◆長編◆

□素直になれなくて
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全国大会が終わってしばらくしたある日のことだった。
職員室に呼ばれた不二は担任から書類を渡された。

「行ってみないか?立海大付属に。」

「え…?」

渡されたパンフレットには特別編入生支援制度という文字が書かれている。
内容をパラパラと見てみれば、外部の学校から成績優秀の生徒を大学までエスカレーター式で受け入れるという制度。
特に何も考えていなかった不二は、このまま青学高等部へ進もうと思っていた。その矢先の話。

「君は頭もいいし、スポーツも万能だ。立海大付属は知ってるようにテニスも盛んだからね。向こうの先生からも是非と言われてるんだ。」

「はぁ…。」

「もちろん、この案内が来たからといってすべての生徒が入れるわけではない。1か月間の審査期間があってその間に認められないともちろん編入はできない。」

立海大付属に行けばその先の大学はもちろん、それ以外の国公立大学だって手に届きやすくなるくらい授業が充実している。
その部分は惹かれる。
だが、気がかりなことが一つ。

(立海大付属行くってことは…当然このテニス部を離れなきゃいけないんだよね。)

とりあえずすぐに返事しなくてもいいという事だったので、書類だけを受け取り職員室を後にした。

その日1日、授業なんて耳に入ってこなかった。
同じクラスの菊丸にはひどく心配された。
それでも、頭の中で立海大のこととある人物の事が交互に交差する。

(越前…。)

天才ルーキーの越前リョーマ。
彼のテニスと、その自由奔放さに不二は惹かれていた。

(初めてだな…。もっと知りたいって思ったの。)

竜崎先生の孫娘・咲乃と一緒に歩いてるのを見ると胸が痛む。
自分は、あそこまで越前に近づけない。

(いっそいってしまおうかな…。立海大へ。)

高校へ進学したとしても、同じ敷地内に中等部はある。
嫌でもどこかで越前の姿を見てしまうことだってあるだろう。
それを思えば、いっそ見ない方が気が楽だ。
不二はもう一度、立海大付属のパンフレットを手に取った。
放課後、部活に顔を出す約束をしていたのに、体は勝手に駅の方へと向かっていた。


「立海大付属前―、立海大付属前―。」

電車とバスを乗り継ぎ、着いた先は立海大付属。
青学と違い、大学と併設されていることもありとても広そうに見える。

(はぁ…。なにやってんだよ、僕。)

少し頭を冷やそう。そう思って立海大の校舎に背を向けたその瞬間、誰かに腕をひかれた。

「不二さん、何してんっすか?こんなところで。」

「き…切原!」

不二の腕を引いたのは切原。

「練習サボリっすか?そうだ、ちょうどいいや。付き合ってくださいよ。」

「え?ちょっと切原…?」

不二の返事なんか聞く耳持たず、切原は不二の手を引き学校を後にした。
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