長編(男主)
□第1話 記憶の中の君
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「じゃあね。また会おうね」
にこやかな笑顔でそう言う、釣り目がちで黒髪のきれいな女の子。
かつて好きだった子にどこか似た子だった。
子供はなんでもすぐに約束する。
大人ならかなわないと知っている事でも信じて疑わない。
大きなトラックに荷物を詰めながら、
向かいの一家が引っ越していく。
彼女たちは、これからも連絡を取り続けるのだろうか。
僕は山本浩太。この四月から地方の実家を出て一人暮らしをしながら大学へ通う。
先日この古いだけのようなアパートに越してきたばかりだ。
高校はまだ卒業式を終えていない。
3年生は自宅学習期間。
入学式まではかなりあるが、推薦で大学に合格していた僕は、
地元に居るよりこれからの新生活の準備の方に重きを置いてこの町にいる。
バイトも探さなければいけない。
親が出してくれるのは学費のみ。
何とかこのぼろいアパートの家賃と日々の食費だけでも稼がなければ。
でもその前に腹ごしらえだな。
近くのコンビニで弁当を買う。
こんな食生活でいいんだろうか?いいわきゃないか。
部屋で寂しく弁当を食べることにした。
弁当を食べながら求人雑誌を見る。学生としての本分は怠りたくないので、時間の自由が効きそうなのがいい。
接客業も性格的に向いてない気がする。
給料で選ぶと、とんでもなくハードなものになりそうだ。
……絞りこめない。