贈り物
□星の道
1ページ/1ページ
「サプライズ肝試しをしようぜ!」
弓道部3バカトリオがそう言い出したのはつい一週間前だった。
「「「は?」」」
当然、最初はみんな呆然とした。
インターハイが終わり、金久保先輩が引退し、やっと一息付ける時期だったこともあるが、何より“サプライズ肝試し”と言う言葉だ。
肝試しはともかく、サプライズの意味が分からない。
聞いてみると、引退した金久保先輩への感謝を込めて、サプライズで送別会をしようという話になったらしい。
しかしただの送別会では面白くない!ということで、送別会の中に肝試しを組み込もう、と…
ぶっちゃけメチャクチャだと思う。
でも、その反面できっと楽しいだろうなとも思った。
私が賛同すると、梓くんも
「いいんじゃないですか?」
と同意してくれた。
宮地くんは最後の最後まで渋っていたが、私や3バカトリオの熱意に負けたのか最終的には折れてくれた。
そしてそれから色んな準備を積んで、作戦決行の日。
私は、金久保先輩を会場である食堂へと案内する役割をもらったのだが…
よくよく考えれば、食堂までの道のりで肝試しをする計画なので、私まで金久保先輩と共に肝試しをすることになるのだ。
何故に巻き添え…?
いや、なんとなく想像はつく。
どうせあの生意気な後輩あたりが「それなら先輩の怖がってる顔も見たい」だの言い出したのだろう。
「こうなったらやり切ってやる…!」
「?何の話かな?」
1人ガッツポーズをかませば、すぐ隣にいた金久保先輩に不思議な顔をされた。
そう言えば先輩を案内している途中だった。
「あぁ、いえ、何でもありませんよ!
それよりこっちです!」
「随分と暗い道を通るんだね?
どこに行くのかな?」
「着いてからのお楽しみですよ。」
本当は着くまでの方がお楽しみだけどね、と内心でツッコんでいると、最初のお化けが潜んでいる中庭に着いた。
しかし、何も知らない金久保先輩にしてみれば、ここはただの通過点に過ぎないのだ。
だから、私はドキドキしている自分を隠して平然を装って歩く。
ちょっと〜!
誰が潜んでるか知らないけどやるなら早くしてよ〜!
どんどん笑いが苦しくなっていく中、気が付くともう中庭を抜けるところまで来た。
あれ?最初の仕掛け、ここじゃなかったっけ?
そう思ったときだった。
ガサガサガサガサ!と辺りの草が揺れ、その中から何かが出てくる、と同時に上からも何かが飛んできた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「おっと。」
気がゆるんでいただけあって、構えていたにも関わらず叫び声を上げて金久保先輩にしがみついてしまう。
すると追い討ちをかけるように後ろから肩に手をかけられ、さらに目の前に何かが降り立った。
よく見ると、後ろにいるのは狼男、目の前にいるのは吸血鬼。
共に全身血まみれだ。
「ひゃぁぁぁぁぁ!!」
またも悲鳴を上げてしまう私を見て、目の前の吸血鬼が堪えかねたように吹き出した。
「あははは!先輩驚きすぎですよ!」
「!!その声、梓くん!?」
「はい。」
「後ろの狼男は小熊くんかな?」
「は、はい!
金久保先輩気づいてたんですか!?」
「ふふっ」
「さすが金久保先輩…
と、言うか先輩驚いてました?
私、自分ばっかり驚いてたような…」
思い返せば自分のことに必死で、金久保先輩の反応を確認するのを忘れていた。
「はい。なんとなく予想はしてましたが、金久保先輩は凄く平然としてましたよ。」
にも関わらず、どこからともなく飛び降りてきた梓くんはきちんと私と金久保先輩の反応を確認していたらしい。
「あれ、これでも驚いてた方なんだけどな?
