starry☆sky 短編
□星の宝物
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「なおっしー!」
その声は、背後からバタバタという足音と共に飛んできた。
「誰がなおっしーだぁゴフッ!!!」
振り返って言い返したのはほぼ条件反射だ。
振り返った途端にみぞおちに頭突きを食らい、かなりのダメージをおいながらもなんとか耐えた。
「ぷっ…!!はははっ!さすが直師先生っ!
ナイスツッコミっ…!!!」
ミサイルのごとく飛んできたのは、俺より背が低くて小さい女子生徒。
そいつは俺に抱きついて満足げに笑った。
「っ…!!おおおお前、教師に抱きついたりしたらダメだろうっ!?
それに、そのふ●っしーみたいなあだ名止めろ」
「え、だって可愛いじゃん。なおっしー」
それはどちらの注意に対する返答なのか。
彼女は離れないままあだ名を繰り返し、笑いをかみ殺す。
これは明らかに楽しんでる。
「俺が気に入らないから却ーっ下!
それからいい加減は、な、れ、ろ!」
少し力付くで引っ剥がす。
これ以上は心臓に悪い。
「え〜!?みんな思い思いのあだ名で呼んでるんだからいいじゃん!」
彼女は引っ剥がされた事はさほど気にしていないらしく、あだ名の件でぷくぅと膨れた。
こういう仕草が可愛くて仕方ないことは、極力、極力!表には出さないように努力している。
「ダメと言ったらダメだ〜」
「も〜っ、なおっしーのケチ」
「おまっ…!!言ってる尻からあだ名…!」
「なおっしー顔赤いよ、なおっしー」
「ワザとだろお前」
「ワザとだよ」
ケロッと言い放った彼女に、俺はガックリ肩を落とした。
「そうだよな、お前はそういう奴だ」
「分かってるなら話は早いね!」
「…は?」
「あだ名を変えて欲しくば付き合いなさい!」
「………………は?」
どうやらあだ名で呼ばれるのは避けられないらしい。
って、そっちではなく。
「付き合うって、何を?」
「うーん…そうだな〜…」
自分で提案しておきながら悩み込む仕草。
この待ち時間はなんだ。
彼女はしばらく考えてからハッと顔を上げた。
しかも満面の笑みだ。
可愛いがそれ以上に嫌な予感しかしない。
「街中デートしよう!!買い物したり、ゲームセンター行ったり!」
「はっ!?」
予感的中。
「はっ!?じゃなくって、街中デート!」
「おおお、お前、デートの意味を分かって言ってるのか!?」
「もちろん!!」
「分かってない!デートっていうのはだな、付き合ってる男女がするものなんだぞ!俺たちは違うだろ!?ましてや教師と生徒だしな!!」
なんでこんな事を力説しているのか、自分で言っておきながら恥ずかしくなる。
多分、相手が密かに気になる子だから尚更だ。
彼女はそれを聞いて少し寂しそうに眉をひそめた。
笑顔の絶えない彼女がそんな表情をするものだから、内心ドキッとする。
地雷を踏んだか…
「陽日せんせーじゃなかったら、デートなんて言葉は使わないよ…」
ぽつりと小さな声で、その言葉はこぼれた。
「え…」
意味が汲み取れなくて、言葉に詰まる。
それはいったいどういう…
頭を整理している内に、彼女は何かを隠すように俯いた。
「っ…!」
直感でヤバいと感じ、彼女に手を伸ばすが、少しばかり遅かった。
「…ごめんなさいっ…」
絞り出したような声と、俺の手をすり抜けた細い腕に、何かを失ったような感覚がよぎる。
一瞬で体が凍りついて、小さくなる彼女の背を追うことは出来なかった。
「なんでっ…」
何かをしでかしてしまった事だけは分かる。
でも、彼女の気持ちが分からない…。
“まさか”と思う自分と、“そんなことは”と思う自分が葛藤する。
“まさか”の自分が勝とうとしても、“だとしても”と自分でストッパーをかけてしまう。
最後の最後に、教師と生徒と言う関係がすべての壁になって、俺はやはり踏み出せない。
「くそっ…!」
それがもどかしくて、動かない自分の足に向けて吐き捨てた。
なにがそんなに怖いのか。
よく考えろ。
自分に必死に言い聞かせる。
本当に怖いのは、と…
時間がかかったが、答えは自ずと出た。
そして、それと同時に走り出す。
彼女の背中が向かった先へ。
大切なものはなんですか?