君と私

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「そうだ、シンジ。せっかくドンカラスに進化させたんだ。
次はヨスガジムなんてどうだ?あそこは確かゴーストタイプだったはずだ。
悪タイプのドンカラスにはいいと思う。エレブーも
フワランテがいるから電気タイプで有利。だが、誘爆には気をつけろ。
最後は雷がいいだろう。もう一体はマニューラ。悪も氷もあるから
予備としてもいいだろうし、プレッシャーで相手のパワーポイントを減らせる。
催眠術対策としてもいいと思うんだ。どうだ、シンジ。」

「よく知っているな。」

「コンテストで手合わせしたことがある。だから手持ちポケモンなら知っているんだ。」

「そこにするか。」

「じゃあ、リザードン。ヨスガまで飛んでくれ。」






遠いヨスガまで飛んだ。

やはり、ヨスガは人でにぎわっている。






「人は好まん。」

「さっさと終わらせるぞ。」

「了解。」




ポケモンセンターに着き、ポケモンを送ってもらう。




「兄貴、エレブーを送ってくれ。ヨスガシティで使うのもあるが
ノモセジムに向けて調整がある。」

『ノモセかぁ。確かにエレブーの出番だな。そうだ、サトシ君が来たよ。
例の、ボルテッカを使うピカチュウのトレーナー。彼は面白いね。
気に入ったよ。』

「兄貴には合うかもな。」

『今日、コボルバッジを手にしたよ。』

「トバリジムなら誰でも勝てるさ。」






そのとき、回線が切れた。





「どうしたんだ。」

「回線が切れた。」

「電波がおかしい。ルカリオがそう言っている。」

「トバリで何かあったのか。」

「そうだろうな。」

「エレブーじゃないだろうな。」

「エレブーはさすがに違うんじゃないか?」

「隕石…。」

「それもないだろう。……まさか、奴ら…。」

「?」




ルカは外を見る。






「ギンガ団…。」





その言葉には怒りが込められていた。

目もいつもより鋭くなっている。

シンジは初めて聞く名前に疑問しか出なかった。





「ギンガ団、とはなんだ。」

「…!お前は、知らなくていいことだ。」

「!?なんでだ!?」

「妾は…。」





そこで一回言葉を切った。

シンジも黙る。





「妾はお前を巻き込みたくはない。失いたく、ないんだ。」





その目は鋭さは無くなり、悲しみが溢れていた。

シンジは何も言えなかった。

言ったとして、何を言っていいのかがわからなかった。

すごく腹が立つ。

何も言えない自分に。

何も知らない自分に。

そして、抱きしめて不安を和らげることも出来ない自分に。

少女は腕を抱きしめるようにして震えている。

何故、自分はただ見ているだけなんだ。

何もしてやれない。

シンジは目を逸らした。

弱った少女を見ていたくはなかった。





「妾は、弱いな。」

「……。」

「誰かを守るどころか自分さえも守れない。妾は今迄何をやってきたんだ。
強くなるために、大切な者を守るために強くなったんじゃなかったのか。
こんなことなら、もう何もいらない。ずっと一人の方がマシだった。
妾など、いなくなった方がマシだ。こんな思いをするくらいなら死んだ方がマシだ!」

「…っ!」




シンジはルカを叩いた。





「……妾は、一人でなければ、いけない。誰かといてはならない。
母上と父上の言った通りなんだ。妾は出来損ない。生まれてはいけなかった。」

「本気で言っているのか。」

「……そうじゃないか。妾の存在価値はなんだ。チャンピオンになって
何を得たというのだ。何が出来たというのだ。お金に地位。
それだけじゃないか。全て失った。何も残ってなどいない…。」

「生まれてはいけなかっただと…。全てを失っただと…。
本気でそんなくだらないことを言っているのか。」

「あぁ。」

「じゃあ、俺はどうだ。俺はお前の傍にいる。これでも失ったというのか。」

「本心、妾を利用しようとしているのだろう。」

「俺が一言でもそう言ったか?」






目を逸らして自分の手を見る。





「口に出さずとも、本心ではそう思っているんだろう。
もう、いやだ。裏切られるのはたくさんだ。」

「……馬鹿だな。」

「妾は馬鹿だ。何を救われようとしているんだ。」

「救われて何が悪い。」

「……。」

「なんでも背負いすぎだ。だからそうなる。俺に話せ。
俺は、お前が生まれてきてよかったと思っている。
傍にいれることを嬉しく思う。お前が出来損ない?違うな。
そいつらの目は節穴だ。そいつらこそ出来損ないだ。
お前が俺を信じれないというならそれでもいい。だが、俺は傍にいる。
何を言われようと、傍にいる。存在価値が無いなら俺のために生きろ!
それがお前の存在価値だ。俺がお前の存在価値になる。」

「シンジ…。」

「救われて何が悪い。助けて欲しいなら助けて欲しいと言ってもいい。
それでも、誰も救いの手を差し伸べてくれないのならば。」





シンジはルカに右手を出した。





「俺がいつでも差し伸べてやる。だから、もう一人で背負うな。」





ルカの視界が歪む。





「お前は、」

「(これは何だ。この感情はなんだ。)」

「もう、」

「(視界が歪んでいる。何故だ。何故…。)」

「一人じゃない。」

「(涙が、止まらないのだ?)」

「来い。全部受け止めてやる。」





ルカはシンジに抱きついた。

嗚咽を飲み込み、涙を流して必死に縋り付く。

目から、大粒の涙が出てくる。

シンジは、うっすらと笑みを浮かべて抱きしめる。

今なら言える。





「妾は…。」

「俺は…。」

「「お前が好きだ。」」





その後も、涙を流し続けていた。

シンジは暖かく、優しい目で腕の中の少女を見つめた。
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