それより梓くんはどこから飛び降りてきたのかな?」
「そこの掃除道具なんかを仕舞ってある倉庫の上からですよ。」
「あんな高いところから飛び降りたの!?」
さらりと言ってのける梓くんにすかさずツッコむ。
「その方が吸血鬼っぽくてリアルじゃないですか。」
「た、確かに凄くリアルだったけど…」
「うん、梓くんも小熊くんもよく似合ってるね。」
金久保先輩、そこですか!?とは思ったものの、確かに2人ともよく似合っているので言い返せなかった。
梓くんは真っ黒なタキシードにマント、口には長い牙。
それに梓くんのアメジストの瞳と髪がすごく似合っている。
小熊くんは少し破けたりしているスーツに耳の生えたモフモフの帽子、そして尻尾。
何というか…
「可愛い…」
狼男と言うより子犬もを連想してしまう姿の小熊くんの頭を、思わず撫でてしまう私。
「ふぁ!可愛いって…」
「あ、ごめん!つい…」
「ついって〜!」
泣き出しそうな小熊くんに苦笑。
そして金久保先輩に肝試しの説明をしながら、私たち4人は足を進めた。
「へぇ、肝試し。
ということは、残りの3人もどこかに潜んでるってことかな?」
「はい。あれ、でももうすぐ着いちゃうのに…
まだかな…?」
そうこう言っている内に、目的地である食堂が見えてきた。
そして結局3人が出てこないままに食堂の前…
「着いちゃいましたね…」
と言う小熊くんの言葉と同時に、閉まったままの食堂の扉の前で立ち止まる。
「う〜ん、どうしようか…」
予想外の展開に悩んでいると、辺りの灯りがすべて消えた。
「きゃっ!?」
「わ!」
何も見えなくなるほど真っ黒になり、これにはさすがの金久保先輩も驚いたようだ。
私も思わず短い悲鳴を上げる。
と、次の瞬間後ろから手首を掴まれた。
「きゃぁぁぁぁ!」
「うわっ!」
小声だった悲鳴が大きくなる。
金久保先輩も手を掴まれたのか驚きの声を上げるが、私の悲鳴にかき消された。
振り返れば…
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
闇夜に私と金久保先輩の手首を掴む腕だけが浮かび上がっていた。
腕は肘の少し下部分でバッサリと切れている。
………ように見えた。
「あ、あれ…?」
けれど、目が暗闇に馴れてくると真っ黒のマントに真っ黒なフードが見え始めた。
………人?
どうやら腕だけが出るようにマントを羽織って、その中からライトで腕を照らしているらしい。
「だ〜れだ!?」
私は好奇心にかられて、思わずその人のフードを脱がした。
「!!」
「宮地くん!」
そこにはいきなりフードを取られたことに驚いている宮地くん。
「ビックリさせないでよ、もぅ〜!」
「いや、肝試しだからしょうがないだろう…」
「あ、そっか…」
「でも今のは僕もビックリしたな。」
「ですよね!宮地くん気配消すの上手すぎ!」
「む…それは喜ぶべきか?」
そんな会話をしている途中、宮地くんに後ろ手に何か渡された。
(??)
「あれ?木ノ瀬くんと小熊くんは?」
宮地くんに渡された物を気にしつつ、金久保先輩の言葉で辺りに目を向ける。
と、確かにさっきまで居たはずの梓くんと小熊くんの姿がない。
「ホントだ!さっきまで居たのに…」
口ではそう言いつつ、意識は後ろ手で持っている物に集中させる。
すると、その大きさや形であるものに気が付いた。
(あ!なるほど!
よかった、金久保先輩にはバレてない!)
すかさず宮地くんにアイコンタクトを送ると、宮地くんもそれに気付いてくれて軽く頷いた。
そして、これまたアイコンタクトで食堂の扉を指定される。
「金久保先輩、ここが私が連れてきたかった場所です。」
「食堂?でも真っ暗だよ?」
「大丈夫です。中に入ってください。」
宮地くんが扉を開け、金久保先輩に入るように促す。
金久保先輩は少し不思議そうにしながらも中に足を踏み入れた。
真っ暗でなにも見えない食堂。
いきなり明かりがつけば、
パパン!パン!パン!
クラッカーを鳴らす合図。
「「金久保先輩、3年間お疲れ様でした!」」
驚いた表情の金久保先輩の正面で、包帯ぐるぐる巻きの犬飼くんと、カボチャの被り物をしていて顔が見えないが多分白鳥くんが、待ってましたと言わんばかりにそう言い放った。
金久保先輩の隣では、先ほどまで一緒にいた梓くんと小熊くんもクラッカーを割っていて、もちろん私と宮地くんも金久保先輩の背後でクラッカーを割った。
「これは…」
金久保先輩はまだイマイチこの状況を理解できていないらしく、呆気にとられている。
「へへ、驚いてくれましたか?」
金久保先輩は冷静で、あまり驚いた表情を見せない。
だから、今の金久保先輩の反応が嬉しくて、思わずそう聞いた。
「うん、本当に驚いたよ。
でもこれは一体?」
「弓道部を引退された、金久保先輩の送別会です。」
「送別会?」
梓くんが簡潔にまとめて説明するも、肝試しからの送別会、と言う流れに納得のいかない様子の金久保先輩。
「送別会だからってしんみりした空気になるのは嫌じゃないですか。」
「だから肝試ししようって話しになったんですよ!」
「いや、肝試しはお前らがしたかっただけだろう。」
それらしい理由を並べる犬飼くんと白鳥くんに、宮地くんが突っ込む。
その様子に、私と金久保先輩は顔を見合わせて笑った。
「とりあえず金久保先輩、そういうことなんで席について下さい。」
「ふふ、分かったよ。」
こうして始まった送別会はとても賑やかで、そのノリから私も超ミニスカートの魔女コスチュームを着る羽目になってしまったのだが…
ともあれ、最後までみんなで楽しく金久保先輩を弓道部から送り出せたのだから、それでチャラにしてやることにした。
みんな笑顔で、前に進むために