Main(PC用)

□湖月の落涙 vol.1
1ページ/3ページ


雨が降ればいいのにと思った───。


大抵の任務は独立暗殺部隊の名の如く、単独で遂行される。
だが各分野が入り乱れるような大規模な作戦ともなれば、稀に合同で動く事もなきにしも
あらず。
この日、普段がさつな連中が集うヴァリアーの陣営には、無事に作戦が終了した事で
気の抜けたボンゴレの若者達が、焚火を囲んで愉しげに談笑する声が響いていた。

雨さえ降ればあの耳障りな声を聞かなくて済む。

そんな事を思うスクアーロの頭上に輝く蒼白い月。
人がその心にどんな想いを抱えていても、月は平等にそれらを照らす。
純粋なものでも。
邪まなものでも。
そんな月光に偽りの平静を暴かれるのを嫌ったスクアーロが陣営を離れ、森へと分け入って
行く姿に気付く者などいない。
けれどただ一人。
緋色の瞳だけがその背中をじっと見つめていた。




 *・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*




闇に生きる者すら声を潜める存在が獣道を歩く。
夜目が効く為、灯りなど必要ない。


「何処まで行った…ドカスが」


XANXUSが更に奥へ進むと微かに響く水音が耳をくすぐる。
音に誘われるように向かった先には月光を浴び仄かに光る湖があった。
空に浮かぶものと同じ月が湖面に映り込む幻想的な景色。
その水面が盛り上がり銀波が岸を濡らした瞬間…湖月が実体化し、美しい裸身が月映えの
下に晒された。


「何してんだてめぇは」




その声にはっとし、振り向いた勢いで銀髪から滴が飛ぶ。




「ボス…何でここに」
「質問していいのは俺だけだ。何をしているのかと聞いている」
「何って…見りゃわかんだろ、水浴びだぁ」


野営用の簡易的な陣営とは言えシャワーの設備くらい整っている。
何処から敵が襲って来るかもわからない湖で、無防備な姿を晒してまで水に浸かる
必要性など何一つないのだ。
濡れて銀髪の張り付いた肌に刺さる軽蔑の視線にバツの悪そうな表情を浮かべ、一緒に
どうだ、と心にもない誘いを口にしたスクアーロとの距離が縮まる。

波が打ち寄せるギリギリの所まで近寄り、XANXUSは足を止めた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