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□垂り雪(後編)
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「お疲れ様、どっちが勝ったの?って…聞くまでもなかったわね」


マーモンを小脇に抱え談話室に戻って来たベルフェゴールは、ぜいぜいと肩で息をしながらVサインをすると、暖炉の前に用意してあったクッションになだれ込む。
ルッスーリアはキッチンへと向かい、準備していたものを手に戻って来た。


「はい、マモちゃんもお疲れ様」


差し出されたレモネードから立ち上る熱々の湯気。


「…随分用意がいいね」
「そりゃ終わるの待ってたんですもの」
「ルッスーリアは僕が負けると思ってたんだ…こんなナリだからベルみたいな子供にすら勝てないって笑ってたんだろ」
「天下のアルコバレーノ捕まえて、私がそんな事思うはずがないじゃないの。まぁベルちゃんが勝つだろうなと思ってたのは否定しないけど」
「どうして…」




そうねぇ…と、頬に手を当て暫く考えた後、ふっと微笑んだ。




「気合いの問題ね」
「ムムム、そんなの僕だって」
「ベルちゃんはどうしても勝ちたかったの。何故だかわかるかしら?」
「………」
「食事を摂って欲しかったのよ、貴方の身体が心配で」


自分の事を話されているにも関わらず、クッションに顔をうずめたまま動かない所を見ると、激戦が余程疲れたと見える。
眠ってしまえば只のあどけない子供。
残虐性の欠片もない。
ルッスーリアがそうっとブランケットをかけると、微かに身じろいだものの顔を上げる事はなかった。


「でも…だって…」
「わかるわよ、マモちゃんの言いたい事も。でも不摂生のせいで勝負に負けたのも事実よ」


もしこれが本番の戦闘だったら、解呪以前に命を落としていたかもしれない。
そんな初歩的な事を失念する程に余裕がなくなっていたのは確かに自分の落ち度。それは認める。




認める…けど。




レモネードの湯気を揺らす溜め息と共に、普段心に重い蓋をして絶対に悟られないようにしている想いが溢れ出た。


「でもこの姿じゃ…何も出来やしないんだ…っ」
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