛い、これ可愛い」と言いながらきゃっきゃ言ってるに違いない。

「にしても…なんでこんなにレジこんでんねん。ホンマ、ついてへんわぁー。」

前には7組ほど並んでいる。どれもカップルなので仕方なくあたりを見回す。
すると5組ほど前にどこかでほっつき歩いてると思っていた不二と幸村の姿があった。
店員が二人の持つ荷物を受け取り手早く梱包し、あっという間に会計がおわった。

「あれ、白石。なんだ。白石もなんか買うの?」

「っていうか、俺、マグカップ買いに来たんやけど。それより2人こそなんか買ったん?」

「っていうか白石。それなおしてくる。」

幸村が指をさしたのは白石が手にしているマグカップ。

「ちょ、聞いとった?俺、マグカップ買いに来てんで?」

「白石。いいから戻してきてよ。ね?」

そう不二に言われてしまえば、納得いかなくても納得するしかない。
しぶしぶ手にしたマグカップを元の売り場に戻してくる。

「ホラ、戻してきたで。」

「じゃぁ白石。ジュースおごって。のどか湧いた。」

「はぁ?意味わからん!何で俺がおごらなあかんねん。っちゅーか幸村クン、なんか俺に対してむちゃくちゃやんか。」

「白石―。僕ものどが渇いたからドドール行こう?」

またもや不二の援護射撃のせいで、白石の幸村への反論ままならず。
しぶしぶ三人でドドールカフェへと入る。

「しゃぁない。好きなもの頼んでき。」

「じゃぁ俺はアイスカフェラテにキャラメルソースがけ。不二は確か…キャラメルナッツラテだったよね?」

「うん。じゃぁ白石。よろしくね。」

「・・・・・・・。」

無言で財布を手に取りレジへと向かう白石。
結局自分は何しに来たのか。
自問自答しながら言われた品を店員に注文し、ついでに自分のアイスココアを頼んで席へと戻った。

「ほら、幸村クンのアイスカフェラテキャラメルソーストッピング、不二クンのキャラメルナッツラテ。」

「お、ありがとう。」

「ありがとう。あれ、白石ココアなんだ。」

「甘いもん飲みたなってん。」

ふてくされてストローを一気に吸おうとした白石の前に、不二が小さな箱を差し出した。

「はい、白石。開けてみて。」

「え?」

「いいからさっさと開けなよ。」

幸村にまで促され、渡された箱を開けると、中からSの文字の入ったマグカップが入っていた。

「えっと…これ、まさかと思うけど白石のS?俺…蔵ノ介やからKやねんけど…。」

「僕たちもね、おそろいの買ったんだ。ホラ。」

そう言って不二と幸村もカバンの中から箱を取り出し中身を見せた。
白石が緑のS、幸村が黄色のS、不二が青色のS。それぞれ学校の色に別れている。

「僕たちも新しいマグカップ欲しくなって見てたら、イニシャルのやつがいいなーって話をしててね。周助のS、精市のS…で、白石にも言おうと思ったんだけど、蔵ノ介のKだとかわいそうかなと思って。こっそり白石のSで買っといたんだ。」

「不二クン、おおきに!」

「俺には礼無しってあからさまじゃない?」

「わー、すんません!幸村クンもおおきに!」

白石がが幸村に平謝りをするところを、不二は面白そうにずっと眺めていた。
ふと、幸村が「まだ当分このままだね。」と小声で言われたので「せやな。」と白石も小声で返しておいた。
不二の笑顔が間近で見られなくなるくらいなら、独占できなくたっていい。
2人の間で優しく微笑んでくれるなら、今はそれが一番の幸せ。そう白石と幸村は思った。





「ところで…なんで誕生日でもないのにマグ買ってくれる気になったんやろ。」

「あぁ、あれ。実はさ…、夕べ不二が寝ぼけてマグカップ落っことしたみたいで。」

要するに、マグカップを買いに行こうと言いだしたのは不二の罪悪感からだったということ。
それを知った白石は落胆したと同時に、今日の一日があったのもあのマグの犠牲のおかげかと思い、心の中で犠牲になってくれたマグカップに「おおきに。」と呟いた。
その日から、201号室のテーブルには色違いのSのイニシャルの入ったマグカップが3つ仲良く並ぶようになった。
 

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