長編(パロ)

□episode,1/R
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「田井中さ〜ん。ここも片付けといてね〜」
「……了解です」

「簡単に言いやがって、それがどんだけ重いか知ってんのか?」
周りに人が誰もいないホームセンターの倉庫で私田井中律はひとり言をつぶやく。

私は今、ホームセンターでバイトをしている。次の旅に少し軍資金が足りなかったための緊急処置。
決算前セールの大量入荷に合わせた短期バイト。
バイト初日には、倉庫はいっぱい。店頭まで荷物が散乱している状態だった。
でも、社員やパートなどの長期の人間は荷出しなどにはほとんど手を付けない。荷物が散乱するのはこっちが悪いみたいにこちらに言ってくる。
お前らが発注したんだろうが!!
しかしそれも今日で終わりだ。もう少しの我慢我慢!!

倉庫をあらかた片付けたので品出しに回った。
ペンキコーナーで整理をしていたら、困ったようにうろうろしている長い黒髪の少し背の高い女の人がいた。
キョロキョロしてるけど、上の方のものが取れないとかじゃなさそうだ。
明らかに私より背が高い。上の方に陳列してある徳用の大きなペンキが買い物かごに入っている。
脚立がなければ、私には手の届かないところのものだ。なんだか負けた気がした。

なんか探してるのかな?でも品出し要員は接客をしないことになっている。
質問を受けたとしても担当者に繋ぐだけ。
不用意に話しかけて「接客なんかしてないでさっさと品出し終わらせて」と嫌味を言われるのはもう懲り懲りだ。ペンキを全て棚に入れて私は他の所に回った。

バイトも終わり、買い物して帰ろうと店内に行くと例の女の人はまだ同じところでウロウロしていた。
さっき見かけてからもう二時間経っている。
ずっとここにいたのか?社員は何してんだよ。もう仕事中でもないし話しかけることにした。

「なんか探してんの?あんたさっきっからずっとこの辺ウロウロしてるよ?」
「う……。どれがいいか分からなくて……」

随分小さな声。でもいい声だな。歌わせてみたいと思う声だ。
下手すると聞こえないような声だったが意図は分かった。

「なにがいるんだ?」

その後ペンキの塗り替えしたいのだが刷毛が無いと言う彼女に刷毛やローラー。パレットなんかを選んでやった。

「じゃ、私はこれで。電池買って帰らないと。明日の準備で忙しんだ。じゃあな」
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